"当たり前"
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「ななこちゃん、ばいばーい!」
「うん、またあしたー!」
菜々子は友人に手を振り、赤いランドセルを揺らしながらやや早足で家へと向かう。
―今日は、もういるのかな。
―それとも、ちょっと遅れるのかな。
考えるのは、つい最近隣に住むようになった白髪の青年の事だ。
記憶が無いのだと言い、拾ってくれた事に関してある程度の恩は返したいとも告げた彼は、朝食と夕食、それとお弁当をあれからずっと作ってくれていた。
少し暗くなってから来る事もあれど、それより前に昼間一度来てるようで、冷蔵庫を開ければ菜々子用のおやつと下ごしらえされた具材が入っており、それが菜々子にとっての楽しみだった。
「ただいまー!」
キッチンに明かりがついているのが見え、彼女は元気よく家の引き戸を開ける。
すると少しして、パタパタと廊下を歩く音と「おかえり」という声が聞こえてきた。
「ユキおにいちゃん、ただいま!今日のおやつは?」
「ブドウゼリー。食べれるか?」
「うん!」
大きく頷けば、彼は「じゃ、ランドセル置いて手洗ってきな」と菜々子の頭を撫でる。
ひんやりと冷たいその手は太陽に照らされた髪にとって気持ちよくて、「はぁい」と返事をしてから自分の部屋へと向かった。
ランドセルを置いて巾着袋に入った(これも彼が作ってくれた)箸セットと宿題、筆箱を取り出してから一旦居間に行く。
そして手を洗って戻ってくれば、宿題を置いたテーブルにコトンと淡いラベンダー色をしたゼリーが置かれていた。
「いただきます」
「ん」
桜木は既に夕食の準備に移っていて、米を研ぐ作業を横目で見ながら菜々子はスプーンでゼリーをすくい口に入れる。
「どう?」
「おいしいよ!」
「そうか。ゆっくり食べな」
桜木の言葉に頷き、一口また一口とゼリーを食べた。
あっという間にゼリーはなくなり、菜々子は宿題に手をつけ始める。
ジャク、ジャク、ジャク。
一定のテンポで研がれる米の音が、耳に心地いい。
「おにいちゃん、今日の晩ごはんは?」
「オムライスとマカロニサラダ」
「やった!」
「卵、ふわふわとかたいのどっちがいい?」
「えっと、ふわふわ!お父さんも、ふわふわが大好きなんだよ!」
「そっか。鳴上君もふわふわがいいって言ってたから、お揃いだね」
「…うん!」
今日は堂島さんが早く帰ってくるといいね、なんて話をして。
マカロニサラダを作る頃には鳴上も帰ってきて、三人で晩御飯の支度をする事にした。
「……」
一人多い帰宅者に、桜木は目を細める。
するとその人物は彼に気づき、へらりと笑った。
「あ、ユキ君こんばんは」
「…こんばんは」
「悪いな、上がりが一緒だったんで、連れてきたんだ」
堂島がそう言いながらジャケットを置けば、彼は静かに首を横に振る。
「いえ、別に一人増えても大丈夫です。多めに作る予定だったんで。
ビールとおつまみも出しておくので、二人共手を洗ってきてくださいね」
「お、悪いな……おら、足立、さっさと手洗うぞ」
「はーい……なんか、完璧に家政夫みたいだね、ユキ君?」
「?」
足立に茶化されるも良く分からず、桜木は首を傾げながらチキンライスを人数分の皿に乗せた。
そして手早くふわふわの卵を作りのっけると、最後にレトルトのハヤシライスと生クリームをかけてテーブルに持っていく。
鳴上と菜々子はサラダや箸、そして飲み物などを並べ、二人が居間に戻ってくる頃には晩御飯の準備はしっかり整っていた。
堂島はそれを見て、「相変わらず豪華だな」と苦笑する。
「どれだけ料理覚えてるかっていう実験も兼ねてますので」
「あー、記憶喪失だもんね、君」
「あとそれと………作った料理の中に、お父さんやお母さんの生きていた証があるんじゃないかって思って。
それだけです」
桜木は淡々とそう言いながら空になったビール缶をひょいと取り、「ビールのおかわり要りますか?」と訊ねた。
「……いや、いい」
「そうですか」
缶を台所に置けば、「そろそろ俺帰りますね」と遼太郎に告げる。
「あ?もうか?」
「内職できる仕事、幾らか始めたんで。
弁当の下準備もしないといけませんし」
「そうか……まあ、無理はすんなよ」
「またお弁当楽しみにしてるよー」
「はい。鳴上君と菜々子ちゃんも、また明日ね」
ひらりと手を振られ、「おやすみなさい」と鳴上は返した。
足音が聞こえなくなると、遼太郎は深くため息をつく。
「はぁ……あれだけ手のかからねえガキなんて、いるわけねえと思ってたんだがなぁ…」
「まあ確かに、彼ってなんでも出来ちゃいますからねぇ」
何でも出来るから。
何でも一人で考えて、そして正解してしまうから。
『彼も一人の人間だという事を、忘れないであげてください』
医者の言っていた言葉。
それを意識すれば、彼の行動一つ一つに、ほんの微かな人間味があることはわかる。
けれど、だけれども。
(それが分かって、どう接したらいいのかが全く分からん……)
眉を寄せながら目を瞑れば、また自然とため息が出た。
「うん、またあしたー!」
菜々子は友人に手を振り、赤いランドセルを揺らしながらやや早足で家へと向かう。
―今日は、もういるのかな。
―それとも、ちょっと遅れるのかな。
考えるのは、つい最近隣に住むようになった白髪の青年の事だ。
記憶が無いのだと言い、拾ってくれた事に関してある程度の恩は返したいとも告げた彼は、朝食と夕食、それとお弁当をあれからずっと作ってくれていた。
少し暗くなってから来る事もあれど、それより前に昼間一度来てるようで、冷蔵庫を開ければ菜々子用のおやつと下ごしらえされた具材が入っており、それが菜々子にとっての楽しみだった。
「ただいまー!」
キッチンに明かりがついているのが見え、彼女は元気よく家の引き戸を開ける。
すると少しして、パタパタと廊下を歩く音と「おかえり」という声が聞こえてきた。
「ユキおにいちゃん、ただいま!今日のおやつは?」
「ブドウゼリー。食べれるか?」
「うん!」
大きく頷けば、彼は「じゃ、ランドセル置いて手洗ってきな」と菜々子の頭を撫でる。
ひんやりと冷たいその手は太陽に照らされた髪にとって気持ちよくて、「はぁい」と返事をしてから自分の部屋へと向かった。
ランドセルを置いて巾着袋に入った(これも彼が作ってくれた)箸セットと宿題、筆箱を取り出してから一旦居間に行く。
そして手を洗って戻ってくれば、宿題を置いたテーブルにコトンと淡いラベンダー色をしたゼリーが置かれていた。
「いただきます」
「ん」
桜木は既に夕食の準備に移っていて、米を研ぐ作業を横目で見ながら菜々子はスプーンでゼリーをすくい口に入れる。
「どう?」
「おいしいよ!」
「そうか。ゆっくり食べな」
桜木の言葉に頷き、一口また一口とゼリーを食べた。
あっという間にゼリーはなくなり、菜々子は宿題に手をつけ始める。
ジャク、ジャク、ジャク。
一定のテンポで研がれる米の音が、耳に心地いい。
「おにいちゃん、今日の晩ごはんは?」
「オムライスとマカロニサラダ」
「やった!」
「卵、ふわふわとかたいのどっちがいい?」
「えっと、ふわふわ!お父さんも、ふわふわが大好きなんだよ!」
「そっか。鳴上君もふわふわがいいって言ってたから、お揃いだね」
「…うん!」
今日は堂島さんが早く帰ってくるといいね、なんて話をして。
マカロニサラダを作る頃には鳴上も帰ってきて、三人で晩御飯の支度をする事にした。
「……」
一人多い帰宅者に、桜木は目を細める。
するとその人物は彼に気づき、へらりと笑った。
「あ、ユキ君こんばんは」
「…こんばんは」
「悪いな、上がりが一緒だったんで、連れてきたんだ」
堂島がそう言いながらジャケットを置けば、彼は静かに首を横に振る。
「いえ、別に一人増えても大丈夫です。多めに作る予定だったんで。
ビールとおつまみも出しておくので、二人共手を洗ってきてくださいね」
「お、悪いな……おら、足立、さっさと手洗うぞ」
「はーい……なんか、完璧に家政夫みたいだね、ユキ君?」
「?」
足立に茶化されるも良く分からず、桜木は首を傾げながらチキンライスを人数分の皿に乗せた。
そして手早くふわふわの卵を作りのっけると、最後にレトルトのハヤシライスと生クリームをかけてテーブルに持っていく。
鳴上と菜々子はサラダや箸、そして飲み物などを並べ、二人が居間に戻ってくる頃には晩御飯の準備はしっかり整っていた。
堂島はそれを見て、「相変わらず豪華だな」と苦笑する。
「どれだけ料理覚えてるかっていう実験も兼ねてますので」
「あー、記憶喪失だもんね、君」
「あとそれと………作った料理の中に、お父さんやお母さんの生きていた証があるんじゃないかって思って。
それだけです」
桜木は淡々とそう言いながら空になったビール缶をひょいと取り、「ビールのおかわり要りますか?」と訊ねた。
「……いや、いい」
「そうですか」
缶を台所に置けば、「そろそろ俺帰りますね」と遼太郎に告げる。
「あ?もうか?」
「内職できる仕事、幾らか始めたんで。
弁当の下準備もしないといけませんし」
「そうか……まあ、無理はすんなよ」
「またお弁当楽しみにしてるよー」
「はい。鳴上君と菜々子ちゃんも、また明日ね」
ひらりと手を振られ、「おやすみなさい」と鳴上は返した。
足音が聞こえなくなると、遼太郎は深くため息をつく。
「はぁ……あれだけ手のかからねえガキなんて、いるわけねえと思ってたんだがなぁ…」
「まあ確かに、彼ってなんでも出来ちゃいますからねぇ」
何でも出来るから。
何でも一人で考えて、そして正解してしまうから。
『彼も一人の人間だという事を、忘れないであげてください』
医者の言っていた言葉。
それを意識すれば、彼の行動一つ一つに、ほんの微かな人間味があることはわかる。
けれど、だけれども。
(それが分かって、どう接したらいいのかが全く分からん……)
眉を寄せながら目を瞑れば、また自然とため息が出た。