月光館学園
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
数えて、2つ程の日が過ぎた時のことだった。
「ごめんなさい」
校長室に、消え入りそうな声が響く。
「……ユキ君、顔を上げてください」
校長がそう言い顔を上げさせるも、青い目は逸らされ、また床に視線が落ちた。
「想定はしていました。主治医の方から、お話は伺っていましたから」
「……」
修学旅行。
学校行事の手伝いとして、来てほしい。
そう言った矢先の言葉だった。
「……怖いですか?」
元いた場所に行くのが。
磐戸台に、行くのが。
校長の優しい声音に、桜木は腿に乗せていた手を握り口を開く。
「……あまり、上手く伝えられるかは分からないんです、けど……」
か細く、震えた声だった。
それは普段の彼とはあまりにもかけ離れていて、弱々しくて、何とかそれを抑えようと必死にもがいているように見えた。
「あそこは自分の居場所じゃなくて、居場所らしい何かも、残ってない気がして……それを知るのが、息が詰まって、……」
『行ってはいけない』と、頭が警鐘を鳴らす。
『行きたくない』と、誰かが叫ぶ。
「……今でさえ、こんな自分が此処にいていいのか、分からなくて……バイト以外でも、ひたすら本を読み続けたり、それを考えないように、ずっと逃げて……」
逃げた。
そう、逃げていた。
鳴上達に、堂島に心配をかけたくなくて、不安を知識で押しつぶして逃げ続けていた。
既に負担となるような事をしていたから、これ以上何かを押し付けたくなかった。
何とかそこまで言って息を吐くと、校長は「そう、ですか……」と悲しそうな目を向けて、そして桜木にひとつの封筒を渡した。
「?これは……?」
「電車のチケットです。時間をずらして、生徒達とは同じ時間にならないようにしてあります」
瞬間、桜木の顔が強ばる。しかしそれを払拭させようと、校長は早口で続けた。
「学校には来ても、来なくても大丈夫です。ただ、君には課題をあげましょう」
「……か、だい」
「はい。記憶と一致するかどうかは問わずに……君が見たポートアイランド駅やその周辺がどんなものだったのかを、帰ったあとに教えてください」
どうしても、この修学旅行分の単位は桜木に取らせなければならない。
けれど今まで以上に学校に来れなくなってる桜木の心に、あまり負荷をかけたくない。
それは学校として、苦渋の課題だった。
一度二度瞬きした彼はチケットを見て、そして小さく口を開く。
「……それは、」
「?」
「…………ねこがいた、とかでも、いいんですか?」
野良猫、とか。ボソリと付け足された声に校長は頷き、そして微笑んだ。
「ええ、大丈夫です。沢山、見つけてきてください」
笑顔に対して、桜木は顔を上げ、薄く弱々しく笑い返す。
1人の生徒にこれだけ介入するのは、駄目なことかもしれない。
けれど彼は家族を亡くし、記憶を亡くし、不安定なままでここにいる。
ならせめて、出来ることはしてやりたいと思うのは、……それでもやはり、贔屓ということになってしまうのだろうか。
「……教育というのは、何年経ってもとても難しいものですね」
校長のそんな呟きは、少年のいなくなった校長室に静かに響いた。
「ごめんなさい」
校長室に、消え入りそうな声が響く。
「……ユキ君、顔を上げてください」
校長がそう言い顔を上げさせるも、青い目は逸らされ、また床に視線が落ちた。
「想定はしていました。主治医の方から、お話は伺っていましたから」
「……」
修学旅行。
学校行事の手伝いとして、来てほしい。
そう言った矢先の言葉だった。
「……怖いですか?」
元いた場所に行くのが。
磐戸台に、行くのが。
校長の優しい声音に、桜木は腿に乗せていた手を握り口を開く。
「……あまり、上手く伝えられるかは分からないんです、けど……」
か細く、震えた声だった。
それは普段の彼とはあまりにもかけ離れていて、弱々しくて、何とかそれを抑えようと必死にもがいているように見えた。
「あそこは自分の居場所じゃなくて、居場所らしい何かも、残ってない気がして……それを知るのが、息が詰まって、……」
『行ってはいけない』と、頭が警鐘を鳴らす。
『行きたくない』と、誰かが叫ぶ。
「……今でさえ、こんな自分が此処にいていいのか、分からなくて……バイト以外でも、ひたすら本を読み続けたり、それを考えないように、ずっと逃げて……」
逃げた。
そう、逃げていた。
鳴上達に、堂島に心配をかけたくなくて、不安を知識で押しつぶして逃げ続けていた。
既に負担となるような事をしていたから、これ以上何かを押し付けたくなかった。
何とかそこまで言って息を吐くと、校長は「そう、ですか……」と悲しそうな目を向けて、そして桜木にひとつの封筒を渡した。
「?これは……?」
「電車のチケットです。時間をずらして、生徒達とは同じ時間にならないようにしてあります」
瞬間、桜木の顔が強ばる。しかしそれを払拭させようと、校長は早口で続けた。
「学校には来ても、来なくても大丈夫です。ただ、君には課題をあげましょう」
「……か、だい」
「はい。記憶と一致するかどうかは問わずに……君が見たポートアイランド駅やその周辺がどんなものだったのかを、帰ったあとに教えてください」
どうしても、この修学旅行分の単位は桜木に取らせなければならない。
けれど今まで以上に学校に来れなくなってる桜木の心に、あまり負荷をかけたくない。
それは学校として、苦渋の課題だった。
一度二度瞬きした彼はチケットを見て、そして小さく口を開く。
「……それは、」
「?」
「…………ねこがいた、とかでも、いいんですか?」
野良猫、とか。ボソリと付け足された声に校長は頷き、そして微笑んだ。
「ええ、大丈夫です。沢山、見つけてきてください」
笑顔に対して、桜木は顔を上げ、薄く弱々しく笑い返す。
1人の生徒にこれだけ介入するのは、駄目なことかもしれない。
けれど彼は家族を亡くし、記憶を亡くし、不安定なままでここにいる。
ならせめて、出来ることはしてやりたいと思うのは、……それでもやはり、贔屓ということになってしまうのだろうか。
「……教育というのは、何年経ってもとても難しいものですね」
校長のそんな呟きは、少年のいなくなった校長室に静かに響いた。