”演じる”
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真っ白な髪、冷たい目。
ただただ月のような静けさを纏ったその人は、必ず三日に一度お店に姿を現した。
アタシの事は、そもそもあまり興味がないのか、深く追求はしてこない。
その代わり、こっちから何か話をふれば、ちゃんと聞いてくれる……そんな、不思議な人だった。
「昨日ね、警察が来たの。どうしてアイドル休んでるのかとか、最近危ないから気をつけろとか」
「ふうん」
「ユキさんは、何で、とか思わないの?」
ふと、気になってそう訊ねる。
するとユキさんは首を傾げて、「特には」と答えた。
「久慈川さんが、聞かれたくなさそうだったし。それに……そんなに介入できるほど、責任強くは無い」
「……そっか。えっと……ユキさんは、記憶喪失なんだっけ?」
「うん」
「全然そんな風に見えない。おばあちゃんも言ってたよ、『最初からここに住んでる人みたいだ』って」
冗談半分、本気半分でそう言えば、ユキさんは目を瞬かせて、「そう?」と呟く。
「うん。でも、ちょっと浮世離れしてるカンジ」
「……地に足ついてないんじゃ、ここに住めてないと思うけど」
幽霊?と眉間にほんの少し皺を寄せた彼に、クスリと笑う。
すると彼は不意にピクリと肩を揺らし、そして外のほうに目を向けジッと睨んだ。
「え?……どうかした?」
「……ちょっと待ってて」
ユキさんはそれだけ言うと外に出て、そして近くの電柱をひょいひょいと軽快に上っていく。
「!?」
思わず外に出ると、その電柱の上の方でしがみついている男性の腕を掴んでいる彼の姿があった。
彼は「ジッとして」とその男性に言うと、こちらを見て「知り合い?」と訊ねてくる。
「う、ううん!知らない!」
「そう。何か変なシャッター音したから。……下に下りるよ」
ユキさんは男性をおぶって、ひょいと地面に降りた。
そして彼が「何してたの?」と下ろしながら聞けば、男性は「り、りせちーの部屋とかが気になって……」とぼそぼそ答える。
「で、でも、日本には盗撮罪はないんだぞ!」
「……軽犯罪法第一条の23号。正当な理由なく、人の住居、浴場、更衣所、便所、その他、人が通常衣服を着けないでいるような場所をひそかにのぞき見た者は30日未満の拘留または1万円未満の科料となる。因みに、部屋の盗撮もこれにあたる」
スラスラと、流れるようにユキさんは答える。
アタシも盗撮犯も唖然として、ユキさんを見た。
「盗撮罪がなくたって、人のプライバシーに関わるものは本人の許可が無いと罪に問われる。
……警察に行くよ」
彼は犯人の腕を掴むと、犯人は観念したようにゆっくり歩き出した。
アタシはユキさんの隣について、「法律、覚えてるの?」と小声で聞いた。
「まあ……一応、全部」
「全部!?」
「覚えていて困るものじゃないからね」
「や、そういう問題じゃないでしょ……」
「自分の思い出とか、そういうのに関する事以外は多分覚えてるから」と、なんでもない事のようにいう彼に驚きを隠せない。
そしてふと思った事を、小声で尋ねた。
「……自分の過去とか思い出せないのって、辛くない?」
するとやっぱりユキさんは淡々と答えた。
「…辛い、とかは分からないけど、……親の事が思い出せないのが、少し嫌かな」
それはアタシが初めて聞いた、”感情のある”声だった。
哀しくて、寂しくて、悔しくて―そんな、いろんな感情が区別も出来ずに混ざりこんだ声。
アタシは何も返せずに、ただ彼の隣を黙って歩いていた。
―その翌日、久慈川りせは姿を消し、その代わり彼女のシャドウがマヨナカテレビに現れた。
ただただ月のような静けさを纏ったその人は、必ず三日に一度お店に姿を現した。
アタシの事は、そもそもあまり興味がないのか、深く追求はしてこない。
その代わり、こっちから何か話をふれば、ちゃんと聞いてくれる……そんな、不思議な人だった。
「昨日ね、警察が来たの。どうしてアイドル休んでるのかとか、最近危ないから気をつけろとか」
「ふうん」
「ユキさんは、何で、とか思わないの?」
ふと、気になってそう訊ねる。
するとユキさんは首を傾げて、「特には」と答えた。
「久慈川さんが、聞かれたくなさそうだったし。それに……そんなに介入できるほど、責任強くは無い」
「……そっか。えっと……ユキさんは、記憶喪失なんだっけ?」
「うん」
「全然そんな風に見えない。おばあちゃんも言ってたよ、『最初からここに住んでる人みたいだ』って」
冗談半分、本気半分でそう言えば、ユキさんは目を瞬かせて、「そう?」と呟く。
「うん。でも、ちょっと浮世離れしてるカンジ」
「……地に足ついてないんじゃ、ここに住めてないと思うけど」
幽霊?と眉間にほんの少し皺を寄せた彼に、クスリと笑う。
すると彼は不意にピクリと肩を揺らし、そして外のほうに目を向けジッと睨んだ。
「え?……どうかした?」
「……ちょっと待ってて」
ユキさんはそれだけ言うと外に出て、そして近くの電柱をひょいひょいと軽快に上っていく。
「!?」
思わず外に出ると、その電柱の上の方でしがみついている男性の腕を掴んでいる彼の姿があった。
彼は「ジッとして」とその男性に言うと、こちらを見て「知り合い?」と訊ねてくる。
「う、ううん!知らない!」
「そう。何か変なシャッター音したから。……下に下りるよ」
ユキさんは男性をおぶって、ひょいと地面に降りた。
そして彼が「何してたの?」と下ろしながら聞けば、男性は「り、りせちーの部屋とかが気になって……」とぼそぼそ答える。
「で、でも、日本には盗撮罪はないんだぞ!」
「……軽犯罪法第一条の23号。正当な理由なく、人の住居、浴場、更衣所、便所、その他、人が通常衣服を着けないでいるような場所をひそかにのぞき見た者は30日未満の拘留または1万円未満の科料となる。因みに、部屋の盗撮もこれにあたる」
スラスラと、流れるようにユキさんは答える。
アタシも盗撮犯も唖然として、ユキさんを見た。
「盗撮罪がなくたって、人のプライバシーに関わるものは本人の許可が無いと罪に問われる。
……警察に行くよ」
彼は犯人の腕を掴むと、犯人は観念したようにゆっくり歩き出した。
アタシはユキさんの隣について、「法律、覚えてるの?」と小声で聞いた。
「まあ……一応、全部」
「全部!?」
「覚えていて困るものじゃないからね」
「や、そういう問題じゃないでしょ……」
「自分の思い出とか、そういうのに関する事以外は多分覚えてるから」と、なんでもない事のようにいう彼に驚きを隠せない。
そしてふと思った事を、小声で尋ねた。
「……自分の過去とか思い出せないのって、辛くない?」
するとやっぱりユキさんは淡々と答えた。
「…辛い、とかは分からないけど、……親の事が思い出せないのが、少し嫌かな」
それはアタシが初めて聞いた、”感情のある”声だった。
哀しくて、寂しくて、悔しくて―そんな、いろんな感情が区別も出来ずに混ざりこんだ声。
アタシは何も返せずに、ただ彼の隣を黙って歩いていた。
―その翌日、久慈川りせは姿を消し、その代わり彼女のシャドウがマヨナカテレビに現れた。