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「……で、俺が犯人だと思われているんですよね?」
開口一番。ユキはそう言って、ジッとテーブルを挟んで目の前に座っている男を見つめる。
男は目を丸くして、「どうして、そう思えるんだい?」と微笑んだ。
「そりゃあ、二つの事件の第一発見者ですから。何かしらよく思われない事は知っています。
それに、俺には拾われる前の記憶が無い。
記憶が無い期間において何をしていたのか、俺には推測しか出来ませんし、俺が殺した証拠が見つかればその推測も無駄になるでしょうね」
ただただ客観的に、事実のみを突き詰めて。
「今現在の俺の立場から言えるのは、『俺は彼女達を殺していません』ということだけです」
記憶がなくなっている時期は知りませんが。
彼のその言葉に、目の前にいた男……稲羽署の署長は肩をすくめ、「その言葉は弱いね」と返した。
「俺が犯人だと思われているのなら、俺がこれ以上何を言ったところで言葉は届かないと思いますが?」
「そう。……じゃあ話を変えようか。
もし君が犯人じゃないとしたら、その理由はなんだろう?」
するとユキは目を細め、「言う必要がありますか?」と訊ねる。
「それは完全に主観が入り、俺の勘違いや誤解が生じる危険があるのはわかってますよね?」
「ああ。それでも一応、聞きたいんだ」
「……俺は、人を殺せません」
ぼそり。小さく呟かれた声に、署長は目をまるくした。
それは今までの声と違う、どこか感情の付いた声だったから。
「人を殺すのに、沢山の理由と、沢山の原因があることは知っていますし、俺はそれを否定しません。
でも……俺は理由を持っても殺せないんです」
「……どうして?」
「…………血の気の引く感覚、体中を纏う冷気、一生拭えない罪悪感。
殺したら、それがずっとずっと続く。忘れる事なんてできない、後悔しか生まれない道が」
それが、記憶が無くても、わかるんです。
ユキは目を伏せ、ぎゅっと無意識に腕を掴んだ。
「……それに、殺さないで問題を解決する方法は幾らでも知っています。
それを放棄してまで大切な命を奪えるほど、俺は自分の命を上に見ることはできません」
そう言うと彼は立ち上がり、頭を下げる。
「“重要参考人”としての意見は終わりです。バイトがあるのでこれで失礼します」
もうこれ以上、言う事はない。
彼は誰に案内されるでもなく、スタスタと取調室から出て行った。
署長は椅子の背もたれに体重をかけ、ふうと息を吐く。
「……百合の匂いがしたな」
「ああ……彼、被害者2人の死亡発見現場に花を手向けてるんですよ。花が枯れるから数日おきにって言ってましたし、多分それかと」
内容をメモしていた女性警官がそう言うと、男は頭をかいて部屋を出た。
すると話を聞いていたのか、マジックミラー越しに立っていた堂島達と目が合う。
「……おい、堂島。お前、あの子に弁当作ってもらってんだよな?」
「え?あ、はい。
アイツが拾われた恩は返すっつって、娘の面倒見てくれたり、朝食と夕食を作りに来てますけど……」
「……」
「あの……アイツは、本当に人殺しなんてしねえやつだと思います」
堂島は頭を掻きながら、言葉を探しながら言う。
「アイツはその、……疑われたりとか、嫌われたりするのに慣れ過ぎてるから平然とああいう事を言えるんだと思うんです。
信じてもらうことに無関心っつーか……そもそも、こっちに関心なんて持ってないんだと思います」
「……それは、あの子の家庭に問題でもあるのか?」
「………両親は幼い頃事故で亡くなって、親族には勘当されていたそうです」
それだけで大体理解できたのか署長は顔を顰め、「そりゃひでえな」と言葉を吐いた。
「それで、あんだけ落ち着いてんのか……感動を通り越して、ちょいと不気味だな」
「………」
「ま、証拠はないし、あんまり今から疑う気はねえよ。心配すんな」
署長はそう言って笑い、自分の捜査室へと戻っていく。
「…不気味、か……」
確かに、そうかもしれない。
けれど、彼は不気味以上に……
(何処か、悲しそうなんだ)
堂島は踵を返しながら、顔を俯かせた。
開口一番。ユキはそう言って、ジッとテーブルを挟んで目の前に座っている男を見つめる。
男は目を丸くして、「どうして、そう思えるんだい?」と微笑んだ。
「そりゃあ、二つの事件の第一発見者ですから。何かしらよく思われない事は知っています。
それに、俺には拾われる前の記憶が無い。
記憶が無い期間において何をしていたのか、俺には推測しか出来ませんし、俺が殺した証拠が見つかればその推測も無駄になるでしょうね」
ただただ客観的に、事実のみを突き詰めて。
「今現在の俺の立場から言えるのは、『俺は彼女達を殺していません』ということだけです」
記憶がなくなっている時期は知りませんが。
彼のその言葉に、目の前にいた男……稲羽署の署長は肩をすくめ、「その言葉は弱いね」と返した。
「俺が犯人だと思われているのなら、俺がこれ以上何を言ったところで言葉は届かないと思いますが?」
「そう。……じゃあ話を変えようか。
もし君が犯人じゃないとしたら、その理由はなんだろう?」
するとユキは目を細め、「言う必要がありますか?」と訊ねる。
「それは完全に主観が入り、俺の勘違いや誤解が生じる危険があるのはわかってますよね?」
「ああ。それでも一応、聞きたいんだ」
「……俺は、人を殺せません」
ぼそり。小さく呟かれた声に、署長は目をまるくした。
それは今までの声と違う、どこか感情の付いた声だったから。
「人を殺すのに、沢山の理由と、沢山の原因があることは知っていますし、俺はそれを否定しません。
でも……俺は理由を持っても殺せないんです」
「……どうして?」
「…………血の気の引く感覚、体中を纏う冷気、一生拭えない罪悪感。
殺したら、それがずっとずっと続く。忘れる事なんてできない、後悔しか生まれない道が」
それが、記憶が無くても、わかるんです。
ユキは目を伏せ、ぎゅっと無意識に腕を掴んだ。
「……それに、殺さないで問題を解決する方法は幾らでも知っています。
それを放棄してまで大切な命を奪えるほど、俺は自分の命を上に見ることはできません」
そう言うと彼は立ち上がり、頭を下げる。
「“重要参考人”としての意見は終わりです。バイトがあるのでこれで失礼します」
もうこれ以上、言う事はない。
彼は誰に案内されるでもなく、スタスタと取調室から出て行った。
署長は椅子の背もたれに体重をかけ、ふうと息を吐く。
「……百合の匂いがしたな」
「ああ……彼、被害者2人の死亡発見現場に花を手向けてるんですよ。花が枯れるから数日おきにって言ってましたし、多分それかと」
内容をメモしていた女性警官がそう言うと、男は頭をかいて部屋を出た。
すると話を聞いていたのか、マジックミラー越しに立っていた堂島達と目が合う。
「……おい、堂島。お前、あの子に弁当作ってもらってんだよな?」
「え?あ、はい。
アイツが拾われた恩は返すっつって、娘の面倒見てくれたり、朝食と夕食を作りに来てますけど……」
「……」
「あの……アイツは、本当に人殺しなんてしねえやつだと思います」
堂島は頭を掻きながら、言葉を探しながら言う。
「アイツはその、……疑われたりとか、嫌われたりするのに慣れ過ぎてるから平然とああいう事を言えるんだと思うんです。
信じてもらうことに無関心っつーか……そもそも、こっちに関心なんて持ってないんだと思います」
「……それは、あの子の家庭に問題でもあるのか?」
「………両親は幼い頃事故で亡くなって、親族には勘当されていたそうです」
それだけで大体理解できたのか署長は顔を顰め、「そりゃひでえな」と言葉を吐いた。
「それで、あんだけ落ち着いてんのか……感動を通り越して、ちょいと不気味だな」
「………」
「ま、証拠はないし、あんまり今から疑う気はねえよ。心配すんな」
署長はそう言って笑い、自分の捜査室へと戻っていく。
「…不気味、か……」
確かに、そうかもしれない。
けれど、彼は不気味以上に……
(何処か、悲しそうなんだ)
堂島は踵を返しながら、顔を俯かせた。