おかしなお茶会 後
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―ただの、気まぐれだった。
―「今日は弁当ナシだ」と言われて、彼が熱を出したとか言われて。
―丁度昼休憩がてら、近くを寄ったから。
「……なんで、んなトコで寝てんだよ」
最早ドアの鍵がその役割を発揮さえしていない、静かな家。
そのドアの向こうの廊下で、彼はぐったりと壁にもたれかかるように座り込んでいた。
「……」
ひどく顔色の悪い彼は声にピクリ、と反応し、ゆっくりと瞼を開ける。
「あ、だち、さん…?」
熱のこもった掠れた声。立ち上がろうとしたのを制止して、彼に近づき額に手をやる。
途端、外で随分と温まっていた筈の掌が更に熱を持ち、僕は顔を顰めた。
「ちょっと、薬とかないの?熱全然下がってないでしょ」
「今朝、薬、もらいに、びょーいん、いこうと、けど、たおれちゃって」
「……君ねぇ」
あっきれた。
この息も絶え絶えな青年は、朝から今までこの廊下で気を失っていたらしい。
僕はぐいと彼の腕を掴んで立たせ、布団がある部屋まで肩を貸してやった。
そして彼を寝かせると、彼の携帯を拝借して主治医とやらにメールを送る。これで病院に行かずとも、その主治医から何かレスポンスは来るだろう。数分後に「今から向かいます」という返事が来たのを確認しながら、僕は彼にぼやいた。
「もうちょっと僕らに頼るとかしなよ。ほら、堂島さんとかさ」
堂島さんなら、頼まれれば休みを取ってでも看病しそうだ。そう言うと彼は目を細め、掠れた声を出した。
「……からない」
「へ?」
「たよる、って、どうしたらいいん、です、か」
「……筋金入りかよ」
やや眉を八の字にさせた彼の額を軽く叩き、僕はため息をつく。
「深く考えなくていいから、ひとまず目を閉じな」と言えば、彼は言われた通りに目を閉じた。
寝ているのかはわからない。ただ彼が熱に浮かされるのも、正常な判断が出来ていないのも事実だ。
「……君の作ったアスパラガスの料理さぁ、変なんだよ」
ポソリ。 独り言のように呟いたそれは、家主の耳に届くこと無く空気に溶ける。
「あんな苦いものなのに、やたら美味しくて、……ひと月100円のクオリティじゃないだろ、馬鹿じゃねえのってさ」
皮肉めいた、自分の言葉じゃないような、それでも本心から出てくる感想。
「でもきっと、それは君が君自身にかけた呪い、なんだろうね。
愚かなくらい真っ直ぐに育つような、綺麗すぎて気持ち悪い呪い。」
ミンミンと、忙しなく1週間を謳歌する蝉の声が聴こえてくる。
真夏日、エアコンもついていない扇風機だけのその部屋は、なぜだかとても涼しかった。
―「今日は弁当ナシだ」と言われて、彼が熱を出したとか言われて。
―丁度昼休憩がてら、近くを寄ったから。
「……なんで、んなトコで寝てんだよ」
最早ドアの鍵がその役割を発揮さえしていない、静かな家。
そのドアの向こうの廊下で、彼はぐったりと壁にもたれかかるように座り込んでいた。
「……」
ひどく顔色の悪い彼は声にピクリ、と反応し、ゆっくりと瞼を開ける。
「あ、だち、さん…?」
熱のこもった掠れた声。立ち上がろうとしたのを制止して、彼に近づき額に手をやる。
途端、外で随分と温まっていた筈の掌が更に熱を持ち、僕は顔を顰めた。
「ちょっと、薬とかないの?熱全然下がってないでしょ」
「今朝、薬、もらいに、びょーいん、いこうと、けど、たおれちゃって」
「……君ねぇ」
あっきれた。
この息も絶え絶えな青年は、朝から今までこの廊下で気を失っていたらしい。
僕はぐいと彼の腕を掴んで立たせ、布団がある部屋まで肩を貸してやった。
そして彼を寝かせると、彼の携帯を拝借して主治医とやらにメールを送る。これで病院に行かずとも、その主治医から何かレスポンスは来るだろう。数分後に「今から向かいます」という返事が来たのを確認しながら、僕は彼にぼやいた。
「もうちょっと僕らに頼るとかしなよ。ほら、堂島さんとかさ」
堂島さんなら、頼まれれば休みを取ってでも看病しそうだ。そう言うと彼は目を細め、掠れた声を出した。
「……からない」
「へ?」
「たよる、って、どうしたらいいん、です、か」
「……筋金入りかよ」
やや眉を八の字にさせた彼の額を軽く叩き、僕はため息をつく。
「深く考えなくていいから、ひとまず目を閉じな」と言えば、彼は言われた通りに目を閉じた。
寝ているのかはわからない。ただ彼が熱に浮かされるのも、正常な判断が出来ていないのも事実だ。
「……君の作ったアスパラガスの料理さぁ、変なんだよ」
ポソリ。 独り言のように呟いたそれは、家主の耳に届くこと無く空気に溶ける。
「あんな苦いものなのに、やたら美味しくて、……ひと月100円のクオリティじゃないだろ、馬鹿じゃねえのってさ」
皮肉めいた、自分の言葉じゃないような、それでも本心から出てくる感想。
「でもきっと、それは君が君自身にかけた呪い、なんだろうね。
愚かなくらい真っ直ぐに育つような、綺麗すぎて気持ち悪い呪い。」
ミンミンと、忙しなく1週間を謳歌する蝉の声が聴こえてくる。
真夏日、エアコンもついていない扇風機だけのその部屋は、なぜだかとても涼しかった。