夏と困惑
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝。
遼太郎さん達の弁当を届け終わって朝食から戻ると、携帯電話がタイミング良く鳴った。
「はい、桜木です」
『ユキ君かな?今大丈夫ですか?』
「……校長先生。はい、大丈夫ですけど」
優しくて、少し距離の測りづらい声。時計を確認しつつそう言えば、彼はゆっくりと喋り続けた。
『本来なら、学校に呼んで直接話を聞くべきなんだけれど……君はまだ、いそがしそうですからね』
「すみません」
『いいんですよ。……学校、まだあまり通う気にはなれないでしょう?』
「……そう、ですね。……なんでか、自分でもあまりわからないんですけど」
そう。
正確には、記憶や感情が少し戻ってから。俺は学校を見る度に、その先へ進む足が止まっていた。
何故だか分からない。けれど心のどこかが嫌だと嘆いて、体のどこかが竦むようで。
教師から校門前で課題や作業資料を貰い手渡すのが、精一杯だった。
アイツらと喋る時もそうだ。矢継ぎ早に何か言われると息が詰まって、それを誤魔化すように体を動かして。
一体、何があったのだろう。
一体、何をしてしまったのだろう。
『ゆっくりで、いいんですよ』
そんな思考を見透かすように、校長は言う。
『記憶喪失というのも、大変でしょう。……進路についても、ギリギリまで悩んでいていいですから』
「……ありがとう、ございます」
『ひとまず、大学進学をする前提での資料を今度渡します。けれどもし、別の事がしたくなったら、いつでも言ってくださいね』
「はい」
『では、よい夏休みを』
プツリと切れたそれに、蝉の声が重なる。
「……約束を、果たしたら、」
じっとりと暑さが身を包み、気怠い、不快にもなりそうな『暑い』という感情をよそに、考える。
「その先で、……俺は何をしたいんだろう」
答える人はいない。
答えるものは、何も無い。
遼太郎さん達の弁当を届け終わって朝食から戻ると、携帯電話がタイミング良く鳴った。
「はい、桜木です」
『ユキ君かな?今大丈夫ですか?』
「……校長先生。はい、大丈夫ですけど」
優しくて、少し距離の測りづらい声。時計を確認しつつそう言えば、彼はゆっくりと喋り続けた。
『本来なら、学校に呼んで直接話を聞くべきなんだけれど……君はまだ、いそがしそうですからね』
「すみません」
『いいんですよ。……学校、まだあまり通う気にはなれないでしょう?』
「……そう、ですね。……なんでか、自分でもあまりわからないんですけど」
そう。
正確には、記憶や感情が少し戻ってから。俺は学校を見る度に、その先へ進む足が止まっていた。
何故だか分からない。けれど心のどこかが嫌だと嘆いて、体のどこかが竦むようで。
教師から校門前で課題や作業資料を貰い手渡すのが、精一杯だった。
アイツらと喋る時もそうだ。矢継ぎ早に何か言われると息が詰まって、それを誤魔化すように体を動かして。
一体、何があったのだろう。
一体、何をしてしまったのだろう。
『ゆっくりで、いいんですよ』
そんな思考を見透かすように、校長は言う。
『記憶喪失というのも、大変でしょう。……進路についても、ギリギリまで悩んでいていいですから』
「……ありがとう、ございます」
『ひとまず、大学進学をする前提での資料を今度渡します。けれどもし、別の事がしたくなったら、いつでも言ってくださいね』
「はい」
『では、よい夏休みを』
プツリと切れたそれに、蝉の声が重なる。
「……約束を、果たしたら、」
じっとりと暑さが身を包み、気怠い、不快にもなりそうな『暑い』という感情をよそに、考える。
「その先で、……俺は何をしたいんだろう」
答える人はいない。
答えるものは、何も無い。