元就、私の御主人様になってください! 裏
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「元就……やばい、動けない。送ってって…」
「調子に乗るな」
「あだっ」
ベッドの上で、四肢を投げ出してぐったりする。
私はようやく息が整ったくらいなのに、元就なんて既に服を着て本なんて読んでいるのだからなんだか憎たらしい。
…ほんのついさっきまでは、あんなに激しく私のことを抱いていた癖に、ONOFFの差が大きすぎるんじゃないだろうか。
疲労感に、手刀をくらった頭に手をやるのも億劫で、じっとりと元就を睨んでみる。
彼の本気の睨みには到底敵わないだろうけど、多少の反撃くらいはしておきたかった。確かに誘ったのは私だったけれど、にしたってもう少し容赦してくれてもいいじゃないか。…こんなこと、元就に言っても無駄だろうけど。
はぁ、とため息をついて、彼は持っていた文庫本を閉じた。
「…送りはせぬ。が、今日は母もいない。治るまでそこに転がっておれ」
「…うん……」
必要最低限のことだけ伝えて、また彼は本の続きを読み始める。
さっきまでの鬼畜ぶりが嘘みたいに涼やかだ。
あの感じからして、元就は性癖的にもS寄りだと思うんだけど。
「…ねえ、元就。あのさ、これからもたまに付き合ってくれない?」
「…なんだと?」
私の言葉にこちらに向けられたのは、氷のような冷たい視線だった。目は口程に物を言う、ってこういうことだろうか。
…試しに言ってみただけなんだから、そんな顔をしなくたっていいじゃない。
凄く気持ちよかったとはいえ、もうしばらくは流石に煎餅の手も使えないだろうし。いや、お汁粉ならワンチャンあるかな。
そうぼんやりと考えている私に、元就は思いの外優しかった。
「…まあ良かろう」
「えっ」
「無条件でとは言わぬが」
…条件が付くのはともかく、まさか了承してくれるとは。
これは、『元就にも性欲とかあったんだー』などと言って揶揄うべき場面なのかな。いや、そんなことを言えば、多分元就は拗ねてしばらく口も聞いてくれなくなるか凄く冷たくなるからやめておこう。
条件って何、と聞けば、彼は本から目を逸らさないまま平坦に答えた。
「…この先、我以外に相手を頼まぬこと。これが最低条件よ」
「ん?…別にいいけど。元就が相手してくれるなら…、でもそれ、元就に何か得があるの?」
「チッ」
…舌打ちされた。苛立った様子を見せる元就に、どうやら返しを間違ったようだと気付く。
元就の求めていた解答とは何だったんだろう。あまりハイレベルすぎると、私の頭脳じゃ導き出せない可能性があって大いに困るのだけど…
悩んでいる私の顎を、元就はぐっと引き寄せた。さっきの色気があるものとは違って、顎クイというかどちらかというと顎ムニュな勢いだ。
「…呆れるほどの愚か者が」
「えぇ……いきなりの悪口…」
「…はぁ……、一度しか言わぬぞ、よく聞け」
切れ長の綺麗な瞳。
元就と目を合わせるのは昔から好きだった。冷たくても、いつも私のことを凄く真っ直ぐに見ていてくれるのに気付けるから。
私が変態的な発言をしようが、どんな馬鹿な失態を起こそうが、元就はいつもこうやって私のことを見つめてくれていた気がする。
薄くて形のいい唇が、微かに動いた。
「………我とて、嫉妬ぐらいする」
後は自分で考えろ、と、元就はまた本に視線を戻してしまって。
その言葉を頭の中で反芻してから、私はただぽつりと、はい、とだけ答えた。
私の頰も元就の耳も赤かったのはきっと、傾き始めた日のせいじゃなかった。