可能性の光
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3月。卒業式。
桜はまだ芽吹かず、固く蕾を閉じていた。
卒業証書の入った筒を手にしながら校門前をうろついていると、「よお」と後ろから声をかけられ振り返る。
記憶より、白髪の増えた黒髪。くしゃりと笑うその顔に、桜木は確かに見覚えがあった。
「おじ、さん……」
「おお、久しぶり。って、でっかくなったなあお前」
男性は手を伸ばし、桜木の頭をがさつに撫でる。
インクと紙の匂いのするそれに、思わず目頭が熱くなった。
『もし、大丈夫そうだったら、1人だけ、卒業式に呼んでもいいですか』
『親じゃないけど、ずっと俺を見てくれてた人がいるんです』
『もっと沢山、感謝したい人はいます。でもまず、その人に伝えたいから』
「っ、おじさん、俺、高校卒業したよ。大学も、合格したよ」
「そうか、よかったな」
「育ててくれて、ありがとうございました……っ!」
涙を堪えて、頭を下げる。
顔を上げると、目の周りを赤くして彼は言った。
「……やっと、懐かしい顔をしてくれるようになったな。
アイツ等の墓に、たまにでもいいから行ってやれ。そろそろ、会いたがってる」
「はいっ……!」
「あとこれ。卒業祝いな」
「……ピアス、ですか?」
ぶっきらぼうに出されたその小さな箱を開いて、桜木は尋ねる。
小さな宝石が付いていて、キラキラと輝いていた。
「おお。イヤリングにもできるだろうから、まあ、付けてくれ」
「はい。……ありがとうございます」
じゃあな。もう一度頭を撫でて、男性は背を向け去っていった。
桜木はピアスの入った箱を大切にしまって、そして「もういいよ」と口を開いた。
「悠」
「……気づいてましたか」
「分かりやすかったから。それで、何の用?」
ゆっくりと物陰から近づいてきた鳴上に、桜木は目を細める。
鳴上は「終わったら、すぐ帰ると聞いたので」と小さな紙袋を手渡した。
「沢山の人に囲まれるのが苦手なら、お見送りは、しない方がいいかなと」
「……気付いてたんだ。……先生にでも聞いた?」
「ええ、少し」
開けてみてください。そう言われ、桜木は丁寧に紙袋を開ける。
するとそこには、黄色の髪ゴムが二つ、入っていた。
「……髪ゴム?」
「そろそろ、必要かなと思って。随分伸びましたから」
「……そうだね、確かに、いるかも」
試しにと、一つ取って髪を後ろでまとめる。
一つに束ねられたそれはふわりと風に揺れ、背中に落ち着いた。
「ありがとう。悠はノートとか、実用的なものを選ぶと思ってた」
「それも考えたんですけど。こっちの方が……」
「?」
「長持ちで、使う度に俺の事を考えてくれるかなと」
ぼんっ。
元々白い肌が、一気に赤く染まる。
「……湊といい、悠といい、……なんかこう、心臓に悪いことしてくるね」
「誉め言葉として受け取っておきます」
嬉しそうにしている鳴上に、桜木ははあと息を吐いて言った。
「……ごめんね。俺、まだ愛してるっていう感情が追いついてなくて。
なんか、キープしてるみたいに、なっちゃって」
「……」
「もし他に良い人見つけたら、そっちいっても大丈夫だから。
……それだけは、言っとく」
「はい」
彼なりのけじめなんだろう。そう感じた鳴上は、否定せず頷く。
桜木はそれを確認して、「じゃあ、行くね」と言った。
「悠、皆も、元気で」
「はい、ユキさんも」
握手をして、桜木が踵を返す。
鳴上は、姿が見えなくなるまで、見送っていた。
桜はまだ芽吹かず、固く蕾を閉じていた。
卒業証書の入った筒を手にしながら校門前をうろついていると、「よお」と後ろから声をかけられ振り返る。
記憶より、白髪の増えた黒髪。くしゃりと笑うその顔に、桜木は確かに見覚えがあった。
「おじ、さん……」
「おお、久しぶり。って、でっかくなったなあお前」
男性は手を伸ばし、桜木の頭をがさつに撫でる。
インクと紙の匂いのするそれに、思わず目頭が熱くなった。
『もし、大丈夫そうだったら、1人だけ、卒業式に呼んでもいいですか』
『親じゃないけど、ずっと俺を見てくれてた人がいるんです』
『もっと沢山、感謝したい人はいます。でもまず、その人に伝えたいから』
「っ、おじさん、俺、高校卒業したよ。大学も、合格したよ」
「そうか、よかったな」
「育ててくれて、ありがとうございました……っ!」
涙を堪えて、頭を下げる。
顔を上げると、目の周りを赤くして彼は言った。
「……やっと、懐かしい顔をしてくれるようになったな。
アイツ等の墓に、たまにでもいいから行ってやれ。そろそろ、会いたがってる」
「はいっ……!」
「あとこれ。卒業祝いな」
「……ピアス、ですか?」
ぶっきらぼうに出されたその小さな箱を開いて、桜木は尋ねる。
小さな宝石が付いていて、キラキラと輝いていた。
「おお。イヤリングにもできるだろうから、まあ、付けてくれ」
「はい。……ありがとうございます」
じゃあな。もう一度頭を撫でて、男性は背を向け去っていった。
桜木はピアスの入った箱を大切にしまって、そして「もういいよ」と口を開いた。
「悠」
「……気づいてましたか」
「分かりやすかったから。それで、何の用?」
ゆっくりと物陰から近づいてきた鳴上に、桜木は目を細める。
鳴上は「終わったら、すぐ帰ると聞いたので」と小さな紙袋を手渡した。
「沢山の人に囲まれるのが苦手なら、お見送りは、しない方がいいかなと」
「……気付いてたんだ。……先生にでも聞いた?」
「ええ、少し」
開けてみてください。そう言われ、桜木は丁寧に紙袋を開ける。
するとそこには、黄色の髪ゴムが二つ、入っていた。
「……髪ゴム?」
「そろそろ、必要かなと思って。随分伸びましたから」
「……そうだね、確かに、いるかも」
試しにと、一つ取って髪を後ろでまとめる。
一つに束ねられたそれはふわりと風に揺れ、背中に落ち着いた。
「ありがとう。悠はノートとか、実用的なものを選ぶと思ってた」
「それも考えたんですけど。こっちの方が……」
「?」
「長持ちで、使う度に俺の事を考えてくれるかなと」
ぼんっ。
元々白い肌が、一気に赤く染まる。
「……湊といい、悠といい、……なんかこう、心臓に悪いことしてくるね」
「誉め言葉として受け取っておきます」
嬉しそうにしている鳴上に、桜木ははあと息を吐いて言った。
「……ごめんね。俺、まだ愛してるっていう感情が追いついてなくて。
なんか、キープしてるみたいに、なっちゃって」
「……」
「もし他に良い人見つけたら、そっちいっても大丈夫だから。
……それだけは、言っとく」
「はい」
彼なりのけじめなんだろう。そう感じた鳴上は、否定せず頷く。
桜木はそれを確認して、「じゃあ、行くね」と言った。
「悠、皆も、元気で」
「はい、ユキさんも」
握手をして、桜木が踵を返す。
鳴上は、姿が見えなくなるまで、見送っていた。