このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

1.指をかける

数日経って、私と柳生君は正式にゴルフ部に加入した。もちろん他の新入部員もそこそこいたけれど、まだあまり仲良くはなっていなかった。決して友達が少ないタイプではないので、その内少しずつ仲良くなっていけばいいか、と気楽に考えていた。
実際、3年になった今思い出しても、すぐに友達はたくさんできて、充実したゴルフ部生活だった、と言えそうなものだった。しかし、いくら友達ができても、「充実した」なんていう形容詞は全くいらないような、そんな生活だったことは、言うまでもなかった。

なぜなら、柳生君がゴルフ部をやめてしまったからだ。

彼がゴルフ部をやめたのは、入部してから半年も経たなかった頃の話だ。なんでも、テニス部に引き抜かれたらしい。三年になった今では、私と同じクラスの仁王君とのダブルスが強いと評判だ。
私の方はといえば、柳生君がやめてもゴルフ部は続けていた。別に、もともと柳生君に出会ったのは偶然だったし、ゴルフにも興味があった。なんとなく続けている内に、いくつかの大会にも出てそこそこの成績を収めた。テニス部みたいに全国進出、とは行かないまでも、お遊びで終わらせていたなんてことはなかった。友達との思い出もあった。だけれど、言いえぬ欠損感は一年、二年経っても残ったままだった。そんなことをしている内に、全国進出ならずとなり、私を含む三年生は七月に部を引退した。

緑色のフェンス。ところどころその緑の塗装が剥がれたフェンス。その向こうで、彼は今も闘っている。向こうにあるのは、テニスコート。私が踏んだこともないフィールド。私が知らない世界。
いつも、フェンスの外側の端の方で、木の影に隠れて私は彼を見ていた。もはや、この気持ちが何かなんて、分かりきったことだった。
恋。愛ではない。叶わないと分かっているから。届かないと知っているから。
なぜ好きになったのか?彼とはそんなに長い付き合いじゃないのに?そんなことは知らない。ただ、彼と出会ってから彼がゴルフ部をやめるまで、私は彼と顔を合わせ、会話し、笑ったのだ。理由がそれだけじゃ、弱いのかな。
私の時間は、彼が転部した日からずっと、止まったままだ。
2/2ページ
スキ