頼れる存在
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「おはよう、今日も精が出るね」
「……おはようございます」
ジュネスのエプロンをつけて肩にかかる髪をその辺にあった輪ゴムで結べば、そう店長が挨拶してきた。
ユキは青いカラコンに覆われた目を細め、頭を下げる。
平日8時半から14時までの、五時間半。―今日は12時までだけれど。
食品売り場だけでなく多くの持ち場を走り回りながら、品出しをするだけの簡単な仕事。昼のピークには惣菜を作る手伝いをして、忙しい時はレジのヘルプにもまわって、兎に角動き回れるだけ動くのだ。
ユキはその初日の働きぶりから、時折時間があれば夕方にも回って欲しいと頼まれているほどだったし、取らなくてもいい休憩を強制で取らされては、主にパートの人間の愚痴を聞く相手にさえなっていた。
「それでね、もう少しどうにかして欲しいのよ!」
「……はぁ……じゃあ、こういうのはどうですか?」
愚痴は基本、売り場だったり、自分のシフトだったり様々だった。
ただ聞くだけというのも面倒になって、双方にとってマイナスにはならない程度の折衷案をボソリと出す。
「……ってなれば、多分大丈夫だと思います」
「まあ、それで良くなるなら……」
「一応、店長に聞いてみるだけ聞いてみます。どうなるかは分かりませんけど」
そう告げれば、女性はその言葉を待っていたかのように仏頂面を笑顔に戻し、「店長の息子さんとは大違いねえ」と言った。
「……息子さん?」
「確か、高校二年生じゃなかったかしら。あの子は結構優柔不断でねえ……」
「……俺も、そんなに変わりませんよ。
休憩、終わりますね」
肩を竦め、休憩室から出る。
そうしてそこから少し離れた場所に移動すれば、店長が案の定声をかけてきた。
「今度はなんだって?」
「精肉コーナーでのクレームの対処に困っていたようなので。多分、包装が少し甘いんじゃないかと思うんですけど、もう少ししっかりした包装をする事は可能ですか?
そうなれば、あとはどうにか出来るんで」
「そうか……分かった。すぐに手配しておこう」
「……自分から聞かないんですか?」
ユキがそう訊ねると、店長は苦笑する。
「聞きたいが、そうすると口を閉ざしてしまう人が多くてね」
「ああ……まあ、理解はできますけど」
「君みたいに、ズバズバ言ってくれる真面目な子が入ってくれて助かるよ」
「……働き始めてまだ二日目ですよ?」
目を細め、彼は呆れたように肩を竦めた。
「そこまで買い被りすぎるのはどうかと思いますけど」
「いやいや、すぐにでもバイトチーフに上げたいくらいだ。
初日から『惣菜の準備が悪い』なんて台詞、誰も言わなかったからね」
「………」
それは、普通に思った事を言っただけで。
買いに来る客数に対しての想定が出来ていないのに、疑問を感じただけだ。
「他にも、『掃除道具が人数分揃えられておらず手持ち無沙汰が数人出ている』『一部のレジスターが古いせいで反応が遅く客がやや苛立っている』『セール品の出し方が悪く目立たない』……肝が座っているし、的を射ていた。
それを仕事しながら見てるんだから、最近の若い人は凄いよ」
「………目について当たり前だと思うし、別に、特別な事は何もしてません」
目を伏せ、ユキは黒いパーカーの袖をいじる。視線はただ下を向き、ほんの少しだけ眉が下がった。
褒められ慣れていないのだろう、そう感じた店長は、彼の頭を軽く撫でる。
「君は安定して、しっかりと働いてくれると感じてる。
どうかな?」
「……別に、やるべき事をやるだけなので」
彼が小さく肯けば店長は嬉しそうに笑い、そして「これからも頼むよ」と去っていった。
「………もうそろそろ、あがらないとな」
軽く惣菜の方の手伝いをしてから行こうと、ユキは惣菜コーナーの方へ向かった。
「……おはようございます」
ジュネスのエプロンをつけて肩にかかる髪をその辺にあった輪ゴムで結べば、そう店長が挨拶してきた。
ユキは青いカラコンに覆われた目を細め、頭を下げる。
平日8時半から14時までの、五時間半。―今日は12時までだけれど。
食品売り場だけでなく多くの持ち場を走り回りながら、品出しをするだけの簡単な仕事。昼のピークには惣菜を作る手伝いをして、忙しい時はレジのヘルプにもまわって、兎に角動き回れるだけ動くのだ。
ユキはその初日の働きぶりから、時折時間があれば夕方にも回って欲しいと頼まれているほどだったし、取らなくてもいい休憩を強制で取らされては、主にパートの人間の愚痴を聞く相手にさえなっていた。
「それでね、もう少しどうにかして欲しいのよ!」
「……はぁ……じゃあ、こういうのはどうですか?」
愚痴は基本、売り場だったり、自分のシフトだったり様々だった。
ただ聞くだけというのも面倒になって、双方にとってマイナスにはならない程度の折衷案をボソリと出す。
「……ってなれば、多分大丈夫だと思います」
「まあ、それで良くなるなら……」
「一応、店長に聞いてみるだけ聞いてみます。どうなるかは分かりませんけど」
そう告げれば、女性はその言葉を待っていたかのように仏頂面を笑顔に戻し、「店長の息子さんとは大違いねえ」と言った。
「……息子さん?」
「確か、高校二年生じゃなかったかしら。あの子は結構優柔不断でねえ……」
「……俺も、そんなに変わりませんよ。
休憩、終わりますね」
肩を竦め、休憩室から出る。
そうしてそこから少し離れた場所に移動すれば、店長が案の定声をかけてきた。
「今度はなんだって?」
「精肉コーナーでのクレームの対処に困っていたようなので。多分、包装が少し甘いんじゃないかと思うんですけど、もう少ししっかりした包装をする事は可能ですか?
そうなれば、あとはどうにか出来るんで」
「そうか……分かった。すぐに手配しておこう」
「……自分から聞かないんですか?」
ユキがそう訊ねると、店長は苦笑する。
「聞きたいが、そうすると口を閉ざしてしまう人が多くてね」
「ああ……まあ、理解はできますけど」
「君みたいに、ズバズバ言ってくれる真面目な子が入ってくれて助かるよ」
「……働き始めてまだ二日目ですよ?」
目を細め、彼は呆れたように肩を竦めた。
「そこまで買い被りすぎるのはどうかと思いますけど」
「いやいや、すぐにでもバイトチーフに上げたいくらいだ。
初日から『惣菜の準備が悪い』なんて台詞、誰も言わなかったからね」
「………」
それは、普通に思った事を言っただけで。
買いに来る客数に対しての想定が出来ていないのに、疑問を感じただけだ。
「他にも、『掃除道具が人数分揃えられておらず手持ち無沙汰が数人出ている』『一部のレジスターが古いせいで反応が遅く客がやや苛立っている』『セール品の出し方が悪く目立たない』……肝が座っているし、的を射ていた。
それを仕事しながら見てるんだから、最近の若い人は凄いよ」
「………目について当たり前だと思うし、別に、特別な事は何もしてません」
目を伏せ、ユキは黒いパーカーの袖をいじる。視線はただ下を向き、ほんの少しだけ眉が下がった。
褒められ慣れていないのだろう、そう感じた店長は、彼の頭を軽く撫でる。
「君は安定して、しっかりと働いてくれると感じてる。
どうかな?」
「……別に、やるべき事をやるだけなので」
彼が小さく肯けば店長は嬉しそうに笑い、そして「これからも頼むよ」と去っていった。
「………もうそろそろ、あがらないとな」
軽く惣菜の方の手伝いをしてから行こうと、ユキは惣菜コーナーの方へ向かった。