このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

4【新たな狩人】



「なぁ、アオ」
 昼下がりのことだ。
 鷹峯はベルナ村の自宅で防具の手入れをしながら、傍らで書物を読んでいるアオに声をかけた。
「はい。何ですかニャ」
 理知的な目をしたアイルーは、本を置き、鷹峯に答えた。

 蒼世のオトモであるアオが鷹峯の家にいるのには、訳がある。昼食を取った後、蒼世は急遽龍歴院に呼び出された。何の用件だったのかは、教えられていない。伝達係のムーファから手紙を受け取った蒼世は僅かに目を細めると、「龍歴院に行ってくる」とだけ鷹峯に告げた。
 もう一匹のオトモであるメイは、蒼世に付き添って、龍歴院へ向かった。アオもついていくつもりだったが、彼はメイに比べて酒に弱かったらしく、未だに昨夜の酔いが抜けていなかった。二日酔いで頭痛に苦しんでいたアオに村に残るよう云ったのは、蒼世だった。アオは落ち込んだ様子を見せたが、すぐに気を取り直すと、蒼世とメイを送り出した。そして今は、鷹峯と共に二人の帰りを待っている。
「頭痛は治まったか?」
「はい。鷹峯さんの云う通り、水を沢山飲んだら少し良くなりましたニャ」
「そいつは良かった」
 点検の終わった防具を、机に置く。椅子から腰を上げ、床に座るアオの目の前に胡座をかいた。
「少し、質問していいか?」
「はい。勿論ですニャ」
「お前とメイは、いつから蒼世のオトモをしてるんだ?」
 その問いに他意を感じなかったのか。アオはすらすらと答えた。
「旦那さんがベルナ村に来た後ですニャ。ネコ嬢に紹介してもらって、ボクとメイは旦那さんに雇われることにニャりましたニャ」
「じゃ、三年ほど前か」
「はいニャ」
「……それまでは、蒼世はずっと一人でいたのか?」
「……わからニャいですニャ」
 アオの耳がぺたりと垂れた。どこか悲しげに、彼は目を伏せた。
「旦那さんは、昔のことは話したがらニャいニャ。どこで生まれたのか、どこから来たのか。どんなモンスターと会ったことがあるのか。そういうこと全部、必要だと考えニャい限りは教えてくれニャイんですニャ」
「……そうか」
 アオの瞳には寂寞とした虚しさが宿っていた。寂しいと、言葉にせずとも伝わってくる。
 オトモであるアオにとって、蒼世は命を預けて仕える主人だ。危険な狩りに共に出るからには、それなりの信頼関係が必要になる。蒼世と彼らの間には、すでに確固たる絆が結ばれていると鷹峯は思っていた。それは蒼世たちと狩りに出て実感したことだ。一人と二匹は、これまで多くの苦難を乗り越えてきたのだろう。
 そんな関係だからこそ、アオは蒼世が自分たちに多くを語らないことを寂しく感じているのだ。
「いつか話してくれるといいな」
 そう云って、アオの頭に手を置く。青い毛並みの美しいアイルーは、嬉しそうに目を丸くして、そして破顔した。

(蒼世、お前はどうして、ハンターになった)
 窓から見える青空に目を向ける。今はここにいない青年の顔を思い浮かべ、鷹峯は眩しそうに目を細めた。







 蒼世は怒っていた。
 腹の底からふつふつと沸き上がってくる憤怒を必死に抑え込み、平静さを装うとしていたが、それが全く意味をなさないほどに怒っていた。
 秀麗な顔を険しくし、袴の袖を振り乱しながら龍歴院の建物内を歩く蒼世。その後ろにはおろおろとした様子のメイがいた。すれ違う者はみな、一人と一匹の姿に目を留め足を止め、何事かと訝しんだ。
 蒼世の怒りの原因は、つい先程まで行われていたギルドマネージャーとの会話にあった。
 昼が過ぎた頃、蒼世はギルドマネージャーに呼び出された。急ぎ相談したいことがあるとの手紙を受け取り、メイを伴って龍歴院を訪れた。
 彼女は己の研究室にいた。
 古今東西の書物が並べられた部屋は、いつ来ても日当たりが悪かった。聞けば、それは書物を日焼けから守るためらしい。だが、普段からこの部屋にいては、気が滅入ってしまう。そのため、普段は太陽の下で古文書を読み解いているのだと、彼女は云っていた。
「ああ、アンタか。よく来てくれたね」
 穏やかに笑いながら、ギルドマネージャーは蒼世を出迎えた。椅子に腰掛けた小さな老女の前に立つ。
「相談、というのは?」
「おや、いきなり本題かい。相変わらずせっかちだね」
「無駄話は嫌いですので」
 平坦な声で云い切る。ギルドマネージャーは気を悪くした様子もなく、肩を震わせて笑っていた。
「それじゃ、話すとするかね。蒼世殿、実はアンタにお願いしたいことがある。ユクモ村は知っているね」
「……はい。勿論です」
 ユクモ村。大都市・ロックラックの東、奥深い山岳地帯にある小さな村だ。竜人族の女性が村長を務めており、美しい自然と火山がもたらす名湯を求めて多くの旅人が足を運んでいる。蒼世もかつて一度、ユクモ村を訪れたことがあった。霊峰で負った怪我の療養のためだったが、祖国に似た雰囲気の村はたいそう居心地がよく、温泉の力もあって体はすぐに癒えた。
 それは、今からおよそ三年前のこと―

「そのユクモ村が何か」
「実は最近、ユクモ村近くの渓流に住むモンスターたちの様子がどうもおかしいらしくてね。金色の雷をまとった雷狼竜を見た、という者もいる」
「雷狼竜……ジンオウガですか」
「そうだ。しかし、金色という点が引っ掛かる。もしかしたら別のモンスターか、あるいは通常種とは異なる個体か。ユクモ村の要請でギルドは調査隊を送った。結果、未発見の“二つ名”である可能性が浮上した。そのため、“二つ名”を管理する我ら龍歴院からも調査隊を送ることになった。蒼世殿、アンタにはその調査隊の護衛を依頼したい」
「……その調査は、どれほどの期間をお考えで」
「ふむ……状況により左右されるだろうが、三ヶ月といったところかの」
「……わかりました。引き受けます」
 蒼世は迷うことなく頷いた。
 タイミングが良い。これで、何の苦労もなくベルナ村を離れることができる。それに加え、三ヶ月という期間も蒼世には好都合だった。
「ギルドマネージャー、勝手ながら、その調査が終わり次第、私は暫し休暇を頂きたい」
「休暇? それは珍しいね。まぁ構わないだろう。無事に調査が終わったら、ゆっくり休むといい」
「ありがとうございます」
 蒼世は胸を撫で下ろした。
 あと四月(よつき)もすれば、蒼世がベルナ村に来て三年が経つ。その三年を迎える前に、どうしても蒼世は一人になりたかった。そうしなければならない、理由があった。

「急な話で悪いね。正式な決定が下ったのは今朝だったものだから、伝えるのが遅くなった。一週間後には、ベルナ村からユクモ村に向かってもらうよ。鷹峯殿も一緒に」
「は?」
 聞き間違いかと思った。ギルドマネージャーの口から、予想外の言葉が飛び出し、蒼世は唖然とした。
「鷹峯も一緒に?」
 呆然とした思考のまま、その一言を繰り返す。ギルドマネージャーは顔色一つ変えず、首肯した。
「そうじゃ。未知の二つ名とあっては、アンタといえども何が起こるかわからない。鷹峯殿と共に行動するのが良い」
「待って頂きたい。鷹峯もこの村を離れては、戦力が著しく落ちてしまう。それでは有事の際に対応が……」
「その点については抜かりないよ。アンタらが狩りに出てる間に、ギルドから新しいハンターを派遣してもらった。もうここについている。何か引き継ぐことがあればその者に」
「ギルドマネージャー!」
 思わず声を張り上げていた。傍らのメイがビクリと跳ね上がるのがわかった。
「私はこれ以上、あの男と行動を共にするつもりはない。なぜそこまで私と鷹峯を共にいさせようとする」
 薄い栗色の瞳に剣呑さが宿る。蒼世は己を落ち着かせるため、深く息を吐き出した。
 対して、老齢のギルドマネージャーは変わらず穏やかなままだった。憤る蒼世を静かに見詰めている。そのことが余計、蒼世を焦燥にからせた。
「蒼世殿。これは、ギルドマネージャーとしての命令だよ。アンタは暫く、鷹峯殿とパーティを組むんだ」 
「なぜっそのようなことを!」
「アンタの命を守るため」
 凛とした声が、詰め寄ろうとしていた蒼世の動きを止めた。
 蒼世の何倍もの時間を生きてきた竜人族の女性は、目を細め、蒼世を宥めた。そして、訥々と語り始めた。
「蒼世殿、アンタはどういうわけかモンスターを引き付けやすいということは、知ってるよ。それも、危険な大型モンスターばかりをね」
「っ!」
「アオからも報告を受けてる。先日も、イビルジョーは弱ってるディノバルドではなく、わざわざアンタを狙ったって。アンタは、隠そうとしていたみたいだけどね」
 息を呑んだ蒼世を見て、ギルドマネージャーは苦笑した。
「アンタは素晴らしいハンターだ。しかし、いくら実力があっても、一人で全てのモンスターを相手にできるわけじゃない。この間のディノバルドとイビルジョーの件がいい例だろう? また似たようなことが起こって、アンタを死なせるわけにはいかない。ハンターの命を守るのも、我々ギルドの役目だからね。だから、鷹峯殿と共にお行き。いいね?」
「…………」
 蒼世は何も云えなくなった。
 ギルドマネージャーの云い分は理解できる。しかし、頭ではわかっていても、全てを納得することはできなかった。
 ハンターズギルドにとって、ハンターの命を守ることは責務だ。そのことは蒼世も知っている。しかし、蒼世を死なせないために鷹峯を傍に置くというのなら、それは誤りだ。ただ単に、鷹峯の命まで危険に晒すことになる。
(事の重大さを、この人はまだ把握していない……)
 ギルドマネージャーが、蒼世はモンスターを引き付けやすい存在だと考えていること自体に、間違いはなかった。蒼世自身、生まれてからずっとそのことを痛感している。しかし、それでは認識があまりに甘かった。
 だが、それを指摘するつもりはない。
 その時だった。不意に、袴の裾を引っ張られた。顔を下に向ける。そこには、不安そうに瞳を揺らした、メイがいた。
「旦那さん、ボクも鷹峯さんと一緒がいいと思うニャ」
「メイ……」
「ディノバルドに攻撃されて、旦那さんが動けなくなった時、ボク、怖くて怖くて夜も眠れなかったニャ。旦那さんが死んじゃうんじゃないかって、ずっと怖かったニャ。だから、鷹峯さんが助けに来てくれて、本当に嬉しかったニャ。鷹峯さんニャら、旦那さんの力にニャってくれるニャ。だから、だから」
 メイの声が震えだす。その口からは徐々に嗚咽が漏れ始め、ついに大粒の涙がアイルーの頬を濡らした。
「メイ……」
 縋りついてくるオトモの頭に手を添え、蒼世は目を伏せた。
 後悔が、押し寄せてきた。
 情報を得るために、ハンターとして活動しやすいように、ギルドに所属したこと。
 一人では手が回らないことが増えたからと、オトモを雇ったこと。
 そして、鷹峯の接触を最初に強く拒めなかったこと。
 その全てを、蒼世は悔やんでいた。何もかも捨てて、もっと早く一人になるべきだったのだ。そうすれば、今のように雁字搦めになることはなかっただろう。

『傍にいさせろ。そこが地獄でも、俺は構わない』

 昨夜聞いた、鷹峯の声が蘇る。目の奥が、熱くなる気がした。蒼世は唇を噛んだ。
「……さて、そういうわけだから、出立の準備を頼むよ。鷹峯殿には、アンタから伝えておいてくれ。一週間後、集会所の広場で待ってるよ」
「……わかりました」
 もはや承諾するしかなかった。鷹峯との同行を命じられたことは業腹だが、調査が終わった後は休暇となり、ギルドの指揮下を離れることができる。その時に、鷹峯とは別れればいい。あの男はついてくると云いそうだが、撒く手段はいくらでもあった。
 いったん、溜飲を下げる。
「ああ、そうだ、蒼世殿。後任のハンター殿が龍歴院内にまだいるはずだ。会っていってほしい」
 そういえば、ギルドから派遣されたハンターがすでに到着していると、先程ギルドマネージャーは云っていた。
「どのような者なのですか?」
「会ってみれば分かる」
 蒼世の問いに、ギルドマネージャーは意味深長に微笑んだ。どういうことだと首を傾げていると、続いてギルドマネージャーは云った。
「……それから、これは年寄りのお節介かもしれないが、その首の“跡”は隠したほうがいい」
「首? 何かありますか?」
 思い当たらず、蒼世は己の首に手を当てた。そんな蒼世の反応に、ギルドマネージャーは意外そうに目を丸くした。
「気付いていなかったのかい? 左側の首筋の近く、赤くなっているよ」
「赤く?」
 そこまで指摘されても、蒼世にはやはり何のことかわからなかった。メイも不思議そうに、蒼世の首を見ようと背伸びをしている。そんな彼に見えるように体を曲げ、蒼世は尋ねた。
「メイ、どうだ?」
「……あっ! 赤くなってるニャ! 虫に刺されたみたいに」
「虫か」
 痒みがないので全く気付かなさった。いつ刺されたのかは知れないが、痛みや身体の不調はないので、ブナハブラなどの危険な甲虫種によるものではないらしい。念の為、帰ったら薬を塗っておこう。
「しかし、なぜこれを隠しておいた方がいいと?」
「蒼世殿、それは虫によるものではないよ。人によるものだ」
「は?」
「おやおや、ここまで云ってもわからないのかい? それは、情交の印だよ。心当たり、あるんじゃないかい?」
 うっすらと開いたままの唇が、塞がらなくなった。
 情交。それは、蒼世とは縁のないものだった。この体を触れさせたことは、ただの一度もない。無遠慮に手を伸ばしてきた者は、男女問わずいたが、その全てを蒼世は叩き落としてきた。
 そう、“あの男”に出逢うまでは―

「……っ!」
 ギルドマネージャーの云わんとするところを理解した瞬間、蒼世は己の髪を結いていた紐を解いた。長い髪がはらりと胸元まで覆い、首筋を隠す。しかし、その頬の赤みだけは秘することができなかった。
「鷹峯っ」
 噛み締めた歯の隙間から、その名が吐き捨てられる。しまったと思った時には遅く、蒼世の口にした名前はこの場にいる全員の耳に届いていた。
「ニャ!? 鷹峯さんのせいニャ!?」
「おやおや、いつの間にそんな深い仲になったんだい」
「っ、違います。これは奴が無理矢理っ」
「無理矢理、手篭めにされたのかい? それはギルドとしては見過ごせない事態だね」
 一瞬、ギルドマネージャーの纏う空気が硬いものになる。蒼世はすぐに気を取り直し、努めて冷静に云った。
「……いえ、手篭めになどされていません。このことは私と奴の問題です。ギルドの手を煩わせることではありません」
「……そうかい。なら、いいがね」
 ハンターといえども、人の道を外れれば、処罰されるのは世の道理。同意なしに他者を犯せば、それは当然重罪となる。
 昨夜、鷹峯が蒼世にしたのは口付けと戯れのような愛撫だけだった。唇を奪われ、頬や首に舌が触れ、この身を服の上から緩やかになぞられた。ただ、それだけだった。
(それに、俺は……抵抗しなかった)
 むしろ、自分を捕えた男の手にすがりついてしまった。嫌悪も、屈辱も感じなかった。そのことが疎ましくなるほどに。
「……仲良くやっているようで、何よりだよ」
 物思いに沈んでいた蒼世の耳に、ギルドマネージャーの笑みを含んだ呟きが入る。慌てて顔を上げ、蒼世はギルドマネージャーを見た。
「っ、失礼します」
 一礼し、そそくさとその場を立ち去る。未だ困惑した顔のメイが、後をついてきた。


 それが、蒼世の怒りの発端だった。
 帰ったら、罵りの言葉の一つや二つ、鷹峯にぶつけても罰はあたらないだろう。それから、屋台で夕飯を奢らせてやる。
 報復の手段を幾つも考えながら、蒼世は肩で風を切りながら進んだ。
 程なくして、研究員たちが憩いの場として使っているスペースに着いた。そこには数人の研究員がおり、テーブルについて何事か話していた。その中の一人、芦屋が蒼世に気付く。
「蒼世さん、いいところに」
 芦屋がこちらに向かってくる。蒼世は足を止めて、彼を待った。
「お話は済みましたか?」
「ああ」
「なら、お客さんがお待ちですよ。こちらに」
「客?」
「ええ。今、ムーファたちの飼育場にいます」
 龍歴院が飼育するムーファたちは、基本放し飼いにされている。その方向へ向かいながら、芦屋は含み笑いをしながら云った。
「しかし、貴方も隅に置けませんね。あんな美しい幼馴染みがいるなら、紹介してくださいよ」
「何?」
 幼馴染みという単語が引っ掛かり、蒼世は眉をしかめた。まさかと、そう思った時には目的地に辿り着いていた。
 建物と外を繋ぐ扉を開けると、そこには一面の緑が広がっていた。遠く山々を臨むその場所には、ムーファと、それから桜色の着物を身につけた女性がいた。
「妃子さん、蒼世さんをお連れしましたよ」
 妃子。そう呼ばれた女性が振り返る。蒼世は目を見開き、呼吸を忘れた。
「ありがとう、芦屋さん」
 紅をひいた唇を弧の形にし、彼女はこちらを見た。その立ち姿は、男女問わず虜にするほどの華やかさがあった。妖艶な美女はゆっくりと歩き、蒼世の目の前に立った。
「……久しぶりね、蒼世」
 記憶にあるものと寸分違わぬ声が、蒼世を呼ぶ。ようやく呼吸の仕方を思い出した蒼世は、細く息を吸うと、吐息と共に答えた。
「ああ……そうだな」
「ずいぶん探したわよ。六年も、連絡くれないなんて」
「…………」
「……まぁ、それはいいわ。つい先日、大怪我を負ったって聞いたけど、もう平気なの?」
「ああ。すでに治った」
「本当? 貴方昔から無茶をするから」
「いつの話をしている」
「ふふ、ごめんなさい」
 突慳貪な蒼世の物云いに、しかし相手は柔らかく肩を震わせた。
 変わらない。蒼世は数年ぶりに目にした幼馴染みの表情に、こう思った。
「旦那さん、お知り合いニャ?」
 それまで黙っていたメイが、蒼世の袖を引っぱりながら訊いた。みなの視線が、メイを向く。
「ああ。こいつは、佐々木妃子。私と同じ、ハンターだ」
「初めまして。貴方が蒼世のオトモアイルーね。私は佐々木妃子。蒼世とは、同じ場所で育ったの。私のことは、妃子でいいわ」
「ニャッ、メイといいますニャ! よろしくお願いしますニャ!」
「あら、元気ね」
 勢い良く頭を下げたメイを見て、妃子は笑みを深めた。
「佐々木、お前が私の後任になるのか?」
「ええ。そうよ。龍歴院から依頼があってね。貴方がユクモ村へ発つまで、村のことやこの地域のことを教えてね」
「ああ」
 妃子が自分の代わりにベルナ村に住むというのなら、これほど安心なことはなかった。
 彼女とは、三つ四つの子供の頃からの付き合いだった。同じ国に生まれ、同じ師のもとで育った。ハンターになったのも、同じ時期だった。そのため、彼女の性格や実力は知っている。十四歳の時点で、一人でバサルモスの狩猟に成功するほどの手腕だ。
「まぁ、立ち話もなんですし、中に入りましょうか」
 芦屋のその一言で、一同は移動することにした。



2/3ページ