おかしなお茶会 前
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その真ん中に敷かれた真っ白な布団に体を預け、ぼうっとこちらを見る赤い双眸と目が合った。
「……悠?」
「ユキさん、色々持ってきました」
とりあえずと体温計を渡し、緩慢な動作でそれを脇にさす間、彼の顔を見る。
元々色白の肌は真っ赤に火照り、出会った時よりもやや長くなった髪がそれを包む。
紅の瞳は潤んで、水晶玉のようだなと思った。
「…悠……何か、あったの…?」
「え?」
「さっきの電話……焦ってたし、テレビに何か映った?」
「あ、その……実は…」
促されるままに腰をおろし、さっきのマヨナカテレビについて話す。
するとユキさんは「テレビに俺が、ね……」と息を吐いた。
「けほっ……そっか。じゃあ、俺の推測を言ってもいいかな」
何か参考になるかもしれないし。そう言ったユキさんに、俺は小さく頷く。
すると彼はゆっくりと、時折せき込みながら言葉を紡いだ。
「それは俺のペルソナであって、俺自身ではない。
何故なら今俺には感情が殆どないからな。
そして彼の、ハッターの目的は“俺の過去を告げる事”だと思う。
もう手に入らないものは過去にしかない。俺のペルソナが記憶を全部持っているかというと、そうでない可能性の方が高いけど、“俺のペルソナであった時の彼自身の記憶”はあるだろう。答えがないっていうのは、持っている記憶や感情が俺自身と共有されてないって事なんだろうね」
そこまで言って、「ここからは、もしハッターと戦う事になった場合なんだけど」と小声で語る。
「…アンタ等がハッターを倒すのは不可能だ。狐に回復代は全部俺が持つって教えて、沢山回復してもらえ。それで……倒すんじゃなく、守る事を最優先にしろ」
「戦うって……でも、知りたいなら教えてくれるって話じゃ…」
「そこまで明言してないからな……けほっ……念のためだ、気にするな。
もし歩けるようになったら、俺も行くから…」
「だーめ!ユキさんは休んでください!」
りせがそう言いながら、「体温計、何度でした?」と訊いてくる。
するとユキさんは高い数値が表示された体温計を無言で渡し、熱そうに手を仰いだ。
「げっ39度越え……夏風邪にしては高すぎません?」
「ストレス性とかになるのかな……一応、朝になったらお医者さん呼んでおきますか?」
「医者……?」
彼は反芻すると緩く首を振り、「いらない」と答える。
「寝たら治るし、大丈夫」
「で、でも……」
「大丈夫」
「………」
パタリとドアを閉め、鍵のかからないこの小さな家に溜息をつく。
「……ユキさん、笑ってた」
りせがポツリと口を開き、顔を俯かせた。
「なんで、あんな熱で、大丈夫なんて言って笑えちゃうのかな?」
“大丈夫”。
それは拒絶じゃなくて、でも、悲しいほどにこちら側を入れない声だった。
熱で真っ赤になりながらマヨナカテレビに出てきた“彼”とそっくりな笑顔を浮かべたユキさんはそれ以上何も言わず、静かに目を閉じ眠ってしまった。
(感情が抜け落ちてる、って、ユキさんは最初言っていたけど……)
ほんとうに、抜け落ちてしまったんだろうか。
抜け落ちてしまってもなお……ああやって、人に迷惑をかけまいと笑顔を形作ってしまうのだろうか。
ずっと考え込んでしまっていたのか、りせがまた気を取り直したように口を開く。
「きっと、ユキさんのペルソナが教えてくれるよね!」
「あ、あぁ…そうだな」
「じゃあ明日行ってみよう!明日も皆暇してるって言ってたし!」
「連絡しておくよ」
花村に言えば、開店前にこっそり入れてくれるかもしれないしな。
そう言って笑えば、りせもそうだね、と笑い歩き始めた。
「……悠?」
「ユキさん、色々持ってきました」
とりあえずと体温計を渡し、緩慢な動作でそれを脇にさす間、彼の顔を見る。
元々色白の肌は真っ赤に火照り、出会った時よりもやや長くなった髪がそれを包む。
紅の瞳は潤んで、水晶玉のようだなと思った。
「…悠……何か、あったの…?」
「え?」
「さっきの電話……焦ってたし、テレビに何か映った?」
「あ、その……実は…」
促されるままに腰をおろし、さっきのマヨナカテレビについて話す。
するとユキさんは「テレビに俺が、ね……」と息を吐いた。
「けほっ……そっか。じゃあ、俺の推測を言ってもいいかな」
何か参考になるかもしれないし。そう言ったユキさんに、俺は小さく頷く。
すると彼はゆっくりと、時折せき込みながら言葉を紡いだ。
「それは俺のペルソナであって、俺自身ではない。
何故なら今俺には感情が殆どないからな。
そして彼の、ハッターの目的は“俺の過去を告げる事”だと思う。
もう手に入らないものは過去にしかない。俺のペルソナが記憶を全部持っているかというと、そうでない可能性の方が高いけど、“俺のペルソナであった時の彼自身の記憶”はあるだろう。答えがないっていうのは、持っている記憶や感情が俺自身と共有されてないって事なんだろうね」
そこまで言って、「ここからは、もしハッターと戦う事になった場合なんだけど」と小声で語る。
「…アンタ等がハッターを倒すのは不可能だ。狐に回復代は全部俺が持つって教えて、沢山回復してもらえ。それで……倒すんじゃなく、守る事を最優先にしろ」
「戦うって……でも、知りたいなら教えてくれるって話じゃ…」
「そこまで明言してないからな……けほっ……念のためだ、気にするな。
もし歩けるようになったら、俺も行くから…」
「だーめ!ユキさんは休んでください!」
りせがそう言いながら、「体温計、何度でした?」と訊いてくる。
するとユキさんは高い数値が表示された体温計を無言で渡し、熱そうに手を仰いだ。
「げっ39度越え……夏風邪にしては高すぎません?」
「ストレス性とかになるのかな……一応、朝になったらお医者さん呼んでおきますか?」
「医者……?」
彼は反芻すると緩く首を振り、「いらない」と答える。
「寝たら治るし、大丈夫」
「で、でも……」
「大丈夫」
「………」
パタリとドアを閉め、鍵のかからないこの小さな家に溜息をつく。
「……ユキさん、笑ってた」
りせがポツリと口を開き、顔を俯かせた。
「なんで、あんな熱で、大丈夫なんて言って笑えちゃうのかな?」
“大丈夫”。
それは拒絶じゃなくて、でも、悲しいほどにこちら側を入れない声だった。
熱で真っ赤になりながらマヨナカテレビに出てきた“彼”とそっくりな笑顔を浮かべたユキさんはそれ以上何も言わず、静かに目を閉じ眠ってしまった。
(感情が抜け落ちてる、って、ユキさんは最初言っていたけど……)
ほんとうに、抜け落ちてしまったんだろうか。
抜け落ちてしまってもなお……ああやって、人に迷惑をかけまいと笑顔を形作ってしまうのだろうか。
ずっと考え込んでしまっていたのか、りせがまた気を取り直したように口を開く。
「きっと、ユキさんのペルソナが教えてくれるよね!」
「あ、あぁ…そうだな」
「じゃあ明日行ってみよう!明日も皆暇してるって言ってたし!」
「連絡しておくよ」
花村に言えば、開店前にこっそり入れてくれるかもしれないしな。
そう言って笑えば、りせもそうだね、と笑い歩き始めた。