赤の城
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「じゃあ、行こうか」
ユキさんが双剣を携えて、アタシ達のほうを見る。
「傷薬とか持った?武器は?」
「大丈夫です」
鳴上君が頷けば、ユキさんは「そう」と行って赤の城に入っていった。
赤の城。
雪子のいる城。
ユキさんやクマ曰く、アタシ達が真夜中テレビで見た雪子は彼女の『シャドウ』であり、彼女の中のほんの一部の感情がずっと否定され続け自棄になっている姿、らしい。
「誰だってずっと否定されちゃったら、そこに居場所があっても辛いでしょ?」なんてユキさんは言うけれど、アタシはあの『シャドウ』が雪子とどうもリンクしないのだ。
「多分その”逆ナン”って言う部分、脚色されてるね」
シャドウを平然と蹴散らしながら、ユキさんはアタシ達の話を纏めていく。
「ぎゃくなんって、なにクマ?」
「確か、女の子から男の子に遊びませんか、って誘う事だよ。何処かの本に載ってた。
で、求めてるのが白馬の王子様……」
「何か分かるんですか?」
「天城さんは、多分決められてしまった自分の将来に少し絶望してたのかもね。
旅館の娘、若女将。外に出られないから、”外に出られる”馬に乗った王子様を探してる……」
不意に横から飛び出してきたシャドウを切り倒し、「そんなもんかな」と肩を竦めた。
「まあ、正解は、この扉の先の主に聞けばいい」
コンコンとノックして、ユキさんは中に入る。
するとそこには、真夜中テレビで見た雪子のシャドウと、旅館の着物姿で倒れてる雪子がいた。
「雪子!!」
『あらあらあ?王子様が四人も!雪子、迷っちゃうなぁ~』
シャドウはそう微笑んで、『ほら、アタシをどこか遠くへ連れ出して!』と手を伸ばす。
「むほー!王子様って、もしかして、クマの事クマ!?」
「いや、絶対違うと思う」
「え、違うのか?」
アタシの突っ込みにユキさんはキョトンとして首をかしげた。
「ユキさん……考えてもみてくださいよ。
里中とクマ、どっちが心強いっすか?」
「……状況によるけど、今彼女の立場から見たら里中さんかな?」
「よーするに、そういうことっす」
「およよ……ユキサンもヨースケも酷いクマよ……クマ、プチショック」
『ちょっとぉ~、無視しないでよ!』
話がどんどん逸れていくと感じたのか、雪子のシャドウは頬を膨らませる。
「ええと……ごめんね」
そう口を開き、彼女の目の前まで行ったのはやっぱりユキさんだった。
彼はシャドウに近づいて、そして頬に手を伸ばす。
「俺は君を、君の望む場所へは連れて行けない」
『えー、そうなのぉ?』
「……俺が連れて行けるのは、ただただ暗い、君が元いた場所。
君の本体が認めない限り、永遠にそこに君を閉じ込める事しかできない」
淡々とした声が、ただ事実を告げる。
すると、シャドウは目を見開き、顔が一瞬にして悲しげに変わった。
髪を振り乱し、ユキさんの胸元に飛び込むと泣き続ける。
『……嫌よ、嫌嫌ぁ!
あの場所に戻りたくなんて無いのぉ!アタシは、アタシは……ッ』
「………」
ぽんぽん、ぽんぽん。
アタシのシャドウにしたように、ユキさんは背中に腕をまわして抱きしめ優しくその背中を叩く。
雪子は目を瞬かせ、何が起こったのかわからないというように視線を彷徨わせた。
「雪子」
アタシが雪子に近づけば、彼女はビクリと肩を揺らす。
「、千枝、違うの、あれは、私なんかじゃ……」
「雪子!」
口を押さえるより前に、言いたい事があるから。
アタシは大きな声を出して言葉を遮り、雪子の肩を掴んだ。
「ごめん!」
「え……」
「アタシ、雪子の事がずっと羨ましくて、雪子が悩んでた事、全然わかんなかった!
ただ心細くて、不安で、雪子がいなきゃ何にも出来ない、頼ってたのは、ずっとアタシだったの……ッ!」
思い切り、感情をぶつける。
そして顔をあげて立ち上がると、ユキさんが「天城さん」と雪子に声をかけた。
「は、はい」
「この感情が自分の中に完全に無かったって、言える?」
「……」
「このシャドウはね、君の全てじゃない、一部だ。
だから少しだけ誇張するし、……君に否定された分だけ、君に受け入れられるのを諦めてる」
ね?とユキさんがシャドウに向けて首を傾げれば、シャドウは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫びだした。
『アタシは、家の跡継ぎなんてしたくない!
アタシが自分でしたい事を見つけたいの!
だけど、アタシは弱くて、ここから出る事も出来ないから……
だから!王子様に連れ出してほしいのよおおおお!』
「……あ」
しまった、ちょっと言い過ぎたかな。
そんな小さな呟きと共に、雪子のシャドウは巨大な鳥のような姿へと変わった。
「鳴上君、花村君、里中さん、体力に気をつけながら戦って。
クマ君は、簡単なサポートとか、あと傷の手当に回って。いい?」
「はい!」
「了解っす!」
「任せてください!」
「分かったクマー!」
それぞれが返事をして飛び込めば、ユキさんは雪子の方に屈んで、そしてまた尋ね始める。
「……今の言葉だったら、どうかな?」
「…………あった、と、思います、でも、私、それを認めたら……」
「酷い事考えながらやってるって、認めなきゃいけない?」
彼の問いに、彼女は小さく頷いた。
すると彼は、雪子の頭を優しく撫で始める。
「大丈夫。別に君の感情は、それだけじゃない」
「え……」
「本当に嫌いだったら、力が弱くたって君ならいつでも手放せたはずだよ。
旅館の手伝いとかさ。……それは、どうして?」
「そ、れは……」
「ゆっくりでいい。考えてみて。それで、君がどうしたいか決めるんだ」
あの感情を、否定するか。
それとも、肯定するか。
そして撫でていた手をおろし、彼女の震えている両手を覆った。
「もしこの感情が見たくなかったら、今すぐ倒してあげる。でも、今度いつ再発するか分からない。
君の感情の一部だから、完全に消滅させる事はできないってわかってほしい」
そう言った瞳は、どんな感情を灯していたんだろう。
雪子は顔を上げて、すこしだけ目を見開いてから微笑んだ。
「……優しいんですね」
「…?」
「私の事も、私のシャドウの事も、皆の事も気を遣ってる。
優しくて、少しずるいです」
「……よく分からないんだけど、結局どうするの?」
やや呆れたような声が、ユキさんの口から漏れた。
すると雪子は決意した目で、真っ直ぐに彼を見る。
「あのシャドウは、私です。
だから私はあの子と一緒に、自分でしたい事を考えてみます」
その時、雪子の目の前に、光り輝くカードが形成された。
ユキさんはそれを見た瞬間、待ってましたとばかりに双剣を鞘から出し地面を蹴る。
「てい」
……だから、なんでそんなに覇気のない声なの?
アタシは苦笑しながら、彼が戦いやすいように道を空けた。
右の剣で思い切り胴体をぶっ刺すと、それを一度抜き左で羽根を切り裂く。
シャドウは悲鳴を上げながら消滅し、彼はふうと息を吐いた。
「四人とも、お疲れ様」
「いやあ……相変わらず強いっすね……」
「俺達も、結構全力で戦ってたんですけど……」
「てゆーか、ユキさんってペルソナあるんですか?」
アタシが一番疑問に思っていた事を言うと、ユキさんはパチパチと瞬きしたあと、「そういえば、見せてなかったっけ」と呟く。
「『ハッター』、おいで」
白い光を集める両手を胸元に持ってきて、彼は目を閉じた。
するとそこから人型のペルソナが現れ、笑みをたたえたままお辞儀をする。
「スキルは魔法特化型かな。でも制御がまだ上手くいってないから、あまり召喚する気ないけど」
「へえ……なんか、花村達のと違ってすごい人間に近いですね!」
「そうだね。ま、コイツのほうが笑うから人間っぽいかも」
ユキさんはぺしぺしとハッターを軽く叩き、そして「戻って良いよ」というとカードに収まった。
「じゃ、天城さん運ぶか」
「へ?」
「もう気絶してるもん、その子」
彼が指差した先を見ると、雪子が疲労からか倒れていて。
ユキさんがひょいとお姫様抱っこをすると、「旅館のほうに運べばいいんだよな?」と鳴上君に確認を取る。
「は、はい。でも……」
「俺、少し寄り道しなきゃいけないから。鳴上君は早く帰って、菜々子ちゃんといてあげて。
花村君達も。天城さんの事でうまい言い訳できるなら、別に止めないけど」
「う゛……」
「そ、それはちょっと……」
花村とアタシが視線を逸らすと、ユキさんはため息をついて「先行く」と踵を返した。
「明日も学校なんだから、早く帰って休みなよ」
「はぁーい……」
「ユキサン、またねクマー!」
クマが手を振り、そして姿が見えなくなったのを確認してごろりと転がる。
「……ユキサンはいつもいつも、カッコイイクマー…クマ、もうおなかいっぱいクマよ……」
「おなかいっぱいって……まあ、あれは少し羨ましかったけどよー」
花村が言ったのは、雪子のシャドウに抱きつかれたときの事だ。
確かに……と頷く男子一同に、アタシは「アンタ等ねえ……」と呆れ顔になる。
「とにかく、早く戻ろうよ!鳴上君も何か頼まれごとされてたでしょ!」
「そうだな。戻ろうか」
鳴上君が頷いて、アタシ達はジュネスへと戻る。
主をなくした赤い城は、ただ荘厳と建っていた。
ユキさんが双剣を携えて、アタシ達のほうを見る。
「傷薬とか持った?武器は?」
「大丈夫です」
鳴上君が頷けば、ユキさんは「そう」と行って赤の城に入っていった。
赤の城。
雪子のいる城。
ユキさんやクマ曰く、アタシ達が真夜中テレビで見た雪子は彼女の『シャドウ』であり、彼女の中のほんの一部の感情がずっと否定され続け自棄になっている姿、らしい。
「誰だってずっと否定されちゃったら、そこに居場所があっても辛いでしょ?」なんてユキさんは言うけれど、アタシはあの『シャドウ』が雪子とどうもリンクしないのだ。
「多分その”逆ナン”って言う部分、脚色されてるね」
シャドウを平然と蹴散らしながら、ユキさんはアタシ達の話を纏めていく。
「ぎゃくなんって、なにクマ?」
「確か、女の子から男の子に遊びませんか、って誘う事だよ。何処かの本に載ってた。
で、求めてるのが白馬の王子様……」
「何か分かるんですか?」
「天城さんは、多分決められてしまった自分の将来に少し絶望してたのかもね。
旅館の娘、若女将。外に出られないから、”外に出られる”馬に乗った王子様を探してる……」
不意に横から飛び出してきたシャドウを切り倒し、「そんなもんかな」と肩を竦めた。
「まあ、正解は、この扉の先の主に聞けばいい」
コンコンとノックして、ユキさんは中に入る。
するとそこには、真夜中テレビで見た雪子のシャドウと、旅館の着物姿で倒れてる雪子がいた。
「雪子!!」
『あらあらあ?王子様が四人も!雪子、迷っちゃうなぁ~』
シャドウはそう微笑んで、『ほら、アタシをどこか遠くへ連れ出して!』と手を伸ばす。
「むほー!王子様って、もしかして、クマの事クマ!?」
「いや、絶対違うと思う」
「え、違うのか?」
アタシの突っ込みにユキさんはキョトンとして首をかしげた。
「ユキさん……考えてもみてくださいよ。
里中とクマ、どっちが心強いっすか?」
「……状況によるけど、今彼女の立場から見たら里中さんかな?」
「よーするに、そういうことっす」
「およよ……ユキサンもヨースケも酷いクマよ……クマ、プチショック」
『ちょっとぉ~、無視しないでよ!』
話がどんどん逸れていくと感じたのか、雪子のシャドウは頬を膨らませる。
「ええと……ごめんね」
そう口を開き、彼女の目の前まで行ったのはやっぱりユキさんだった。
彼はシャドウに近づいて、そして頬に手を伸ばす。
「俺は君を、君の望む場所へは連れて行けない」
『えー、そうなのぉ?』
「……俺が連れて行けるのは、ただただ暗い、君が元いた場所。
君の本体が認めない限り、永遠にそこに君を閉じ込める事しかできない」
淡々とした声が、ただ事実を告げる。
すると、シャドウは目を見開き、顔が一瞬にして悲しげに変わった。
髪を振り乱し、ユキさんの胸元に飛び込むと泣き続ける。
『……嫌よ、嫌嫌ぁ!
あの場所に戻りたくなんて無いのぉ!アタシは、アタシは……ッ』
「………」
ぽんぽん、ぽんぽん。
アタシのシャドウにしたように、ユキさんは背中に腕をまわして抱きしめ優しくその背中を叩く。
雪子は目を瞬かせ、何が起こったのかわからないというように視線を彷徨わせた。
「雪子」
アタシが雪子に近づけば、彼女はビクリと肩を揺らす。
「、千枝、違うの、あれは、私なんかじゃ……」
「雪子!」
口を押さえるより前に、言いたい事があるから。
アタシは大きな声を出して言葉を遮り、雪子の肩を掴んだ。
「ごめん!」
「え……」
「アタシ、雪子の事がずっと羨ましくて、雪子が悩んでた事、全然わかんなかった!
ただ心細くて、不安で、雪子がいなきゃ何にも出来ない、頼ってたのは、ずっとアタシだったの……ッ!」
思い切り、感情をぶつける。
そして顔をあげて立ち上がると、ユキさんが「天城さん」と雪子に声をかけた。
「は、はい」
「この感情が自分の中に完全に無かったって、言える?」
「……」
「このシャドウはね、君の全てじゃない、一部だ。
だから少しだけ誇張するし、……君に否定された分だけ、君に受け入れられるのを諦めてる」
ね?とユキさんがシャドウに向けて首を傾げれば、シャドウは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫びだした。
『アタシは、家の跡継ぎなんてしたくない!
アタシが自分でしたい事を見つけたいの!
だけど、アタシは弱くて、ここから出る事も出来ないから……
だから!王子様に連れ出してほしいのよおおおお!』
「……あ」
しまった、ちょっと言い過ぎたかな。
そんな小さな呟きと共に、雪子のシャドウは巨大な鳥のような姿へと変わった。
「鳴上君、花村君、里中さん、体力に気をつけながら戦って。
クマ君は、簡単なサポートとか、あと傷の手当に回って。いい?」
「はい!」
「了解っす!」
「任せてください!」
「分かったクマー!」
それぞれが返事をして飛び込めば、ユキさんは雪子の方に屈んで、そしてまた尋ね始める。
「……今の言葉だったら、どうかな?」
「…………あった、と、思います、でも、私、それを認めたら……」
「酷い事考えながらやってるって、認めなきゃいけない?」
彼の問いに、彼女は小さく頷いた。
すると彼は、雪子の頭を優しく撫で始める。
「大丈夫。別に君の感情は、それだけじゃない」
「え……」
「本当に嫌いだったら、力が弱くたって君ならいつでも手放せたはずだよ。
旅館の手伝いとかさ。……それは、どうして?」
「そ、れは……」
「ゆっくりでいい。考えてみて。それで、君がどうしたいか決めるんだ」
あの感情を、否定するか。
それとも、肯定するか。
そして撫でていた手をおろし、彼女の震えている両手を覆った。
「もしこの感情が見たくなかったら、今すぐ倒してあげる。でも、今度いつ再発するか分からない。
君の感情の一部だから、完全に消滅させる事はできないってわかってほしい」
そう言った瞳は、どんな感情を灯していたんだろう。
雪子は顔を上げて、すこしだけ目を見開いてから微笑んだ。
「……優しいんですね」
「…?」
「私の事も、私のシャドウの事も、皆の事も気を遣ってる。
優しくて、少しずるいです」
「……よく分からないんだけど、結局どうするの?」
やや呆れたような声が、ユキさんの口から漏れた。
すると雪子は決意した目で、真っ直ぐに彼を見る。
「あのシャドウは、私です。
だから私はあの子と一緒に、自分でしたい事を考えてみます」
その時、雪子の目の前に、光り輝くカードが形成された。
ユキさんはそれを見た瞬間、待ってましたとばかりに双剣を鞘から出し地面を蹴る。
「てい」
……だから、なんでそんなに覇気のない声なの?
アタシは苦笑しながら、彼が戦いやすいように道を空けた。
右の剣で思い切り胴体をぶっ刺すと、それを一度抜き左で羽根を切り裂く。
シャドウは悲鳴を上げながら消滅し、彼はふうと息を吐いた。
「四人とも、お疲れ様」
「いやあ……相変わらず強いっすね……」
「俺達も、結構全力で戦ってたんですけど……」
「てゆーか、ユキさんってペルソナあるんですか?」
アタシが一番疑問に思っていた事を言うと、ユキさんはパチパチと瞬きしたあと、「そういえば、見せてなかったっけ」と呟く。
「『ハッター』、おいで」
白い光を集める両手を胸元に持ってきて、彼は目を閉じた。
するとそこから人型のペルソナが現れ、笑みをたたえたままお辞儀をする。
「スキルは魔法特化型かな。でも制御がまだ上手くいってないから、あまり召喚する気ないけど」
「へえ……なんか、花村達のと違ってすごい人間に近いですね!」
「そうだね。ま、コイツのほうが笑うから人間っぽいかも」
ユキさんはぺしぺしとハッターを軽く叩き、そして「戻って良いよ」というとカードに収まった。
「じゃ、天城さん運ぶか」
「へ?」
「もう気絶してるもん、その子」
彼が指差した先を見ると、雪子が疲労からか倒れていて。
ユキさんがひょいとお姫様抱っこをすると、「旅館のほうに運べばいいんだよな?」と鳴上君に確認を取る。
「は、はい。でも……」
「俺、少し寄り道しなきゃいけないから。鳴上君は早く帰って、菜々子ちゃんといてあげて。
花村君達も。天城さんの事でうまい言い訳できるなら、別に止めないけど」
「う゛……」
「そ、それはちょっと……」
花村とアタシが視線を逸らすと、ユキさんはため息をついて「先行く」と踵を返した。
「明日も学校なんだから、早く帰って休みなよ」
「はぁーい……」
「ユキサン、またねクマー!」
クマが手を振り、そして姿が見えなくなったのを確認してごろりと転がる。
「……ユキサンはいつもいつも、カッコイイクマー…クマ、もうおなかいっぱいクマよ……」
「おなかいっぱいって……まあ、あれは少し羨ましかったけどよー」
花村が言ったのは、雪子のシャドウに抱きつかれたときの事だ。
確かに……と頷く男子一同に、アタシは「アンタ等ねえ……」と呆れ顔になる。
「とにかく、早く戻ろうよ!鳴上君も何か頼まれごとされてたでしょ!」
「そうだな。戻ろうか」
鳴上君が頷いて、アタシ達はジュネスへと戻る。
主をなくした赤い城は、ただ荘厳と建っていた。