本編
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命からがら逃げおおせた名前は夏侯惇の軍に合流した頃には馬も人もくたくたに疲れ果てぐったりとしていたものの久々の命のやりとりに生きた心地を感じて不思議と気分が良かった。
夏侯惇は「よくあの状況から帰って来れたものだ」と感心していたが「貴方はやはり無茶ばかりなさる」と荀彧は疲れ切った顔をして名前の背を支えたが同時に名前は痛みを感じて軽く悲鳴を上げるとその様子を見た夏侯惇は「ともかく一度孟徳の下へ行き話をつけてこい、その上でしばらくは療養に専念しろ」とお見通しであったため苦笑いを浮かべつつ返事をすると荀彧に支えられながら名前は曹操の下へ向かった。
久方ぶりに見た名前の顔に曹操は驚きつつも「無事でなによりだ」と褒めて遣わすと名前は拱手し礼を述べようとしたが右の肩が痛んだため顔を歪めているのを見た曹操は「典医に見せて今は休むがよい、いずれお主の力は必要になる時が来る」と告げられ名前は面目ないと言わんばかりに頭を下げると荀彧に連れられて天幕へと足を運んだ。
「貴方の顔を見れて嬉しい反面あのようなことがあってはおちおち喜んでもいられませんね。本当に無理ばかりなさる…」
「ですがそのおかげで被害を抑えて撤退できたでしょう。ならばよしということで」
「だからといって無理をして良い理由にはなりません。名前殿には少し灸を据えねばいけませんね」
「お、お手柔らかにお願いします…」
荀彧の有無を言わさぬ物言いに尻込みしつつも名前は自分をこれほど心配してくれる荀彧に感謝せねばと改めて反省しつつ今の間は大人しくしようと心に決めるが名前の思惑以上に荀彧はあれやこれやと手を焼くので必然的に休まざるをえなかったのはここだけの話である。
しばらくして見舞いにと曹丕が訪れると久々の曹丕の顔を見て名前は目を丸くして「随分とご成長なされて…」と恐々としていると「お前は私の乳母か」と笑われてしまい頭を掻いて恥ずかしそうに笑い返した。
「聞いたぞ、呂布と対峙したらしいな」
「えぇ、おかげでこの有様です」
「さすがにやつもお前の手には余るか」
「あれをどうにかできる者など中々いないでしょう。一対一では到底適いますまい」
曹丕は名前の怪我の具合を見て意外にも呂布に食って掛かれるのではとも思ったが名前の言う通り一対一では分が悪いというのも頷けた。あれは人と言うより獣か何かだと思って対処せねばまず仕留められる輩であろう。曹丕も真っ向から勝負を挑むのは愚策だとわかりうるほどの武人だ、それに突っ込んだ名前の愚かさはもはや失笑するに値するが多少情のある名前の無事に僅かだが安堵しているのも否定はできなかった。
「何はともあれよく無事に帰ったな」
「愛馬のおかげです。あの子がよく走ってくれたおかげで私の命は存命致しましたので」
「兄の置き土産か」
兄、曹昂の愛でた馬が名前の命を救ったのだと知ると曹丕の顔にはいつもの険しさとは違う複雑なものが入り混じったように名前には見て取れた。
それが何を思い詰めてのことなのか、名前には察することができなかった。名前はこの世に来て血筋や家督といったものの複雑さを身に染みて理解はしたがそれは当人間の問題であり自分のような人間が口を出せるようなものではない。曹昂にも曹丕にも仕えた身ではあるが全てを理解することは到底できるわけもなかった。まだ若くとも聡明である曹丕が何を憂いとし何を喜ばんとするか、しかしどのような結末でも父である曹操と共にあってくれる道を進んでくれればと願うばかりである。
「長らえた命で今後は曹丕殿の危機も救えましょう」
「当てにはしていないが、お前ならば無理をしてでも私の下に馳せ参じるであろうな。その愚直さ、頼りにさせてもらうぞ」
「はっ」
怪我をしているというのにもうすでに未来のことを考えるかと曹丕は改めて名前の曹家への忠誠に感心したが彼も薄々感づいてはいるのだ。名前の思想は自分とは異なるものであることを、ただそれを矯正するつもりはない。反骨の意を持たぬ限りは重宝するであろう、それだけ名前は使い勝手が良い将であり信頼に足りる臣下なのだ。
「そのためにもまずは体を休ませろ。私が、というよりも荀彧がどうにかなってしまうだろうからな」
「そ、そうですね…荀彧殿はなんというか、私に過保護なところがありますから」
「ならば吉報もくれてやろう。郭嘉もこちらに早く来たがっていたぞ」
「それは吉報なのでしょうか…」
「ふっ、それはお前次第であろう。少なくとも身を案じるものがいることを思って真面目に過ごすことだ」
曹丕にまでこう言われてしまい「私はそんなに落ち着きがないわけではありませんよ」と返すものの「じゃじゃ馬が何を言うか」と一蹴されて名前は肩を落とした。