家に戻り湯を出してやると、狐は綺麗に血を洗い流してまた神社へと戻っていった。
ユキは双剣をテレビの上に置き、食材を持って隣の家へと向かう。
「こんばんは」
「ユキお兄ちゃん、こんばんは！」
菜々子が玄関で出迎えると、彼は目を細めて彼女の頭を撫でた。
「鳴上君は？」
「…まだ帰ってきてないよ」
菜々子はほんの少しだけ落ち込んだ声で返し、でも、と笑う。
「お兄ちゃんが来てくれたから、菜々子、さびしくなくなった！」
「……そ」
ユキは肩を竦め、「台所、借りるよ」と家の中にあがった。
そして冷蔵庫に食材を放り入れると、さてと息を吐く。
「……何か作るか」
今帰ってきていないのなら、鳴上が飯を作る気はないだろう。
（豆腐があるし……適当に、麻婆豆腐とか、あと味噌汁とか作ればいいかな）
考えながらも手を動かして、次々と料理を作り上げていく。
台所から香ばしい香りが漂い、菜々子はおそるおそる、彼の傍に近づいた。
「……これ、食えるか？」
ユキはレンゲで麻婆豆腐を掬い、菜々子の前に差し出す。
彼女は一口食べ、満足げに笑った。
「うん！」
「なら、このくらいでいいか。じゃあ、鳴上君が帰ってくるまで何かする？」
麻婆豆腐と味噌汁にふたをして、彼は問う。
「じゃあ、菜々子、しゅくだいでわかんないとこ、教えてほしい……」
「いいよ」
2人で居間に戻り、ユキは彼女が課題のプリントを出すのをぼんやりと外を眺めながら待った。
空は茜に影がさし、そろそろ夜になるであろうことを、ゆっくりと告げていた。