夏と困惑
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「ねえ、どうして、わるいひとはわるいことをするの?」
アブラゼミの声が蜩に移り変わる夕方。
悠達は全員で夏休みの課題のラストスパートに取り掛かっていて、俺は菜々子ちゃんと2人で、彼女の宿題を見ていた。
そんな中で問いかけられた言葉に、俺は外を見てから口を開く。
あかい、あかい空だった。
「……三通りくらい、あるかな」
指を3つ立てて、そして1つずつ折っていく。
「ひとつめ。そうしなければならない程、生きられないほど、その人は追い詰められていた。
その過程は人それぞれだし、結果も違うけれど……追い詰められた状況で結局最後に出てきてしまった本性が、あまり良くないものだった」
「良くないもの?」
「お金を借りていた相手を殺して無かったことにしようとか、仇を討つとか、そういうこと。
良くないことだけど、その時はそれしか考えられないほど、辛い状況だったのかもしれない」
「……」
「ふたつめ。これはさっきと同じようなものだけど……それによって自分を見て欲しかった。
”ちゃんとしなさい””すごいね”とか、そう言った周囲からの目や声に従い続けて、自分が見えなくなってやっちゃうこと。いい事で目立てなかったなら、悪い事で目立って、”これは自分の意志でやったんだ、自分はここにいる”って誰かに気づいて欲しかったもの」
「……でも、すごいねって、ほめることばだよ?」
「褒め言葉も使いすぎると、ただその人の重荷になる時があるんだ。まあ、ひとによるだろうけど。
”自分はそんな褒められるほど、いい子じゃない”って思ったり……褒めるだけじゃなくて、その人の辛さとか、苦しいと思ってる事に気づいてあげなきゃダメなんだよ」
「ふうん……最後は?」
「その行為に愛情を感じていた」
菜々子ちゃんの目が、大きく見開く。
「……好きってものはさ、人それぞれなんだよ。虫が好きだったり、花が好きだったり、サッカーをするのが好きだったり、色々……人によって、様々なものが、様々な行動が好きなのはわかる?」
「うん」
「それの一部。ほんの一部が、人を殺すことが好きだったり、苦しめるのが好きだったりする。
行動に復讐とかの意味はない。ただ、好きだったから行った。好きって気持ちを押さえつけすぎて、我慢が効かなくなった……そういう人」
「……でも、ダメな事だよ?」
「ダメな事でも、だよ。好きに理屈はないって、誰かが言っていたようにね。
それに、追い詰められたり、自分が見えなくなった状況でちゃんと自制できる人なんて、そうそういない」
「………そっかあ……」
「勿論、他にもあるんだよ。間違って殺してしまう人だっている。けどただなんとなく、本当になんとなく殺すことが気になってやってしまう人もいる。殺したって事にも気づけない人もいる。そういう人は、殺すという重さが分からない。命の重さが、自分の価値が分からない人達」
そして俺は、人殺しをして、自分を生かしてる。
自分勝手で、エゴまみれな、ただのバケモノ。
「そういう風になるなとも、なれとも言わない。ただ、咄嗟の時に、その一瞬で、本性が出ても仕方がないってこと。悪い人は元から悪い人だったんじゃないって事は、理解してほしい」
「……」
「ちゃんと止める人も、その人を気遣ってやれる人もいなかった。
だから、ちょっとずつズレちゃったんだ。正しいって言われる方向から、ちょっとずつ」
俺は止められたんだろうか。
俺は、誰かを生かせただろうか。
「菜々子ちゃんは、多分そういう人に気づいてあげられると思うよ」
「でも、菜々子は全然……」
かぶりをふる彼女の頭を、ゆっくり、優しく撫でる。
冷たくはないだろうか。痛くはないだろうか。
「遼太郎さんに似て、正義感と他人を思い遣る力は天下一品だからね」
ああ、俺は今、ちゃんと笑えているんだろうか。
目の前で、少しだけ嬉しそうにしている彼女のように。
アブラゼミの声が蜩に移り変わる夕方。
悠達は全員で夏休みの課題のラストスパートに取り掛かっていて、俺は菜々子ちゃんと2人で、彼女の宿題を見ていた。
そんな中で問いかけられた言葉に、俺は外を見てから口を開く。
あかい、あかい空だった。
「……三通りくらい、あるかな」
指を3つ立てて、そして1つずつ折っていく。
「ひとつめ。そうしなければならない程、生きられないほど、その人は追い詰められていた。
その過程は人それぞれだし、結果も違うけれど……追い詰められた状況で結局最後に出てきてしまった本性が、あまり良くないものだった」
「良くないもの?」
「お金を借りていた相手を殺して無かったことにしようとか、仇を討つとか、そういうこと。
良くないことだけど、その時はそれしか考えられないほど、辛い状況だったのかもしれない」
「……」
「ふたつめ。これはさっきと同じようなものだけど……それによって自分を見て欲しかった。
”ちゃんとしなさい””すごいね”とか、そう言った周囲からの目や声に従い続けて、自分が見えなくなってやっちゃうこと。いい事で目立てなかったなら、悪い事で目立って、”これは自分の意志でやったんだ、自分はここにいる”って誰かに気づいて欲しかったもの」
「……でも、すごいねって、ほめることばだよ?」
「褒め言葉も使いすぎると、ただその人の重荷になる時があるんだ。まあ、ひとによるだろうけど。
”自分はそんな褒められるほど、いい子じゃない”って思ったり……褒めるだけじゃなくて、その人の辛さとか、苦しいと思ってる事に気づいてあげなきゃダメなんだよ」
「ふうん……最後は?」
「その行為に愛情を感じていた」
菜々子ちゃんの目が、大きく見開く。
「……好きってものはさ、人それぞれなんだよ。虫が好きだったり、花が好きだったり、サッカーをするのが好きだったり、色々……人によって、様々なものが、様々な行動が好きなのはわかる?」
「うん」
「それの一部。ほんの一部が、人を殺すことが好きだったり、苦しめるのが好きだったりする。
行動に復讐とかの意味はない。ただ、好きだったから行った。好きって気持ちを押さえつけすぎて、我慢が効かなくなった……そういう人」
「……でも、ダメな事だよ?」
「ダメな事でも、だよ。好きに理屈はないって、誰かが言っていたようにね。
それに、追い詰められたり、自分が見えなくなった状況でちゃんと自制できる人なんて、そうそういない」
「………そっかあ……」
「勿論、他にもあるんだよ。間違って殺してしまう人だっている。けどただなんとなく、本当になんとなく殺すことが気になってやってしまう人もいる。殺したって事にも気づけない人もいる。そういう人は、殺すという重さが分からない。命の重さが、自分の価値が分からない人達」
そして俺は、人殺しをして、自分を生かしてる。
自分勝手で、エゴまみれな、ただのバケモノ。
「そういう風になるなとも、なれとも言わない。ただ、咄嗟の時に、その一瞬で、本性が出ても仕方がないってこと。悪い人は元から悪い人だったんじゃないって事は、理解してほしい」
「……」
「ちゃんと止める人も、その人を気遣ってやれる人もいなかった。
だから、ちょっとずつズレちゃったんだ。正しいって言われる方向から、ちょっとずつ」
俺は止められたんだろうか。
俺は、誰かを生かせただろうか。
「菜々子ちゃんは、多分そういう人に気づいてあげられると思うよ」
「でも、菜々子は全然……」
かぶりをふる彼女の頭を、ゆっくり、優しく撫でる。
冷たくはないだろうか。痛くはないだろうか。
「遼太郎さんに似て、正義感と他人を思い遣る力は天下一品だからね」
ああ、俺は今、ちゃんと笑えているんだろうか。
目の前で、少しだけ嬉しそうにしている彼女のように。