おかしなお茶会 後

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ユキを助けてくれないの?』
小さな子供の、声だった。
さっきまで拙い発音で、アリスを読んでいた声だった。
助けてくれないの、と彼は問う。
自分から、助けてほしい、とは言えないかのように。
事実、ユキさん自身から、「助けて」なんて言われた事は無かった。
「大丈夫」「慣れてるから」。それが当たり前かのようにあの人は言っていた。
『……そろそろ、終わりにしようか』
ハッターは肩を竦め、ふわりと飛ぶ。
もう、皆ペルソナを使う余力さえ残っていないだろう。
それでも、

『暗闇に閉じ込められたひとりぼっちの寂しい兎。助けてくれるのはだぁれ?』

「、い、ざな、ぎ……っ!!!」
よろけながら立ち上がり、カードを壊す。
(俺は、ユキさんを助けたい!!)
そのままハッターに目がけて特攻を仕掛ければ、ハッターはそこで初めて、驚いたような表情を見せた。
「っ、ああああああああ!!!」
『!!』
一閃。しかしそれさえも帽子屋は受け流してみせ、元の場所に戻る。
そして何か考えるように唇に指を当てて、ゆっくり口を開いた。
『及第点。んー……18点かな?』
「ひっくう!?」
『そんな言わないでよ、だって、ハンデつきで、それも回復は無限にさせてたはずだよ?
 それなのに一撃も当たらないなんて……まあ、勢いでよく頑張りました、って感じだし』
辛辣な感想。テーブルにいつの間にか並んでいたマカロンを齧りつつそう言った帽子屋に、自分達は思わず顔を俯かせた。
しかしそれにも構わずハッターは手招きし、それに合わせて彼の向かいの椅子が幾つか下がる。
『とりあえずそこに座りなよ。聞きたいんだろ?』
「へ……」
『点数分は教えてあげるって……あれ、それとも成果なしで帰る?それでもいいんだけど』
むしゃむしゃ、もしゅもしゅ。
シュークリームを食べ、ケーキをつまみ、彼は口の周りをクリーム塗れにしながら首を傾げる。
その姿がさっきまでとあまりにも違いすぎて、俺はクスリと笑って彼に近づき、その口周りを拭ってやった。
「付いてるぞ、ハッター
『んん……ごめんね、ありがと』
彼はふにゃりと笑って見せ、そして『君も食べる?』と尋ねてくる。
「いや……というか、そんなに食べていて大丈夫なのか?」
『俺が出したものだから、本人の体力回復くらいにはなるよ。本体が全然食べないから、俺とかが食べるしかないわけ』
それも含めて説明するから、座って?
そう促され、俺と陽介達は顔を見合わせてからそれぞれ自由に席についた。
コホン。ハッターは咳払いし、話を切り出す。
『まずシャドウについて、軽く補足しようか。これはただの補足だから、点数は加味しない』
「……あぁ」
『シャドウは誰かから生まれた”もう一人の自分”。ペルソナとして肯定されず埋められた認めてもらえない人格の果て。
 だから俺はシャドウを倒す事を、人殺しと相違ないと思ってる』
「……」
『まあ、シャドウは結局、受け入れてもらえなかった人格だ。それを倒したって、その人格を捨てた誰かの気持ちが一時的にすっきりするだけで、それは無限に湧くだろう。キリがない行為だよね。
マヨナカテレビのシャドウが倒しても倒しても全滅しないのは、つまるところそういう事なんだよ』
くるくるとティーカップが周り、ハッターはそれを取って口に含んでから話を続けた。
『事実、人殺しと罵られても、気味が悪いと嘲られても、それでも俺は戦いをやめなかった。
 今までも、これからも』
「今まで?」
『ここから点数分ね。……俺は12年前から10年間、ずっとペルソナ使いだった。
 その時のペルソナは二つ。俺は、世界の滅亡と戦ったんだ』
「は、……?」
『突拍子もないだろう?でも事実なんだ。
 俺は救世主になって、そしてその代償に、一番大切だった「記憶」を全て手放した』
両手を開けば、どこからか出た飴がパラパラと下に落ちていく。
『もう12年の間、俺は俺でありながら、本当の俺ではなかった。
 感情は彼の前のペルソナが保管してるし、記憶は……完全には、もう取り戻せないかもしれない』
その声はゆったりとしていて、それでもユキさんに似た冷たさがあった。
「……記憶が取り戻せないって、どーゆーこと?それに、感情を保管してるって……」
『記憶を代償に世界を救ったって言ったろ?
それに……少しずつ、少しずつしか返せないんだよ、感情は。
 だって、両親を目の前で亡くした彼自身が、前を向く為に除くことを望んだんだからね』
「……」
要らないと言われたから、全てを返せない。
きっと一度に返しても、拒絶してくるから。
『彼のペルソナは今のところ三つ。時計ウサギに、黒ウサギ、そして帽子屋の俺。
 時計ウサギは約束を守り続け、黒ウサギは感情を宿し、俺は何も持たない彼の投影。これは君達のペルソナと違う点だね。本来否定したがっていた自分ではなくて、ただのコピーと捉えた方が正確だろう』
「コピー?」
『なにせ彼は、自分を否定する要素がなかった。蔑まれていても、そのままの自分を受け入れていたんだ。だから僕らは彼の一番大切な……アリスの登場人物の姿を借りてとっている』
君達みたいに、自分のシャドウとなんか対峙したことなんてない。ハッターはそう言って、クラッカーをつまんだ。
『それで、さっきの食べる食べないって話だけど、本体に食欲がないせいで中々何かを食べようとはしてくれないんだ。それで代わりに俺達がこうして食べて、ある程度は繋いでる感じかな』
「え……」
『食べなきゃ死ぬって感情もないんだよ、本体は。寧ろ死んだってその時はその時だろうって考えちゃう。すっごく胃が小さくなってる彼に何か食えって強制も出来ないし、だから俺らは食べてる』
ま、満腹になる訳じゃない気休めだけど。1切れのアップルパイを美味しそうに頬張るハッターは、それで満足したのか口を拭ってもう一度こちらを見た。
『俺が話せるのはこれだけ。もし知りたいのなら、辰巳ポートアイランドに行くといい』
「……辰巳、ポートアイランド?」
『そこに僅かだけれど、まだアイツのことを覚えている奴らがいる。もし会えたら、話が出来るんじゃないかな』
ニコニコと笑う彼に、俺達は顔を見合わせる。
「そこまで言って大丈夫なの?」
そう聞いたのは天城だ。するとハッターは目を細めて『あぁ』と頷いた。
『それが記憶の望みだからね』
「記憶の……?」
『アイツには、返せるだけの僅かな感情と、覚えているだけの僅かな記憶を与えておく。あとはまあ、お前ら次第だよ』
これは、点数分の回答にはならないらしい。
帽子屋は立ち上がって伸びをすると、ニヤリと笑った。
『……Don't forget!』
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