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郭奉孝にとって現在の状況は一人の女性を心底愛しその女性からも愛を捧げられ何一つ淀みのない順風満帆な人生と言っても過言ではない、と思えていた。
事実他人からも今の郭嘉殿は以前よりも随分と幸せそうだと口をそろえて言われるほどなのだから間違いはないはずであった。
しかしここに至ってとある問題が浮上することとなる。それはというと、名前の酒癖の悪さだった。
郭嘉とて酒は慎む、常人よりも飲むであろう郭嘉にとって別段酒に対して嫌悪的は基本的に皆無でありむしろ酒を酌み交わし相手と語らうことを良しとしていた。名前とも盃を酌み交わし互いの事を話したことがきっかけで仲を深めたし曹操や臣下らともそうして交流を深めて来たのだが今回は名前の酔い方に問題があって郭嘉は頭を悩ませていた。
「(しかしあれほど大胆になるとは…本人の自覚がないであろうところが鬼門だけれど)」
それはここ最近の出来事であった。
名前は顔が広いため酒の席に誘われることはそこそこあった。とはいえどその都度自分であったり荀彧であったり、誰かが酒の量は控えるよう隣についてやるというのが暗黙の了解だった。
女である名前を泥酔させて家屋に連れ込み強姦でもされては…と心配しての行いでありそれは郭嘉と婚姻関係に至る前から親交のある人物らの間でそれとなく配慮してきたことであった。しかし郭嘉の妻となった後の周囲は郭嘉がいるから大丈夫だろうと勝手に思い込み郭嘉も少し目を離した隙にとんでもない事態になっていたのだからまあ驚いたものだ。
宴の最中に両脇に女を侍らせて飲んでいたのを見た際には思わず愕然としてしまった。デロデロに酔っぱらった名前は女が異常に近かろうが気にも留めず女の方も名前の顔を見てうっとりとしているのだから一瞬幻かと疑ってしまうのも無理もないだろう。
名前は愛想がいいし顔立ちも中性的だ、女に好かれることなどないわけではないと理解はできたものの実際その光景を見た際には郭嘉も間抜けな顔をして口をあんぐりと開けてしまった。
同性同士なのだから何も問題ないのでは、と思っていたかったがそうもいかないほど女官の顔には艶があったのを見るともはや嫉妬云々と言うよりも心配が勝ってしまったのは言うまでもない。曹操からも憐れむような目で見られ曹丕からは「あやつがああだと知らずにいたか。苦労するであろう」とこれまた同情されてしまう始末である。
自分が思っていた以上に好かれる名前の様を見て郭嘉は夫婦としての在り方について今一度考えねばと頭を悩ませているのだが聞くところによると満寵らもああした光景はそこそこ見慣れているらしい。名前からして見れば女性に好かれて悪い心地はしないだろう、それが友愛であれば郭嘉とて何ら困ることもない。しかしあからさまな下心のある相手を受け入れ過ぎなのだ。しかしそのことを名前に問うても泥酔し過ぎて記憶が飛んでいるようで覚えていないと言われてしまうと手の施しようがなかった。酒を飲むなとは自分の立場上言いにくい、だからといって毎度酒の席で彼女の隣に居れるかと言われたら多忙な郭嘉にとっては難しいものであった。名前もあくまで酒に飲まれないようにと気を使っているらしいがこの時代の酒がそもそも強いので耐性のない名前は煽てられて飲んだ酒でべろべろになるなんてことはそこそこあるようだ。
こうなってはもはや実力行使、多少偏屈な策であろうとやるしかないと郭嘉は腹をくくった。
「というわけでお二人に力を借りたいのだけれど」
「はぁ…しかし俺たちにできることなど早々…」
「名前殿に禁酒していただくような策でもおありで?」
荀攸と満寵は郭嘉に話を持ち掛けられて気の毒に、といった顔をしていたものの名前の酒癖については思うところがあるようで力を貸そうとはしてくれているものの具体的な解決策があるのか些か疑問であった。
「私も人並み以上に飲むからね。止めろと言っても説得力がないし、かと言って酒の席に毎回同伴できるほど互いの時間があるわけでもない」
「ここ最近は郭嘉殿も名前殿も忙しそうですからね…社交辞令とは言えど酒を飲む機会が増えて名前殿も大変でしょうし」
「私の仕事の一端も担っている上に外交でよく外に出ているから仕方のないことだけれど、見過ごすわけにもいかないだろう」
「まぁ…確かにあれは見過ごしていられないでしょうね。郭嘉殿にとってはより一層」
他人といちゃついてるのを黙認などできる男ではないことぐらいよく知っているし名前だってわかってはいるのだが、気前がいいというのか優しすぎるというのかとにかく来るものを拒まない彼女の姿は伴侶としては許しがたいものに相当した。
とはいえど郭嘉が妾を持たず純粋に一人の女性を愛しここまで手を尽くそうとしている姿には中々不思議なものがあるなと二人は改めて思った。あれほど女遊びが激しかったにも関わらず今では過去の奔放さは鳴りを潜め良い夫としての顔の方がまず浮かんでくるのだから人とはこうも変わるのかと感心するばかりだ。
「それで、どのような方法を用いるのでしょうか?」
満寵は興味津々と言った様子で問いかけると郭嘉はにっこりとそれはもう満面の笑みでとんでもないことを言い出したため二人は目を丸くして驚いた。
そして思うのだ、あぁ、この夫があってあの妻がいるのだなと。
「久方ぶりですね、こうして飲むのも」
「そうだね。名前殿、体調は大丈夫かい」
「少し酒が抜けてなくて頭は痛いが…二人にどうしてもと言われたら断れないからな」
「無理はしないほうがよろしいのでは?」
「無理と言うほどではありませんよ。それにここ最近諸侯の方々と酌み交わしてばかりだったので、親交のある二人と飲めるのは気が楽で…息抜きぐらいしたいですしね」
名前は少し疲れのとれぬ顔をしていたものの酒を飲むこと自体には抵抗を感じ得なかった。曹操から頼まれて酒の席に同伴して回ったためかむしろ二人と気楽に話していたいと思っている名前の信頼とは裏腹に今から起こる事柄を思うと何とも気まずいものがあったが郭嘉の頼みとあっては断ることもできず、ましてや郭嘉の苦悩を取り除くためにはこうでもしないともう手がないのではないかと思ってしまった以上引き下がることなどできようか。
「しかしお二方が薦める店なんて、楽しみですね」
とても眩しい笑顔をこちらに向ける名前を見ると思わず目を背けたくもなったがぐっと堪えて愛想笑いを浮かべながら店まで足取りが重いような気持になりながら二人は歩いた。
店自体には特別豪華というわけでもなくむしろ質素だ。
しかしこれぐらいの空気感の方が気楽なのは事実、店主は笑顔で奥まった席へと案内し名前の後ろを歩く二人に視線を向けた。
作戦はもう始まっているのだと察した二人は時が来るまであくまで穏やかに談笑をしようと弱い酒とつまみを頼むと席に腰掛けた。
「落ち着くなぁ…こういうとこで呑む方がやっぱり楽しいな…」
「俺たちはこうしたところで事足りますからね」
「背伸びしないで盃を酌み交わせるのは本当に助かるよ」
「ふぅん…満寵も背伸びをする時なんてあるんだな」
「一応私もそれなりの立場の人間だからね、気は使うし色々と苦労しているんだけれど」
「満寵殿は普段とそれほど変わっているようには見えませんから」
「おや、荀攸殿は意外と辛らつだな」
「荀攸殿に同意見だな」
「名前殿までそういうことを言うのかい」
ケラケラと笑う名前はやはり酒が入っているのかいつもより表情が豊かだ。あどけない顔をしている姿など普段では想像もつかずこんな顔を見たらそりゃあ惚れる輩がいても可笑しくはないなと思うわけで、それを以て女性を無意識的とは言えどたぶらかしているのだからなんという女であろうか。
弱い酒と言いつつも会話が弾むと飲むスピードも速まり1瓶など軽く捻ってしまったものの名前の顔が次第に緩み目が蕩け始めると品を運んでいた女人は名前の隣に大胆にも座りぐいぐいと話しかけてきた。
「名前様はまたここに来てくださる?」
「ええ。とても素敵な場所ですから…それに貴女のような方を見ながら酒を呑めるなんて、愉しくて仕方がないでしょうし、ね」
「もうっ、ずるいわ!私だけを見てくださるわけではないのでしょう」
「まさか、貴女しか見えていないよ。私が嘘をついてるように見えますか…?」
「名前様ったら…私にそこまで言わせる気ですか…!」
目の前でやり取りを見ていたあぁ始まってしまったと二人は頭を抱えたくなった。確実に口説いている、しかし本人には自覚がない。そして何よりの昔の郭嘉にそっくりなのだ。悪い影響を受けたと言うべきなのかは定かではないが郭嘉に似てしまったと思って間違いはない。しかもこの女性も仕掛け人ではあるのだが満更でもないのだ、むしろちょっとどころかかなり本気にしそうな勢いだと二人はそわそわしてきたが妙なことを言って名前の意識が他のところに持っていかれるとそれはそれで困るのでいちゃつく二人を眺めていたがきっと郭嘉もこれを見ているのだろうと思うと冷や汗が止まらなかった。
「ねぇ、名前様…少しだけ時間を私に下さる?」
「私でよろしければ…と言いたいんですが、生憎お二人と飲みに来ているので…」
女性がチラリとこちらを見たことで合図だなと察した二人はさも気にしていないと言わんばかりにフォローし始めた。
「構いませんよ。俺たちはここでもうしばらく呑んでいますので」
「終わったら合流すればいいさ。女性を放っておくなんて君にはできないだろうしね」
「ねっ、行きましょう名前様」
強い力で女性に腕を引かれておぼつかない足取りで名前は連れていかれてしまうものの二人はひとまずほっとして後のことはあの御仁に任せようと酒をちびちびと飲みながら談笑することにした。
「ここで少し待っていてくださる?私の知り合いに名前様にお会いしたいという方がいらっしゃって、どうしても会っていただきたいの…」
「私に、ですか?もちろん大丈夫ですよ、ご友人なのでしょう。そんな顔をなさらないでくださいな。私は断りませんから」
「まぁ!ありがとうございます…!」
女性は嬉しそうに笑みを浮かべながらそそくさと個室から退室した。連れてこられて愛想よく答えたものの酔いのまわった名前は少し疲れたのか彼女の足音が遠のくと体を横にして少しだけ目を瞑った。
「(まずいな…このままでは眠ってしまいそうだ…)」
連日の酒が抜けきっていない上に今日もそこそこ飲んでしまったせいで名前の意識はかなりぼんやりとしていたものの睡魔に抗うにはあまりに心地よく思わず体の力が抜けて手招きされた眠りに従順に従う他なかった。
名前が横になると服が擦れる音が聞こえたものの彼女の耳にはもはや聞こえるはずもなく、扉を開ける音すらすり抜けていった。
「あまりに無防備過ぎると思わないのかな。貴女のその顔は私だけのものだろうに」
顔にかかった髪を細い指先で払うと眠っているとはいえど酒に絆されて蕩けた顔をした名前が居ることに、酷く心を揺さぶられると同時に強い嫉妬心にも苛まれた。あの女人は見てはいないだろうがこの幼稚でしかし愛らしい顔は私だけのものだと言い続けてやりたいと頬を撫でるとそのくすぐったさから名前は身を捩りながらもゆっくりと瞼を開いた。
「ようやっと起きてくださった。私を置いて一人で眠るなんて酷いことをなさる」
「え…貴女は…」
「先ほど言っていたでしょう、会いたい方がいると。お会いできて光栄です、名前殿」
そこにいたのはそれはそれは美しく着飾った郭嘉であった。しかし名前は見覚えがありつつも彼が郭嘉であると理解できてはいない。理由は簡単だ、彼は女物の衣服を身に纏いなおかつ化粧も施している。そして被布によって辛うじて顔は見えるものの全体像がぼんやりとしているためいまいち判断に困りあぐねたのだ。
そして何よりこのような格好をする郭嘉など想像できるわけもなかったため似ていると思ったものの本人だと判断などできるわけもない、酒によって意識が曖昧なことも判断力を鈍らせたことはもちろん郭嘉も織り込み済みだ。
「す、すみません…女性の前で眠るなど」
「女性の前でなくともそのように無防備ではいけませんね。ほら、こんなに呆気なく」
身を起そうとした名前の体を力強く押し彼女の体の上に身を委ねるように郭嘉は乗りかかると流石の名前も焦ったのか彼女の体を引きはがそうとしたがそれを許さないと言わんばかりに強引に口づけられると動揺のあまり体が硬直した。
女性に口づけられて啄むように角度を変えて堪能してくるなど異常過ぎるにも関わらず咄嗟な判断ができないほど弱っていた名前の甘い顔を見て郭嘉は満足したかのように目を細めた。
口を離すと酸素を吸おうと荒い息で胸を上下させた。あぁ、なんと可愛らしいことか。屈辱的で官能的な現状に頭がついていかないのは無理もない、しかし必死に抗おうと腕を掴んでいるものの力の入らないそれでは抵抗にもなっていないのだ。女に怪我をさせまいと配慮している意図もあるだろう、それについては腹も立つが優しい彼女らしいと言えば許せてしまうのは自分が入れ込み過ぎているからそう思えてしまうのであろうか。
思わず衣服に手をかけようとした時名前は郭嘉の手首を力強く掴んで目を薄く開いてじっとこちらを見ていた。驚いて離れようとしたが名前の力は先ほどのそれとは違って確固たる意志を感じ踏み込ませないと抗っていることが伺えた。
「貴女は私の愛する人に似すぎている。でもこれ以上は駄目だ、貴女に体は明け渡せない。これはあの人のものだ」
かぁっと顔が赤く染まり沸騰しそうなほど体が熱を帯びた。名前は確かに郭嘉を見ていた、区別のつかない現状でもやはり愛してやまないのは自分であったと理解できた瞬間愛おしさが溢れてどうにかなってしまうかと思うほど郭嘉は頬が緩むのを抑えられそうになかった。
「体だけ?」
「まさか、心も、ですよ」
「…あぁ、酷い。貴女は酷い人だ。ならば私だけに縋ってくれればいいものを」
「なにを仰って」
「名前殿、もしその方が女であったとしても同じことを言えるでしょうか」
「言いますとも。性別という括りでその人を愛したことは一度もないですから、あの方だから愛した。そして愛されていたいのです、一生」
愚かな子ほど愛おしいというけれど実際そうなのだろう。この曖昧でその癖美しい女性を愛してしまったことは外ならぬ自分でそれを求めてやまない愚か者も自分だ。否定しようがない、もはや代わりなど誰にも務まるはずもない存在へと昇らせてしまったのは私なのだ。
うっとりと名前の顔を見つめながら郭嘉は色づいた唇で言葉を紡いだ。
「ならば私が抱いてもいいのでしょう」
「は、はあ…?」
「貴女の愛する人が目の前にいるのに、気づかない貴女も大概だ」
被布を脱ぐと名前は驚きのあまり声を上げようとしたがその口を塞ぐと次こそは食らってやると言わんばかりに彼女力強く押し倒し逃げ場を作らせぬよう郭嘉は指先を絡めたもののその後の名前は抵抗など一切せず全てを受け入れた。
人騒がせな二人だったと周りが言うのも無理はないほど欲望に忠実な夫婦であるともはや隠しようもないことを名前だけは知らずにいるが郭嘉はそうであり続けたいと不思議と思えてしまいつまらない日常などあり得ないとやはり笑っていた。