門の前
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大きな扉の前を封じるように、小さな少年に繋がれた頑丈そうな鎖が、びっしりとその扉にかけられていた。
少年はあの時、直斗の前に現れたのとそっくりな姿の石像で、まるで眠りについているようで。
「……君の記憶は、強く、幼い。あの時点でもう忘れていることも多かったけれど、それも含めた全てが、ココに集約されている」
「……そう」
「全てを思い出すと同時、君のペルソナ……イーターが、君に全ての感情を返す。
その負担は計り知れない。……大丈夫?」
「いいよ。……でも、無理だったら悠達が死ぬ前に止めてね」
桜木はそう言って、有里や望月と共に一歩後ろに下がる。
「もう少しで、エレボスが来る。けれどまずは、君達は何もしないで欲しい」
「え?」
「大丈夫、攻撃してこないから。むしろそれが問題であって……来たよ」
望月に言われ扉の前を見ると、ズズ、ズズと、『何か』がやってきた。
それは全身黒く、人の形をしていて。こちらを向いたかと思うと、その顔に全員が目を見開いた。
【……湊、】
「……え……、ユキ、さん……?」
「ちがうよ」
間髪入れずに、望月が否定する。
「あれは、ユキ君のかつてのペルソナ。ずっと記憶を欠けさせまいと、扉を守り続けていた時計兎」
ほら、少し違うだろう?そう言われて、もう一度それを見る。
顔立ちは桜木に瓜二つだが、頭には兎の耳のようなものがある。服装は燕尾服のようになっていて、腰に時計のようなものを下げていた。
「彼はあの時、いつも通りエレボスを吸収しようとした。けれど、”彼の心”が耐えきれなかった」
”吸収”が”浸食”になってしまったのだと、彼は言う。
【……もう、嫌だ】
【湊……湊、湊……】
「君達の声は聞こえない。彼はユキから切り離された記憶の約束だから。有里君の声しか、届かないだろうね」
「そんな……」
【苦しい、痛い、痛い、苦しい】
【どうして、俺は、俺達は、俺を殺せないんだろう】
【殺せたら、ユキを救える。俺を守れる。俺の望みを、叶えてあげられるのに】
「……クロッカー」
桜木は目を伏せ、有里の服の裾を掴んだ。
「……ユキ。君は、死にたい?」
「……ううん。多分、クロッカーはエレボスに浸食されてる。……でも、
……最近少しだけ、そう思った」
「……そっか」
彼の指先が震えているのを、微かに感じる。
「俺と、完全には切り離せてなかったから。きっとクロッカーは、その時弱ってしまったんだと思う。
……俺のせいだ」
【ねえ、湊、どこ、俺は、俺を、】
「クロッカー、此処だ」
有里が言う。それに時計兎はゆっくりと顔を向け、近づいた。
【……湊?】
【湊、もう、いいよね。約束、破っていいよね。俺、頑張ったよね】
【俺ごと、倒して。俺を、消して】
助けてよ、湊。
「……クロッカー」
【……な、に?】
「じゃあなんで、今まで守り続けてくれたんだ?」
その問いに、彼は伸ばしていた手をピタリと止める。
「綾時から聞いた。君は、死の扉を塞ぐ鎖、その前で1人、エレボスと対峙し続けていたって。
君がそうした理由は、何だ?」
【……鎖が少しでも壊れたら、記憶が壊れる。それは、俺の記憶の意思に反していた】
「じゃあ、エレボスを消化し続けていた理由は?戦って倒せばすぐに終わる筈だ」
【……俺は、俺が大切なものを無くして、孤独なのに無謀に戦うのをずっと見てきた。ずっと、ずっと】
【苦しんでるのに、誰にも助けてと言えない俺を、見てきた】
【こんにちはと、挨拶してくれる人がいた】
【怪我をし過ぎないようにと、窘めてくれる人がいた】
【俺には分からない色んな人が、俺を見てくれていた】
【……その人達を、大切な人達を、こんな理不尽なもので死なせたくなんかないだろ?】
【大丈夫だって、あなた達はもっと生きていいんだって、俺は俺に言えないけれど、その人達にくらい言ったって、いいだろ?】
ぐしゃ、と、顔を顰めたように笑って、ぼろぼろと涙を零して。
「……ああ、クロッカー……君は、やっぱりユキなんだね」
桜木は顔を俯かせ、有里はただ、ふわりと笑う。
「有里であって、有里じゃない。ペルソナとしての自我を持って、ずっと此処を護っていてくれたんだね」
【……】
「戻っておいで。大丈夫。僕らはエレボスを倒すだけに来たんじゃない。君達やユキを助ける為に来たんだ」
【!……ほ、んとう?】
「ああ。だから……お前の力を貸せ!オルフェウス!」
パキン。
音がして、有里の背後から琴を持ったペルソナが現れる。
それに呼応するように、時計兎は涙を拭い叫んだ。
【我は……我は物語の始まり!全ての最初の分岐点にして、身に誓約を刻みし案内人!クロッカーなり!】
少年はあの時、直斗の前に現れたのとそっくりな姿の石像で、まるで眠りについているようで。
「……君の記憶は、強く、幼い。あの時点でもう忘れていることも多かったけれど、それも含めた全てが、ココに集約されている」
「……そう」
「全てを思い出すと同時、君のペルソナ……イーターが、君に全ての感情を返す。
その負担は計り知れない。……大丈夫?」
「いいよ。……でも、無理だったら悠達が死ぬ前に止めてね」
桜木はそう言って、有里や望月と共に一歩後ろに下がる。
「もう少しで、エレボスが来る。けれどまずは、君達は何もしないで欲しい」
「え?」
「大丈夫、攻撃してこないから。むしろそれが問題であって……来たよ」
望月に言われ扉の前を見ると、ズズ、ズズと、『何か』がやってきた。
それは全身黒く、人の形をしていて。こちらを向いたかと思うと、その顔に全員が目を見開いた。
【……湊、】
「……え……、ユキ、さん……?」
「ちがうよ」
間髪入れずに、望月が否定する。
「あれは、ユキ君のかつてのペルソナ。ずっと記憶を欠けさせまいと、扉を守り続けていた時計兎」
ほら、少し違うだろう?そう言われて、もう一度それを見る。
顔立ちは桜木に瓜二つだが、頭には兎の耳のようなものがある。服装は燕尾服のようになっていて、腰に時計のようなものを下げていた。
「彼はあの時、いつも通りエレボスを吸収しようとした。けれど、”彼の心”が耐えきれなかった」
”吸収”が”浸食”になってしまったのだと、彼は言う。
【……もう、嫌だ】
【湊……湊、湊……】
「君達の声は聞こえない。彼はユキから切り離された記憶の約束だから。有里君の声しか、届かないだろうね」
「そんな……」
【苦しい、痛い、痛い、苦しい】
【どうして、俺は、俺達は、俺を殺せないんだろう】
【殺せたら、ユキを救える。俺を守れる。俺の望みを、叶えてあげられるのに】
「……クロッカー」
桜木は目を伏せ、有里の服の裾を掴んだ。
「……ユキ。君は、死にたい?」
「……ううん。多分、クロッカーはエレボスに浸食されてる。……でも、
……最近少しだけ、そう思った」
「……そっか」
彼の指先が震えているのを、微かに感じる。
「俺と、完全には切り離せてなかったから。きっとクロッカーは、その時弱ってしまったんだと思う。
……俺のせいだ」
【ねえ、湊、どこ、俺は、俺を、】
「クロッカー、此処だ」
有里が言う。それに時計兎はゆっくりと顔を向け、近づいた。
【……湊?】
【湊、もう、いいよね。約束、破っていいよね。俺、頑張ったよね】
【俺ごと、倒して。俺を、消して】
助けてよ、湊。
「……クロッカー」
【……な、に?】
「じゃあなんで、今まで守り続けてくれたんだ?」
その問いに、彼は伸ばしていた手をピタリと止める。
「綾時から聞いた。君は、死の扉を塞ぐ鎖、その前で1人、エレボスと対峙し続けていたって。
君がそうした理由は、何だ?」
【……鎖が少しでも壊れたら、記憶が壊れる。それは、俺の記憶の意思に反していた】
「じゃあ、エレボスを消化し続けていた理由は?戦って倒せばすぐに終わる筈だ」
【……俺は、俺が大切なものを無くして、孤独なのに無謀に戦うのをずっと見てきた。ずっと、ずっと】
【苦しんでるのに、誰にも助けてと言えない俺を、見てきた】
【こんにちはと、挨拶してくれる人がいた】
【怪我をし過ぎないようにと、窘めてくれる人がいた】
【俺には分からない色んな人が、俺を見てくれていた】
【……その人達を、大切な人達を、こんな理不尽なもので死なせたくなんかないだろ?】
【大丈夫だって、あなた達はもっと生きていいんだって、俺は俺に言えないけれど、その人達にくらい言ったって、いいだろ?】
ぐしゃ、と、顔を顰めたように笑って、ぼろぼろと涙を零して。
「……ああ、クロッカー……君は、やっぱりユキなんだね」
桜木は顔を俯かせ、有里はただ、ふわりと笑う。
「有里であって、有里じゃない。ペルソナとしての自我を持って、ずっと此処を護っていてくれたんだね」
【……】
「戻っておいで。大丈夫。僕らはエレボスを倒すだけに来たんじゃない。君達やユキを助ける為に来たんだ」
【!……ほ、んとう?】
「ああ。だから……お前の力を貸せ!オルフェウス!」
パキン。
音がして、有里の背後から琴を持ったペルソナが現れる。
それに呼応するように、時計兎は涙を拭い叫んだ。
【我は……我は物語の始まり!全ての最初の分岐点にして、身に誓約を刻みし案内人!クロッカーなり!】