彼は途端に目を見開き、茫然としたような顔で振り返る。
「……思い、出した……記憶も、感情も、全部……」
ポソリ、ポソリ。呟くような声は何かを我慢しているようで。
「俺が、髪や目の色を隠してたのは、そうしないとまともに話が出来なかったからじゃない……」

それだけで怖がられるのが、ただ嫌だったんだ……。

ポタリ。
声をかけようとした瞬間。彼の目から、大粒の涙が一筋、頬を伝っては流れ落ちた。
その雨は止むことなく、彼はガクンと膝を折って、クシャリと顔を歪ませる。

「っ……お母さんも、お父さんも、死んじゃったぁ……っ……！」

今までとは全く違う、小さな子どものような言葉。
声は悲しみに震え、ドクドクと俺達の心臓を打った。
思いの枷が止まらないのか、彼は手で涙を抑えることもせずわんわんと泣き出す。
「まだ、まだお母さんたちとしたいこと、沢山、たくさんあったのに……っ
　なんで、なんで死んじゃったの……っ？」
「……ユキ、」
「帰ったら、一緒にゲームしようね、って、これからも、沢山楽しいことしようね、って、言ってたのにぃ……！」
ボロボロと溢れ出す言葉に、かける声も見つからない。
有里がゆっくりと近づいて、ひぐっと涙を抑えようとする小さな体をギュッと優しく抱きしめた。
細い、それに、今はひどく小さく見える身体。少しでも力を入れてしまえば壊れてしまいそうで、怖い。
「ひとりは、もう怖い……やだよ……っ……なんで、髪が白いだけで、そんな目で見るの……」
「……」
「目、真っ赤だから、バケモノなの？みんなと、あそんじゃ、いけないの……？お母さんも、お父さんも、死んじゃったの……っ？
　やっぱり、噂の通り、俺が皆を殺したの……っ！？」
それはとても切実で、どれだけそれらの言葉を我慢していたのだろうと頭を撫でる。
ビクリと肩を震わせて、けれど彼は抵抗する力もないのか、ただ涙を流し続けた。
「皆を守りたいとか、そんなこと、なかった！俺はただ、普通に生きたかった！」
「ぜんぶ滅んじゃったら、家族で、少ししか過ごせないの、嫌だったから、約束したのに……、
　家族で、ずっと、暮らしたかった！それだけ、だったのに……っ！なんで、なんで！！」

なんで、二人共死んじゃったの……！！

皆、何も言えなかった。
目の前で親を喪った事も、存在そのものを否定された事も、約束の為だけに生きる必要さえなかったから。
当たり前の”普通”を、望むことなく手にしていたから。
その苦しみは、彼と有里にしか分からないから。
誰よりも長く『ペルソナ使い』をしていた人間の悲しい独白は、白い空間に響き渡る。

「一人は嫌だった！戦うのも、痛いのも、全部全部怖かった！」
「色んな人に叩かれた時、誰も助けてくれなかった！助けてって、痛いって、何度も言ったのに！皆、皆、俺を見てはくれなかった！」
「思い出も、したいことも、……っ恩返しも、まだ、全然、できてなかったのに……っ」
「家族が、俺の、唯一の居場所だったのに……、っ返して、よぉ……、」
「………」
「っ、おかあさん……おとう、さぁん……っ、」

「っだれか、だれか、……誰でもいいから……っ……」

たすけて。

俺を、あいして。