新たな事件
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―誰も来ない、白い、白い空間。
ニュクスの眠るドアの前に、一人の青年が腰を下ろしていた。
ドアには頑丈に鎖が掛かっていて、それが縛り上げるように白い髪の少年に繋がっている。
青年の白い髪にはピョコンと兎の耳が生え、首から止まった懐中時計をぶら下げてぼんやりと上を見上げては呟く。
「……彼は、元気かな」
二年前に別れた、自分と瓜二つの、自分の”本体”。
彼は”記憶”を失い、”約束”も”感情”も切り離された。
”感情”を受け持つ黒兎は彼を影で見守る事にしたらしく、たまに帰ってくるものの、その殆どを彼の影で過ごす事に費やしていた。その感覚は”記憶”の媒体である少年とリンクしているため、少年はその様子を、嘗て友であった望月綾時……ニュクスに伝え、そして一緒に遊んでもらっているらしい。
らしいというのは、自分がそのどちらともリンクしていないためだ。
「楽しい」「寂しい」とはしゃぐその声を、ドア越しから微かに漏れ聞く事しかできないからだ。
自分はただニュクスとの約束のために存在し、それが果たされた今は彼と繋がる術は殆どない。
『ぐ……ぐおぉ……』
「……」
目の前で、黒い塊が、むくむくと大きくなる。
名はエレボス。人々の死の渇望の具現であり、ニュクスを目覚めさせようとする最大悪。
―それでも、……きっと彼なら、
時計兎は手を広げ、その塊を包み込んだ。
「……『いいよ、もう、休んでも』」
―その渇望は、拒絶するものじゃないから。
エレボスは動揺し、動きを弱める。
「『その想いを、俺は受け入れる』」
スウゥ……
黒い塊がじわりじわりと、時計兎の肌に吸い込まれて消えていった。
全てが消えたのを確認してふうと息を吐き、また扉にもたれかかる。
「……」
ずっと、この繰り返しだった。
ひたすら受け入れて、受け入れて、自分が狂気に犯されないのを確認した。
―狂気と同化しない限り、彼は大丈夫。
―彼が”自分”を見失わない限り、自分は狂わない。
時計兎は膝を抱えて蹲り、小さく呟く。
「……もし、もし俺が狂ったら……」
―今度は”俺”を助けてくれるかな、湊。