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2.夏の終わりに

丸井君ってこういう人だったんだ。と思いつつ、今日はもう落ち着いて練習風景を見られる気もしなくなって、私は家に帰った。

自分の部屋のベッドの上で、横になって考える。そういえば、私がテニス部の練習を見に行ってるの、初めてバレちゃったのか。しかも、全然話したこともないクラスメイトに。その上、そのクラスメイトはテニス部のレギュラーで。
「丸井君、言いふらしたりは……しないか」
どうせ私のことなんか興味はないだろう。むしろ、今頃は今日のことなんか忘れて、夜ご飯をたらふく食べているに違いない。
そう思ったらなぜか気が抜けて、私はそのままうとうとと、ねむってしまった。



「そういえば、今日……」
テニス部の部活が終わって、部室で着替えている最中、俺は練習中の些細な出来事を思い出した。
「同じクラスのやつが練習、見に来ててさ。テニスとか興味なさそうな奴だったから、驚いたんだけどよ」
レギュラーは皆揃って着替えているので、誰に向かって言うわけでもなく適当に話した。
「ほう、それは誰のことじゃ?」
1番に反応したのは仁王だった。まぁ、同じクラスだからそりゃそうか。
「んっと、椎名って奴。多分真田の大声につられて見に来たんだぜ。校内中に響き渡ってるみてぇだしな」
「あぁ、あいつか……。確かにテニスには興味あるように見えんのう。真田、もう少し声を抑えた方がええんじゃないか?」
「む……。しかし、そもそも部員が俺を叫ばせないような動きであれば、俺も声を上げる必要はないのだ」
これは説教モードが始まりそうだ、と思って俺が諭そうとすると、
「椎名さんですか?彼女なら私も知っていますよ。ゴルフ部だった時に親しくしていただいていたので」
と比呂士が言った。
「あー、そういえばそうだったな」
と言いながら、俺は椎名がゴルフ部だったことと比呂士が最初はゴルフ部にいたことを繋ぎ合わせた。
「ほー、どれくらい仲が良かったんじゃ?」
仁王はニヤリと笑って聞いた。
「私がゴルフ部にいた間しか、お話したことはありませんが……。立海に入って最初に友人と呼べる関係になったのは彼女でしたし、よく部室から校門まで話しながら歩いたりしていましたよ」
比呂士のその言葉を聞いて、仁王はますます笑って
「案外、椎名は柳生目当てで練習を覗きに来とったりしての〜」
と面白そうに言った。
「それはないでしょう。もう彼女とは長い間会っていませんし、彼女も私のことなんか忘れているかもしれません」
「それはどうかのぅ?」
「仁王君!」
仁王は制服のシャツの最後のボタンを閉めるやいなや、鞄を掴んで部室をスルリと抜け出た。比呂士は「はぁ」と溜息をつきながらその背を追った。
俺はひとり出遅れて、外で待っていたジャッカルと合流してゆっくり歩いて帰った。
「仁王の言ってたこと、実は本当だったりして」
「ん?」
「ああいや、なんでもねぇ」
何か面白いことが起こるような気がして、俺はまだ明るい夜七時の空を仰いだ。
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