夢主の名前
番外
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
陸遜にとって女は必要な存在なのか、よくわからなかった。自分に媚び言い寄ってくる女を見るたびくだらない遊びに投じ淫らに身体を売りつけてくる汚らわしいものとしか思えてならなかったのだ。
いつかは自分も妻を娶り子を作り一族を存続させていかねばならない。そうはわかっていてもどの女にも興味が湧かなかった。決して男色というわけでもない、ただどんな女性にもある雌の部分を見ると気が萎えるのだ。
孫権や周瑜から女性を紹介されても手を出す気にはなれず、陸遜はただ只管に職務を全うするばかりであった。
しかし蜀を訪れ夢主と出会い陸遜の世界は変わった。あの人の視線の先にありたい、自分のことを見て欲しい。彼にとってその感情は生まれて初めて得たものだった。
「好き…?違う、私は彼女を…」
愛している。そうだ、私は彼女を愛しているのだ。
しかしこの気持ちをどう表現すればよいか、戸惑った。今までまともに女性の相手をしたことがなかったのだから当たり前であろう。ただ胸に手を添えると異常に脈打つ心臓が早く早くと急かすのだ。
周りの視線を攫いながら陸遜は走り続けた。ただ夢主を求めて。
「あ、あの…!」
「ん…あれ…貴方は、陸遜殿?」
名前を呼ばれた瞬間顔が熱く酸素を取り込む余裕がなくなってしまう。これが愛ならばどれほどの人がこの辛い試練を乗り越えてきたのだろうか。喜びとも苦しみともわからぬものが込み上げてくる。一目見たとき身を貫いたそれをも遥かに超える激痛は、何とも心地が良かった。
「その…挨拶にとお尋ねいたしたのですが、少々よろしいでしょうか?」
「あぁ、全然構いませんが、態々こんな一兵に呉の方から挨拶をさせるなど申し訳ありません」
「いえ!私の個人的な行動ですから、どうぞお気になさらず」
「…陸遜殿は良いお方ですな。私なんぞまでにご配慮をしてくださるなんて」
歯がゆい賞賛を受け思わず嬉しいと陸遜は思ってしまった。ほぼ初対面の相手にこれほど気を許してしまうなど自分でも考えられなかった。けれど事実陸遜は夢主の言葉に心を弾ませてしまった。
風が陸遜の熱さを奪う。柔らかな空気一つに頬が緩み、乾いた心を潤す。夢主に想いを重ねていくのが手に取るようにわかった。
「ずっと貴方にお会いしたかったのです」
「私に、ですか?」
「はい」
驚いた顔をして夢主は陸遜を見た。
その目には今私だけがいる。そう思うと信じられないほどの興奮と快感が広がった。あぁ、この人はなんという薬なのか。自分を狂わせ淫らにさせたいのだろうか。
そして陸遜は思った。彼女が自分を抱いて愛でてくれれば、自分はどれほど壊れてしまうのだろうかと。玩具となり手足をもがれようとこの人のためならどんなことでもできる。
狂気の波が陸遜の体を這う。けれど気持ちの良いそれに彼自身は危険さを微塵も感じなかった。
「夢主殿、宜しければ私とお話いたしませんか?」
この先私と貴方がどうなるかを、永遠に。