彼を知る者
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顔だけでも見たいからと、久しぶりに遠くまで電車に乗った。
ビルが立ち並ぶ景色が徐々に住宅、樹木へと変わっていき、最終駅も近くなったところで降りる。
乗っている間鳴上と名乗った青年はずっと所在なさげにそわそわしていて、けれど何かを聞くことはなかった。
きっと、何かの地雷を踏むのを恐れているんだろう。
駅からタクシーに乗りしばらくすれば、少し古ぼけた一軒家が見えてきた。
「あれです。あの家」
「…へえ」
タクシーの運転手にお代を払い、実家でさえ鍵をかけなかった彼の事だからあまり機能していないだろうインターホンを鳴らす。しばらくしてゆっくりとドアを開けたその人物に、僕は確かに見覚えがあった。
最後戦った時よりも、少し痩せたか。赤い瞳は何度か見え隠れした後自分を捉え、そして首をかしげる。
「……あれ…えっと……湊…?」
「…久しぶり、ユキ」
「久しぶり、湊。今、何か出すね」
そう言って一度後ろを向く彼は、頭が回るのが相変わらず早い。
「ううん、すぐ帰るから大丈夫。ほら、これ」
呼び止め紙袋をその手に掴ませれば、ユキは「?」と中を覗いた。
「忘れ物。僕があげた、ブレスレットと指輪。それと……」
「……ぬいぐるみ?」
白黒二つの、手のつないだウサギのぬいぐるみ。
あの子に頼まれた、大切なもの。
「ああ……ごめんね、誰のか思い出せなくて、置いてきちゃってたんだ……」
彼は懐かしそうに目を細め、そっか、俺のだった、と頷いて受け取る。
「大切にする。ありがと、湊」
「…ううん」
かぶりを振れば、ユキは俺も駅まで送るから待っててと奥に消えた。
少しだけの静寂。耐え切れなくなったのは僕のほうで、独り言のように口を開く。
「…彼は、強かった。ずっと一人で戦ってたんだなって分かるくらい」
「!」
「でも、たまに何処か抜けてたり、危なっかしかった。仲間を助ける為に銃弾から庇うとか、余裕でしちゃうから」
たははと笑えば、今もそんな感じだと小さく返ってくる。
そうだろう。彼はきっと、ずっと変わらないのだ。
「彼は、彼自身を大切にしてくれなかった。どんなに言っても、無駄だった。
彼はいつだって……いつだって、”誰かの為””約束の為”に動いてた」
拳に、自然と力がこもる。
自分も、「助けられた側」だから。
「僕は、そんな彼に惹かれてた。…まあ、全然気づいてくれないんだけどね、ユキは」
「……」
「……生きててくれて、よかった…」
心の底から、そう思った。
誰よりも、何よりも。
「また来て。いつでもいいから」
「…うん。授業が落ち着いたら、すぐ来る」
単位落とすなよ、そっちこそ高校卒業しなよ、そんな軽口を蝉の声に混じらせ、駅の前で手を握り合う。
手は相変わらず冷たくて、白くて、細くて。
目頭が熱くなりそうなのを抑えながら、僕は数年ぶりにあった友人とまた約束をした。
ー花火を見るのは、もう少し余裕ができてからでいいから。
ビルが立ち並ぶ景色が徐々に住宅、樹木へと変わっていき、最終駅も近くなったところで降りる。
乗っている間鳴上と名乗った青年はずっと所在なさげにそわそわしていて、けれど何かを聞くことはなかった。
きっと、何かの地雷を踏むのを恐れているんだろう。
駅からタクシーに乗りしばらくすれば、少し古ぼけた一軒家が見えてきた。
「あれです。あの家」
「…へえ」
タクシーの運転手にお代を払い、実家でさえ鍵をかけなかった彼の事だからあまり機能していないだろうインターホンを鳴らす。しばらくしてゆっくりとドアを開けたその人物に、僕は確かに見覚えがあった。
最後戦った時よりも、少し痩せたか。赤い瞳は何度か見え隠れした後自分を捉え、そして首をかしげる。
「……あれ…えっと……湊…?」
「…久しぶり、ユキ」
「久しぶり、湊。今、何か出すね」
そう言って一度後ろを向く彼は、頭が回るのが相変わらず早い。
「ううん、すぐ帰るから大丈夫。ほら、これ」
呼び止め紙袋をその手に掴ませれば、ユキは「?」と中を覗いた。
「忘れ物。僕があげた、ブレスレットと指輪。それと……」
「……ぬいぐるみ?」
白黒二つの、手のつないだウサギのぬいぐるみ。
あの子に頼まれた、大切なもの。
「ああ……ごめんね、誰のか思い出せなくて、置いてきちゃってたんだ……」
彼は懐かしそうに目を細め、そっか、俺のだった、と頷いて受け取る。
「大切にする。ありがと、湊」
「…ううん」
かぶりを振れば、ユキは俺も駅まで送るから待っててと奥に消えた。
少しだけの静寂。耐え切れなくなったのは僕のほうで、独り言のように口を開く。
「…彼は、強かった。ずっと一人で戦ってたんだなって分かるくらい」
「!」
「でも、たまに何処か抜けてたり、危なっかしかった。仲間を助ける為に銃弾から庇うとか、余裕でしちゃうから」
たははと笑えば、今もそんな感じだと小さく返ってくる。
そうだろう。彼はきっと、ずっと変わらないのだ。
「彼は、彼自身を大切にしてくれなかった。どんなに言っても、無駄だった。
彼はいつだって……いつだって、”誰かの為””約束の為”に動いてた」
拳に、自然と力がこもる。
自分も、「助けられた側」だから。
「僕は、そんな彼に惹かれてた。…まあ、全然気づいてくれないんだけどね、ユキは」
「……」
「……生きててくれて、よかった…」
心の底から、そう思った。
誰よりも、何よりも。
「また来て。いつでもいいから」
「…うん。授業が落ち着いたら、すぐ来る」
単位落とすなよ、そっちこそ高校卒業しなよ、そんな軽口を蝉の声に混じらせ、駅の前で手を握り合う。
手は相変わらず冷たくて、白くて、細くて。
目頭が熱くなりそうなのを抑えながら、僕は数年ぶりにあった友人とまた約束をした。
ー花火を見るのは、もう少し余裕ができてからでいいから。