おかしなお茶会 後
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夜。
ガチャリとドアの開いた音に、桜木は薄く目を開ける。
今は、何時だろうか。あのあと医者が来て、悠達から連絡があって、それから……
そこまで考えたところで、寝室のドアが開く。
「…りょうたろう、さん……?」
「おお、生きてるか?」
「……死んでたら、吃驚だ……」
そう返すと遼太郎さんは「大丈夫そうだな」と笑って、布団の傍にどっかりと腰を下ろした。
「あー……アイス、食えるか?」
「ん……」
ガサリ。スーパーの袋が音を立てたのに、俺は微かに頷く。
そして上体を起こしてカップアイスを受け取り、食べようとすると、上手く力が入らずぼとりと寝巻き替わりにしてたシャツにアイスが落ちた。
「あっ……」
「仕方ねえなあ……ほら、口あけろ」
遼太郎さんが呆れた顔でアイスを奪い、そしてスプーンで掬って口元に持ってくる。
「あー……」
素直に口を開ければ、そこに冷たくて甘い味が広がった気がした。
「冷たくて、おいしい……」
「……そうか」
もっと食えるか?と聞かれ、小さく頷く。
空腹は満たされている気がするものの、胃袋は消化するものがないと活動停止気味だ。アイスで活動できるかというとそうでもない気がするが、何か腹に入れておいた方がいいだろう。
全て食べ終わるとまた横になり、それを遼太郎さんはただ見つめる。
「……ほら、他にして欲しい事、あるか?」
そう言われ、ぼぅっとした頭は考える。
「、手」
「?」
「手を、握ってほしい……寝るまでで、いいから……」
そう、寝るまで。
すぐ寝てしまえば、この人はすぐに帰って眠れるだろうから。
遼太郎さんは頷き、俺の手に触れる。
「……こんな熱出してても、冷てえんだな……」
その言葉を聞きながら、俺はゆっくり目を閉じた。
『おとうさん、ユキおにいちゃんのところ、行ってあげて?』
『菜々子ね、分かるの。ユキおにいちゃん、ひとりぼっちになれちゃってる。
あたりまえだからって、沢山のこと、がまんするのになれちゃってるの』
『……菜々子、そんな辛いのになれるなんて出来ないけど……多分、なれちゃダメなことだと思う!』
仕事も終わり、家に帰ってきた後に娘に言われた言葉を、頭の中で繰り返す。
寝るまででいいと言った手は、決して遼太郎の手を掴もうとせず、時折掴む仕草をしようとしてはピタリと止まり離れていった。
それに、実際はしっかりと眠れていないのだろう。繰り返される呼吸は定まらず、けれど心配をかけまいとしているのか、表情は眠ったような状態のまま、変わらない。
(……一人に慣れ過ぎてる、か……)
熱を出している時さえ、僅かしか甘えられないとは。
開いているようで開いていない、中途半端な心。
善意をちゃんと受け取れるのに、それに期待のかけらも持っていない。
「…………」
コイツはどれだけ、『手のかからない子』として過ごしてしまったのだろう。
”手のかからない子”は、どれだけ、悲しい子として育ってしまうのだろう。
「……桜木、」
せめて。
せめてあと少しだけ、此処にいよう。
手をこちらから握ってやれば、彼は少しだけ、笑ったように見えた。
ガチャリとドアの開いた音に、桜木は薄く目を開ける。
今は、何時だろうか。あのあと医者が来て、悠達から連絡があって、それから……
そこまで考えたところで、寝室のドアが開く。
「…りょうたろう、さん……?」
「おお、生きてるか?」
「……死んでたら、吃驚だ……」
そう返すと遼太郎さんは「大丈夫そうだな」と笑って、布団の傍にどっかりと腰を下ろした。
「あー……アイス、食えるか?」
「ん……」
ガサリ。スーパーの袋が音を立てたのに、俺は微かに頷く。
そして上体を起こしてカップアイスを受け取り、食べようとすると、上手く力が入らずぼとりと寝巻き替わりにしてたシャツにアイスが落ちた。
「あっ……」
「仕方ねえなあ……ほら、口あけろ」
遼太郎さんが呆れた顔でアイスを奪い、そしてスプーンで掬って口元に持ってくる。
「あー……」
素直に口を開ければ、そこに冷たくて甘い味が広がった気がした。
「冷たくて、おいしい……」
「……そうか」
もっと食えるか?と聞かれ、小さく頷く。
空腹は満たされている気がするものの、胃袋は消化するものがないと活動停止気味だ。アイスで活動できるかというとそうでもない気がするが、何か腹に入れておいた方がいいだろう。
全て食べ終わるとまた横になり、それを遼太郎さんはただ見つめる。
「……ほら、他にして欲しい事、あるか?」
そう言われ、ぼぅっとした頭は考える。
「、手」
「?」
「手を、握ってほしい……寝るまでで、いいから……」
そう、寝るまで。
すぐ寝てしまえば、この人はすぐに帰って眠れるだろうから。
遼太郎さんは頷き、俺の手に触れる。
「……こんな熱出してても、冷てえんだな……」
その言葉を聞きながら、俺はゆっくり目を閉じた。
『おとうさん、ユキおにいちゃんのところ、行ってあげて?』
『菜々子ね、分かるの。ユキおにいちゃん、ひとりぼっちになれちゃってる。
あたりまえだからって、沢山のこと、がまんするのになれちゃってるの』
『……菜々子、そんな辛いのになれるなんて出来ないけど……多分、なれちゃダメなことだと思う!』
仕事も終わり、家に帰ってきた後に娘に言われた言葉を、頭の中で繰り返す。
寝るまででいいと言った手は、決して遼太郎の手を掴もうとせず、時折掴む仕草をしようとしてはピタリと止まり離れていった。
それに、実際はしっかりと眠れていないのだろう。繰り返される呼吸は定まらず、けれど心配をかけまいとしているのか、表情は眠ったような状態のまま、変わらない。
(……一人に慣れ過ぎてる、か……)
熱を出している時さえ、僅かしか甘えられないとは。
開いているようで開いていない、中途半端な心。
善意をちゃんと受け取れるのに、それに期待のかけらも持っていない。
「…………」
コイツはどれだけ、『手のかからない子』として過ごしてしまったのだろう。
”手のかからない子”は、どれだけ、悲しい子として育ってしまうのだろう。
「……桜木、」
せめて。
せめてあと少しだけ、此処にいよう。
手をこちらから握ってやれば、彼は少しだけ、笑ったように見えた。