本編
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「郭嘉殿、いらっしゃいますか」
執務室の扉を叩いて声をかけるものの返事はない。申し訳ないと思いつつもこのまま帰るというわけにもいかないので少し扉を開いて中の様子を確認してはみるが人がいるようには見えなかった。
仕方がないなと名前は郭嘉を探そうと近辺を歩いてみることにしたが郭嘉について良い噂はあまり聞いたことがなかったため遊び惚けているのかと思うと荀彧や文官たちは苦労するだろうなと少し同情してしまった。
郭嘉の戦における功績については嫌でも耳に入る、卓越した才を持ち鮮やかな手並みで軍を動かしその笑みは勝利の確信を常に持っていた。戦場に身を置いていた名前も遠目に彼の事は見ていたし曹操の傍に居た頃も彼のことを高く評価する曹操の口ぶりから素晴らしい御仁なのだろうと思っていたのだが、それらのこと以外では中々に奔放な様だという。
酒と女人を愛し遊び歩くことも多くそれらを良く思わないもの達もそこそこいるだとか。
規律や模範的な行動を重んじる軍人からしてみれば郭嘉の様はだらしがないだろう、しかしそれを認めてもなお手に余る才があるため曹操は咎めようともしなかったが郭嘉を推挙した荀彧はこれに頭を悩ませていた。
名前を遣わせたのはひとえに郭嘉が女人に対して甘いということも加味したうえでのことだと名前も薄々感じはしたが自分のように女っ気のないものにまで手を出すほど彼も暇ではないだろうと適当に考えていた。
「まぁ、郭嘉様ったら」
おや、と自分の探してる人物の名前が聞こえ名前は女官の声に耳を傾けた。女官の艶のある声からして異性と睦まじく話してるのはほぼ正解とみえる。
「私はいつだって本気さ、貴女のような方ともっと語らってみたいのだけれど、私のために時間を作ってもらうことはできるかな」
名前は額に手を当てて悩んだ。これはよくにいうナンパというやつではなかろうか。
現代ならともかくこの時代にもこういう人間はやはりいてそういう人間こそモテるのだとまざまざ見せつけられているがここは職場なのだからもう少し節度を、と思う文官らの気持ちが名前は痛いほどわかったものの自分にも仕事がある。今ここで適当な仕事をするわけにはいかないと腹をくくり彼らに近づいた。
「郭嘉殿でいらっしゃいますね」
「おや、貴女は…」
「こちらに配属された名前と申します。盛り上がっている最中で申し訳ありませんが荀彧殿からこちらを、と」
女官は現場を見られて恥ずかしいのか慌てて顔を隠して去って行ってしまったが名前からしてみれば好都合である。女官にも申し訳ないが仕事が終わってから幾らでもそういう秘め事に勤しんでくれと名前は思うしかなかった。
「あぁ、貴女は曹操殿や曹丕殿のお傍に仕えていたね。まさかこちらに貴女が来てくださるなんて」
「そんな大層な者ではありませんよ。できることもほぼ雑務しかありませんし」
「ふふ。そう謙遜しなくても、貴女がいるだけで執務の効率がとても良くなりそうだ」
目を細めて笑う郭嘉に名前は正直たじたじであった。こういった部類の人間とはそもそも縁がなかったし、そのルックスと口ぶりからは女官が囃し立てるのも頷けはしたが仕事をしたい名前とでは根本的に食い違っていた。
「ええと、ともかく、こちらの書簡に目を通していただけますか」
「あぁ、もちろん。態々すまないね」
「お気になさらず。もしお力になれることがあったら遠慮なく申し上げてくださいね」
「では早速だけど少し手伝ってほしいことがあるんだ。執務室まで来てもらえるかな」
書簡を手渡しそそくさと立ち去ろうとしたがそれを郭嘉は許さなかった。穏やかに笑っているが彼の腹の内はわかりはしない、名前は方便上力になれることがあればと言いはしたがすぐに助力を求められるとは思っていなかったため少し固まった。
「それはどのような仕事で?」
「貴女の身の上について少し聞いてみたくてね、せっかく同じ職場で過ごすのだから親交を深めるには語らいも必要だろう」
「…それは仕事ではないのでは…」
「一応私は貴女の上司ではあるのだから私がこれは職務だと言えばまかり通るのではないかな」
「中々なこじつけかと…」
思わず名前は呆れてしまうほど郭嘉は下心を隠す気がまるでなかった。むしろ面白い御仁だなと思えてしまったのは呆れを通り越した故なのだろうか。しかしこの様子だとただでは返してくれるとは到底思えない。
「では執務がひと段落したら城下で酒でも慎みながらその手の話でもしましょうか」
「おや、いいのかい」
「私も郭嘉殿の話には興味はありますので」
「嬉しいな。まさか貴女のほうから誘ってもらえるとは」
なんだかその言い回しでは自分が郭嘉に下心を持っているようではないかと思いつつ多分この人にはそういっても通用しないなと悟り早く仕事を終わらせようと彼を諭すことにした。