指きり
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『亜姫』と名乗るその女は、俺がなかなか思い出さないせいか
どんどん表情が不機嫌になっていく。
何だコイツは。
お前のことなんか知るか。
「もう!!!景吾のバカァ!!!」
「なっ、バカだと!!?」
亜姫と名乗るその女は突然俺の胸をバシバシと殴る。
「おい!!テメェいい加減にしろよ!!?」
「バカバカバカ!!!」
「おいっ!!!」
「バカァ!!!」
「この――っ、」
俺は殴る亜姫の手を掴んで動きを止めると、そのままバランスを崩して俺にしがみ付いてきた。
「おい、何しがみついてんだ?」
「これは不可抗力だよ!!わざとじゃない!!景吾が腕を掴むのが悪い!!」
「景吾って呼ぶな」
「ヤダ」
「呼ぶな」
「イヤダ」
俺の眉間のシワは深くなる一方にも関わらず亜姫の表情はどんどん緩くなっている。
「あはは。ムキになる景吾可愛いー!!」
そう、仕舞いには笑い出して
その笑顔を見ていたら俺だけ不機嫌なのがバカらしくなってきて
気がついたら笑っていた。
「可笑しな女だ」
「亜姫だよ」
「アン?」
「亜姫って呼んで」
「呼ばねぇ」
「もう!!」
そう言うと頬を膨らませて地面に座り出した。
本当に可笑しいな女だ。
何だろうな…
この懐かしい感じは…。
「はぁーっ!!!気持ちいいーっ!!!」
亜姫は地面に座りながら空を見上げている。
「アン?何が気持ちいいんだ?」
「空気」
「空気…?」
「あたし冬の空気が好きなの」
「………っ」
何だ…?
今、
何か俺
思い出し―――‥
「空が澄んでて夜になると都会でも星がキレイに見えるでしょ?」
「……あぁ」
「それに冬ってイベントがいっぱいだし!!」
「イベント?」
「クリスマスでしょ?お正月でしょ?それにバレンタインも!!」
「…まぁ…な…」
クリスマス…
もうすぐクリスマス…か…
そういえば去年はどうやって過ごした…?
確か忍足達が……
「今年のバレンタインにショコラのチョコをあげようと思ってたんだよ」
「アン?」
「そんでホワイトデーに3倍返ししてもらおうと思ってたんだ。景吾んち金持ちだかんね」
「何ふざけた事ほざいてんだ?アン?」
「あはは」
俺を見上げて笑う。
その笑顔は暖かくて
何か引きつけるものがある。
俺は知ってる。
この温もりを知ってるはずだ。
「……嘘だよ」
「え?」
さっきまで笑っていたヤツとは思えないほど急に声のトーンが下がった。
「本当はお返しなんていらない。チョコレートを渡したかっただけ」
何だコイツは
さっきまで図々しい態度だったくせに
何で急にしおらしくなるんだ?
俺は俯いて膝をかかえた亜姫の姿がナゼか胸に沁みて
いつの間にか隣に座り込んでいた。
「バレンタインは来年だってあるだろ」
「…うん」
「来年わたせばいいだろうが」
「景吾受け取ってくれるの?」
「お返しいらねぇんだろ?貰ってやってもいいぜ?」
「………っ」
俺を見つめる亜姫の目に涙が溢れ出した。
その涙に俺は戸惑った。
泣いてる理由も分からなくて
コイツがどうして今年のバレンタインにチョコを渡しにこなかったのか
俺には分からない。
…分からない…?
思い出せない……?
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