赤の城
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最悪だ。
「てっきりまだもつと思ってたのに……土砂降りかよ……」
稲羽署署長は顔をしかめながら、軒先で雨宿りする。
雨が降らないうちにと町内パトロールに勤しんでいた矢先、これだ。
この調子じゃ、稲羽署に戻ろうとすればずぶ濡れになるだろう。
いつ止むかと雨粒を見ていれば、スッとそれに影が差した。
「どうぞ」
藍色の傘。
その柄の部分を警官の前に出す青年に、警官は目を丸くする。
白い髪に、群青の瞳。
こちら側に傘を傾けているせいで濡れている服は、胸元の部分が不自然にこんもりと盛り上がっていた。
「え……」
「ですから、どうぞ。俺、家近いんで」
押し付けるように持たせると、青年は「では」と踵を返す。
「ち、ちょっと待て!」
警官は慌てて彼の肩を掴み、そして引き寄せた。
―もしかしたら、これはチャンスなんじゃないか?
重要参考人に挙げられている彼の自宅さえ確認すれば、もしかしたら……
青年は目を丸くすると、「なんでしょう?」と首を傾げる。
「あ、ええと……風邪引くぞ?」
「別に平気です」
「いや、それだと俺の面子が立たなくてな……えっと……」
「家に来たいのでしたら、別に構いませんよ」
先を歩きながら、桜木はそう答えた。
署長はギョッと目を瞠り、彼の後を追う。
「おかまいもあまり出来ないと思いますけど」
「いや………そういえば、その服の中、何か入ってるのかい?」
「キツネです。今日、稲荷寿司を作ってやるって約束してましたから」
桜木がそう言うと、フードの中からキツネがひょこっと顔を出し「コン!」と鳴いた。
「稲荷でよければ、食べますか?」
「え、いや、……ああ、食べるよ」
警官は困惑したように視線を彷徨わせてから頷き、そして彼が鍵をかけていない扉を開けるとまた驚愕した。
「……鍵は?」
「盗まれて困るもの、そんなにないんで。堂島さんには怒られますけど」
何て事無く言い、彼は靴を脱いでリビングへと向かう。
そしてそこに繋がっているキッチンから数個の稲荷寿司を持ってくれば、キツネはその一つを口にくわえ食べ始めた。
家の中を軽く見ていた警官も収穫は無かったのか戻ってきて、そして「いただくよ」と苦笑しながら食べ始める。
「君は……なんというか、本当に物事に無頓着なんだな。
物も少ないし、こういうところを見ると事件の容疑者ではないと思えるよ」
「別に……疑われるのとか、疎まれるのには慣れてるんでどっちでもいいですけど」
桜木はお茶を飲みながら、サラリとそう返した。
「何かをしようとするときにその後の自分の評判を考えるのは時間の無駄です。
疑われるのはいつもの事だし、気にしません。それに、他の人に被害がこれ以上いかないのなら、俺もそれを選びます」
外見も、パッと見気持ち悪いでしょうからね。そう言った彼に、警官は何も言えなくなる。
―確かに、自分も最初見た目から”犯人かもしれない”と疑ったから。
なのにこの青年は、怒ることも嘆くこともなく、ただ仕方ないだけで受け入れてしまっているのだ。
どれだけ自分が怪しいことをしていると思っても、したい事を貫き通す。
その心はどれだけ冷たくて、……どれだけ優しく出来てしまったのだろう。
桜木が膝の上に乗せ撫でているキツネはとても気持ちよさそうに目を細めていて、うとうととうたた寝をしていた。
「てっきりまだもつと思ってたのに……土砂降りかよ……」
稲羽署署長は顔をしかめながら、軒先で雨宿りする。
雨が降らないうちにと町内パトロールに勤しんでいた矢先、これだ。
この調子じゃ、稲羽署に戻ろうとすればずぶ濡れになるだろう。
いつ止むかと雨粒を見ていれば、スッとそれに影が差した。
「どうぞ」
藍色の傘。
その柄の部分を警官の前に出す青年に、警官は目を丸くする。
白い髪に、群青の瞳。
こちら側に傘を傾けているせいで濡れている服は、胸元の部分が不自然にこんもりと盛り上がっていた。
「え……」
「ですから、どうぞ。俺、家近いんで」
押し付けるように持たせると、青年は「では」と踵を返す。
「ち、ちょっと待て!」
警官は慌てて彼の肩を掴み、そして引き寄せた。
―もしかしたら、これはチャンスなんじゃないか?
重要参考人に挙げられている彼の自宅さえ確認すれば、もしかしたら……
青年は目を丸くすると、「なんでしょう?」と首を傾げる。
「あ、ええと……風邪引くぞ?」
「別に平気です」
「いや、それだと俺の面子が立たなくてな……えっと……」
「家に来たいのでしたら、別に構いませんよ」
先を歩きながら、桜木はそう答えた。
署長はギョッと目を瞠り、彼の後を追う。
「おかまいもあまり出来ないと思いますけど」
「いや………そういえば、その服の中、何か入ってるのかい?」
「キツネです。今日、稲荷寿司を作ってやるって約束してましたから」
桜木がそう言うと、フードの中からキツネがひょこっと顔を出し「コン!」と鳴いた。
「稲荷でよければ、食べますか?」
「え、いや、……ああ、食べるよ」
警官は困惑したように視線を彷徨わせてから頷き、そして彼が鍵をかけていない扉を開けるとまた驚愕した。
「……鍵は?」
「盗まれて困るもの、そんなにないんで。堂島さんには怒られますけど」
何て事無く言い、彼は靴を脱いでリビングへと向かう。
そしてそこに繋がっているキッチンから数個の稲荷寿司を持ってくれば、キツネはその一つを口にくわえ食べ始めた。
家の中を軽く見ていた警官も収穫は無かったのか戻ってきて、そして「いただくよ」と苦笑しながら食べ始める。
「君は……なんというか、本当に物事に無頓着なんだな。
物も少ないし、こういうところを見ると事件の容疑者ではないと思えるよ」
「別に……疑われるのとか、疎まれるのには慣れてるんでどっちでもいいですけど」
桜木はお茶を飲みながら、サラリとそう返した。
「何かをしようとするときにその後の自分の評判を考えるのは時間の無駄です。
疑われるのはいつもの事だし、気にしません。それに、他の人に被害がこれ以上いかないのなら、俺もそれを選びます」
外見も、パッと見気持ち悪いでしょうからね。そう言った彼に、警官は何も言えなくなる。
―確かに、自分も最初見た目から”犯人かもしれない”と疑ったから。
なのにこの青年は、怒ることも嘆くこともなく、ただ仕方ないだけで受け入れてしまっているのだ。
どれだけ自分が怪しいことをしていると思っても、したい事を貫き通す。
その心はどれだけ冷たくて、……どれだけ優しく出来てしまったのだろう。
桜木が膝の上に乗せ撫でているキツネはとても気持ちよさそうに目を細めていて、うとうととうたた寝をしていた。