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(家にいなかったから、病院かなと思ったけど……)
病院の待合で、尚紀は桜木を探していた。
緊張しながら受付に尋ねると、入院はしているが面会は殆ど断っているらしい。
仕方ないと踵を返すと、ふと何かが落ちる音がして足が止まった。
受付と通路を挟んだところにある、一室。そこは「リハビリ室」と書かれていた。
ガラス張りのその部屋を覗くと、桜木がゆっくりと手すりを握りながら歩いている。
歩くのさえおぼつかなくなってしまっているのか、時折ペタンとしゃがみこみ、手すりをつかんで立ち上がっていた。
尚紀は声をかけるのを少し躊躇い、コンコンと小さくガラスを叩く。
「あ、あの、桜木さん」
「……なおき、くん?」
「こんにちは、えっと、その……今、平気ですか?」
彼の目に、ほんの少しだけ光が戻った。
スライドのドアを開け、よたよたと彼が近づいてくる。
「花、もう枯れてる。行かなきゃ、……行かなきゃ」
覚えてる。それを知って、尚紀は少し申し訳なく、けれど嬉しくなった。
そして、自分の持っている袋を彼に見せる。
「俺、買ってきましたから。一緒に行きましょう?」
「……うん」
少し待ってて、そう言って彼は、受付のほうにまた覚束ない足取りで進もうとした。
その肩を掴み、そして「腕、貸しますよ」と笑う。
「ん。……ごめんね」
「いえ、大丈夫ですから」
外出許可を貰うと、受付の人は少し驚きながら了承し、「あまり長時間は駄目なので、散歩するくらいで帰ってきてくださいね」と付け加えた。
桜木に合わせて、ゆっくり、ゆっくりと外に出る。
「雪だ……」
言われて、桜木が病院着のままだったことに気づいた。
「寒いですから、せめて着てください」
尚紀がそう言って上着を渡すと、彼は少し躊躇ってから「……ありがと」と言って羽織る。
少し歩いて、花を手向けて、病院に向かって。
「そこで、少し休んでから戻りましょう?」
そうバス停のベンチを指さすと、桜木はコクリと頷いた。
「……大丈夫ですか?」
少しして、尚紀が尋ねる。
桜木は彼の方は向かず、小さく頷いた。
「大丈夫。やれることはやれるから」
やれない事が、ちょっとの間増えただけ。
そう答えて、少し止まる。
「………でも、もう少しだけこうしてていいかな?」
「はい」
白い息を吐いて、二人、沈黙する。
互いに何を考えているかは探りようがなくて、ただただ時間だけが淡々と過ぎていく。
「桜木さん。俺、桜木さんの味方ですから」
言うべきかを迷いながら、尚紀は桜木の手を握って言った。
「辛くなったら、いつでも頼ってください。
俺だけじゃ頼りになんないかもですけど……」
もごもごと、最後の方は尻すぼみになる。
「……ありがと……」
桜木は手を少し握り返して、そう返す。
「心臓痛いの、少し和らいだ」
二人で病院に戻ると、彼の主治医が出迎えてくれた。
「おかえり、ユキ君」
「……ただいま、です」
「小西尚紀君、ありがとう。彼を外に連れて行ってくれたんだって?」
「あ、その……ただの、散歩みたいな……それだけですし」
尚紀がそう言うと、医者は首を横に振って笑う。
「ううん。ユキ君はあまり外に出たがらなくてね。心配してたんだ。
もしよかったら、今後もたまに連れて行ってもらえるかな?」
「は、はい!」
「尚紀君」
別れ際、桜木が先程よりもしっかりとした立ち方で声を掛ける。
「……またね」
小さく手を振った彼に、尚紀は笑って手を振り返した。
「はい、また」
病院の待合で、尚紀は桜木を探していた。
緊張しながら受付に尋ねると、入院はしているが面会は殆ど断っているらしい。
仕方ないと踵を返すと、ふと何かが落ちる音がして足が止まった。
受付と通路を挟んだところにある、一室。そこは「リハビリ室」と書かれていた。
ガラス張りのその部屋を覗くと、桜木がゆっくりと手すりを握りながら歩いている。
歩くのさえおぼつかなくなってしまっているのか、時折ペタンとしゃがみこみ、手すりをつかんで立ち上がっていた。
尚紀は声をかけるのを少し躊躇い、コンコンと小さくガラスを叩く。
「あ、あの、桜木さん」
「……なおき、くん?」
「こんにちは、えっと、その……今、平気ですか?」
彼の目に、ほんの少しだけ光が戻った。
スライドのドアを開け、よたよたと彼が近づいてくる。
「花、もう枯れてる。行かなきゃ、……行かなきゃ」
覚えてる。それを知って、尚紀は少し申し訳なく、けれど嬉しくなった。
そして、自分の持っている袋を彼に見せる。
「俺、買ってきましたから。一緒に行きましょう?」
「……うん」
少し待ってて、そう言って彼は、受付のほうにまた覚束ない足取りで進もうとした。
その肩を掴み、そして「腕、貸しますよ」と笑う。
「ん。……ごめんね」
「いえ、大丈夫ですから」
外出許可を貰うと、受付の人は少し驚きながら了承し、「あまり長時間は駄目なので、散歩するくらいで帰ってきてくださいね」と付け加えた。
桜木に合わせて、ゆっくり、ゆっくりと外に出る。
「雪だ……」
言われて、桜木が病院着のままだったことに気づいた。
「寒いですから、せめて着てください」
尚紀がそう言って上着を渡すと、彼は少し躊躇ってから「……ありがと」と言って羽織る。
少し歩いて、花を手向けて、病院に向かって。
「そこで、少し休んでから戻りましょう?」
そうバス停のベンチを指さすと、桜木はコクリと頷いた。
「……大丈夫ですか?」
少しして、尚紀が尋ねる。
桜木は彼の方は向かず、小さく頷いた。
「大丈夫。やれることはやれるから」
やれない事が、ちょっとの間増えただけ。
そう答えて、少し止まる。
「………でも、もう少しだけこうしてていいかな?」
「はい」
白い息を吐いて、二人、沈黙する。
互いに何を考えているかは探りようがなくて、ただただ時間だけが淡々と過ぎていく。
「桜木さん。俺、桜木さんの味方ですから」
言うべきかを迷いながら、尚紀は桜木の手を握って言った。
「辛くなったら、いつでも頼ってください。
俺だけじゃ頼りになんないかもですけど……」
もごもごと、最後の方は尻すぼみになる。
「……ありがと……」
桜木は手を少し握り返して、そう返す。
「心臓痛いの、少し和らいだ」
二人で病院に戻ると、彼の主治医が出迎えてくれた。
「おかえり、ユキ君」
「……ただいま、です」
「小西尚紀君、ありがとう。彼を外に連れて行ってくれたんだって?」
「あ、その……ただの、散歩みたいな……それだけですし」
尚紀がそう言うと、医者は首を横に振って笑う。
「ううん。ユキ君はあまり外に出たがらなくてね。心配してたんだ。
もしよかったら、今後もたまに連れて行ってもらえるかな?」
「は、はい!」
「尚紀君」
別れ際、桜木が先程よりもしっかりとした立ち方で声を掛ける。
「……またね」
小さく手を振った彼に、尚紀は笑って手を振り返した。
「はい、また」