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あれから、数日経った。
マヨナカテレビに入る気にもなれず、鳴上からの連絡も少なくなり。
花村がぶらぶらとあてもなく歩いていると、向かい側から小西尚紀がやってきて「あ」と声を上げた。
尚紀も花村に気づくと顔を上げ、そして少し周囲を気にしながら近づいてくる。
「……あの、花村先輩」
「ん?おぉ」
「えっと……桜木さん、何かあったんですか?」
そう言われ、思わず口元がひくついた。
「百合の花が、枯れてたんです。それで俺、変だなって思って……」
何とか、笑顔で軽く答えようとする。でも、できなくて。
それに気づいたのか、尚紀は花村に、もう一度静かに尋ねた。
「……何か、あったんですか?」
「なあ、あのさ……
もし、もしも10数年間ずっと感情がなくなってて、ある日突然取り戻したら、……お前なら、どう思う?」
「は?」
「もしも、だけどさ」
問いが問いで返され怪訝に思いながら、合点がいったのか、彼は口を開く。
「……混乱しますよ、そりゃあ。今まで平気だったものとか、駄目になったりとかするだろうし。
それに……」
ふと、電信柱の花を見る。花はもう萎んで枯れ、葉も縮こまっていた。
「今までの自分の立場と違う事になる可能性の方が、きっと高いでしょう?それを周りが受け入れてくれんのか、とか……色々不安になって、できるだけ隠そうと思うんじゃないかなって」
そう言われて、花村は今までの事を思い出していた。
―学校に顔を出さなくなった。
―バイトに精力的になって、一緒に遊んだりもしなくなった。
それをきっと一時的なものだと気にしないで、見ないままで。
あの人はずっと、隠し続けようとしていたのだ。
「……あの人に感情が無かったなんて、俺、思いませんよ」
尚紀が言う。
「死を悼む気持ちを知ってる。独りの気持ちを知ってる。……色んな気持ちを知って、知った上で行動してる。
そんな優しすぎる人が、感情が丸っきりないとか、ひどい冗談じゃないですか」
酷い冗談。それはその通りだ。
花村は自嘲して、そして顔を俯かせた。
「………傷つけちまったんだ。壊しちまったんだ」
懺悔は、冷たい風が地面に叩きつけて。
「……あの人の冷静さに、ついていけなくてさ。
……ひどいよな、俺」
尚紀はしばらく黙っていたが、ぽつりと呟く。
「見ようとしないから見えないんです。聞こうとしないから聞こえないんです。
あの人は俺の話も、姉貴の話もずっと耳を傾けてくれた。
些細な変化にも気づいて、大丈夫かって聞いてくれたんですよ……?」
「……あぁ」
「あの人が聞いてくれた分、見ていてくれた分、俺たちもあの人のことを見てないとダメなんですよ」
失礼します。そう言って、尚紀は走り出す。
花村は、しばらくそこに立ち尽くすしかなかった。
マヨナカテレビに入る気にもなれず、鳴上からの連絡も少なくなり。
花村がぶらぶらとあてもなく歩いていると、向かい側から小西尚紀がやってきて「あ」と声を上げた。
尚紀も花村に気づくと顔を上げ、そして少し周囲を気にしながら近づいてくる。
「……あの、花村先輩」
「ん?おぉ」
「えっと……桜木さん、何かあったんですか?」
そう言われ、思わず口元がひくついた。
「百合の花が、枯れてたんです。それで俺、変だなって思って……」
何とか、笑顔で軽く答えようとする。でも、できなくて。
それに気づいたのか、尚紀は花村に、もう一度静かに尋ねた。
「……何か、あったんですか?」
「なあ、あのさ……
もし、もしも10数年間ずっと感情がなくなってて、ある日突然取り戻したら、……お前なら、どう思う?」
「は?」
「もしも、だけどさ」
問いが問いで返され怪訝に思いながら、合点がいったのか、彼は口を開く。
「……混乱しますよ、そりゃあ。今まで平気だったものとか、駄目になったりとかするだろうし。
それに……」
ふと、電信柱の花を見る。花はもう萎んで枯れ、葉も縮こまっていた。
「今までの自分の立場と違う事になる可能性の方が、きっと高いでしょう?それを周りが受け入れてくれんのか、とか……色々不安になって、できるだけ隠そうと思うんじゃないかなって」
そう言われて、花村は今までの事を思い出していた。
―学校に顔を出さなくなった。
―バイトに精力的になって、一緒に遊んだりもしなくなった。
それをきっと一時的なものだと気にしないで、見ないままで。
あの人はずっと、隠し続けようとしていたのだ。
「……あの人に感情が無かったなんて、俺、思いませんよ」
尚紀が言う。
「死を悼む気持ちを知ってる。独りの気持ちを知ってる。……色んな気持ちを知って、知った上で行動してる。
そんな優しすぎる人が、感情が丸っきりないとか、ひどい冗談じゃないですか」
酷い冗談。それはその通りだ。
花村は自嘲して、そして顔を俯かせた。
「………傷つけちまったんだ。壊しちまったんだ」
懺悔は、冷たい風が地面に叩きつけて。
「……あの人の冷静さに、ついていけなくてさ。
……ひどいよな、俺」
尚紀はしばらく黙っていたが、ぽつりと呟く。
「見ようとしないから見えないんです。聞こうとしないから聞こえないんです。
あの人は俺の話も、姉貴の話もずっと耳を傾けてくれた。
些細な変化にも気づいて、大丈夫かって聞いてくれたんですよ……?」
「……あぁ」
「あの人が聞いてくれた分、見ていてくれた分、俺たちもあの人のことを見てないとダメなんですよ」
失礼します。そう言って、尚紀は走り出す。
花村は、しばらくそこに立ち尽くすしかなかった。