夏と困惑
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「あの、これ、本当にいいんですか?」
早めにバイトを上がり、朝声をかけてきた呉服屋に立ち寄った。
すると完二の母親は「夏祭りだもの」と嬉しそうに目を細めて、自分に浴衣と帯を見せる。
全体として薄い青で、点々と配置された緑草の中を金魚が泳ぐ綺麗な浴衣。深緑の帯は差し色になっていて涼しげだ。
「いつも完二がお世話になってるし……此処に来て初めてのお祭りでしょう?折角だから着てほしいの」
「はあ……ありがとうございます」
勉強はたまに見ているが、基本編みぐるみは自分が教わっている方で……と言うのを止めたのは、そのたまに見る勉強の割合が最近、編みぐるみを教わる時間よりも増えてきたからだった。
巽のこの家には何度来ただろうか。勿論夕方は遅くなりすぎると晩御飯が作れなくなるためできるのは本当に限られた時間で、寧ろご飯を食べ終わった後に自分の家に来てもらい副業をしがてら教え教えられることが増えた。鳴上の家で家事を、外ではバイトを、帰ってくれば……と、目まぐるしくも見えるかもしれないサイクルにもすぐ慣れてしまったのには、自分でも驚いてはいるけれど。
人がこれほどまで沢山関わる状況が、戦っていたあの頃に果たしてどれだけあったのだろうか。
やや上の空で考えていたら、完二の母親は何を思ったか、自分の手を引き奥へと案内する。
「着付けしてあげるわ。奥へどうぞ」
「え……あの……」
どうやら、浴衣の着方が分からないのではと思われてしまったらしい。
有無を言わさずあっという間に着付けられて、「好きなのを選んでね」と置かれた髪飾りを眺めていると、丁度完二が図書館から戻ってきた声が聞こえた。
ガタガタドタドタと音がして、すぐに扉が開かれる。
「、ユキサン!?」
「完二。こんばんは」
「お、うっす……じゃなくて!なんでそんな、女物なんか……!」
「あ、やっぱり女物なんだ、これ。
腹にタオル何枚も巻かれて、ビックリした」
袖を持ち、くるりと回って見せれば、首をかしげた。
「変?」
「い、いいいいいや!似合ってるっす!」
「そ。まあ、似合わないよりはいいや。」
俺は動揺している彼をそのままに髪飾りに視線を戻し、どれが付けやすそうか考える。
「……いいんすか?」
「これが女装だってばれる方がやだし、今から着替えたら遅刻するでしょ?」
簪は……本で見たことあった気がする。
これは……金具?どう留めるんだ?
一つ一つを手に取り考えていると、ふと「これ、いいんじゃないすか」と声がかかった。
「……これ?」
桃色の金具付きの髪飾りを取って、声の主である完二に見せる。
「……っす」
「でも俺、これの付け方分からなくて。分かる?」
「あ、なら付けるっすよ」
「本当?」
「はい」
前向いてくださいと、武骨な手が髪に触れた。
さらさらと指の間からすり抜けるそれを完二は器用に横側にまとめ、パチンと髪飾りを付ける。
「……出来たっす」
「ありがと。じゃあ、いこうか」
立ち上がりまた少し浴衣を整えて、彼と共に集合場所まで歩き出した。
賑わう人の群れ、点々と並ぶ屋台の灯りに目を細め、鳴上は全員が集合するのを待っていた。
まだ時間に余裕があるうちに1人、また1人と集まり、そして最後に来たのは……何故か巽と桜木だった。
ざわざわと人が2人に道を開け、否が応でも目に入る、目立つ2人。
巽は相変わらず仏頂面で正面だけを見、先ほど会っていた私服姿のまま連れ立つ者の手を引いている。
手を引かれた……桜木であろうその人は、髪を少しだけまとめ、そして淡い色の浴衣に身を包み青い目を伏せて進んでくる。カランカランと鳴る草履の音が喧騒も何もかもを鎮めるようで、丁度自分達の近くに来るとピタリと止んだ。
「ちっす」
「ああ、悠。陽介達も、こんばんは」
巽の声に顔を上げて、彼は言う。
周りの目なんて、全く見えてないみたいに。
「……こん、ばんは。……えっと、」
「完二のお母さんから戴いたんだ。……まあ、言いたい事は分かってるから」
「うひょー!ユキサンもとっても似合ってるクマねー!カンジといると美女と野獣クマ!」
「あ、それだ」
「あぁ!?」
茶化すクマたちに殴りかからんとする巽を見ながらどのタイミングで止めるべきかと考えていた桜木の、その裾をぐいと誰かが引っ張る。
「……?誰ーーー」
早めにバイトを上がり、朝声をかけてきた呉服屋に立ち寄った。
すると完二の母親は「夏祭りだもの」と嬉しそうに目を細めて、自分に浴衣と帯を見せる。
全体として薄い青で、点々と配置された緑草の中を金魚が泳ぐ綺麗な浴衣。深緑の帯は差し色になっていて涼しげだ。
「いつも完二がお世話になってるし……此処に来て初めてのお祭りでしょう?折角だから着てほしいの」
「はあ……ありがとうございます」
勉強はたまに見ているが、基本編みぐるみは自分が教わっている方で……と言うのを止めたのは、そのたまに見る勉強の割合が最近、編みぐるみを教わる時間よりも増えてきたからだった。
巽のこの家には何度来ただろうか。勿論夕方は遅くなりすぎると晩御飯が作れなくなるためできるのは本当に限られた時間で、寧ろご飯を食べ終わった後に自分の家に来てもらい副業をしがてら教え教えられることが増えた。鳴上の家で家事を、外ではバイトを、帰ってくれば……と、目まぐるしくも見えるかもしれないサイクルにもすぐ慣れてしまったのには、自分でも驚いてはいるけれど。
人がこれほどまで沢山関わる状況が、戦っていたあの頃に果たしてどれだけあったのだろうか。
やや上の空で考えていたら、完二の母親は何を思ったか、自分の手を引き奥へと案内する。
「着付けしてあげるわ。奥へどうぞ」
「え……あの……」
どうやら、浴衣の着方が分からないのではと思われてしまったらしい。
有無を言わさずあっという間に着付けられて、「好きなのを選んでね」と置かれた髪飾りを眺めていると、丁度完二が図書館から戻ってきた声が聞こえた。
ガタガタドタドタと音がして、すぐに扉が開かれる。
「、ユキサン!?」
「完二。こんばんは」
「お、うっす……じゃなくて!なんでそんな、女物なんか……!」
「あ、やっぱり女物なんだ、これ。
腹にタオル何枚も巻かれて、ビックリした」
袖を持ち、くるりと回って見せれば、首をかしげた。
「変?」
「い、いいいいいや!似合ってるっす!」
「そ。まあ、似合わないよりはいいや。」
俺は動揺している彼をそのままに髪飾りに視線を戻し、どれが付けやすそうか考える。
「……いいんすか?」
「これが女装だってばれる方がやだし、今から着替えたら遅刻するでしょ?」
簪は……本で見たことあった気がする。
これは……金具?どう留めるんだ?
一つ一つを手に取り考えていると、ふと「これ、いいんじゃないすか」と声がかかった。
「……これ?」
桃色の金具付きの髪飾りを取って、声の主である完二に見せる。
「……っす」
「でも俺、これの付け方分からなくて。分かる?」
「あ、なら付けるっすよ」
「本当?」
「はい」
前向いてくださいと、武骨な手が髪に触れた。
さらさらと指の間からすり抜けるそれを完二は器用に横側にまとめ、パチンと髪飾りを付ける。
「……出来たっす」
「ありがと。じゃあ、いこうか」
立ち上がりまた少し浴衣を整えて、彼と共に集合場所まで歩き出した。
賑わう人の群れ、点々と並ぶ屋台の灯りに目を細め、鳴上は全員が集合するのを待っていた。
まだ時間に余裕があるうちに1人、また1人と集まり、そして最後に来たのは……何故か巽と桜木だった。
ざわざわと人が2人に道を開け、否が応でも目に入る、目立つ2人。
巽は相変わらず仏頂面で正面だけを見、先ほど会っていた私服姿のまま連れ立つ者の手を引いている。
手を引かれた……桜木であろうその人は、髪を少しだけまとめ、そして淡い色の浴衣に身を包み青い目を伏せて進んでくる。カランカランと鳴る草履の音が喧騒も何もかもを鎮めるようで、丁度自分達の近くに来るとピタリと止んだ。
「ちっす」
「ああ、悠。陽介達も、こんばんは」
巽の声に顔を上げて、彼は言う。
周りの目なんて、全く見えてないみたいに。
「……こん、ばんは。……えっと、」
「完二のお母さんから戴いたんだ。……まあ、言いたい事は分かってるから」
「うひょー!ユキサンもとっても似合ってるクマねー!カンジといると美女と野獣クマ!」
「あ、それだ」
「あぁ!?」
茶化すクマたちに殴りかからんとする巽を見ながらどのタイミングで止めるべきかと考えていた桜木の、その裾をぐいと誰かが引っ張る。
「……?誰ーーー」