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桜木ユキは入院している。
それをどうしても確かめたくて、謝りたくて。菜々子を見に来たという口実で、鳴上達はある病室の前に立っていた。
ネームプレートには、「桜木」と書いてある。
扉をゆっくり開けると、もう一つ扉があって。その向こうに、堂島と桜木がいた。
桜木の表情は、ここからだと堂島に被さって見えない。
『”しばらくすると、遠くからピタピタという”……』
「……ユキさん、ごめんなさい!」
ガラリと扉を開け、真っ先に謝る。
すると彼はゆっくりとこちらに、虚ろな瞳を向けた。
「…………なにが?」
「おい、つーか、お前等……」
「面会はお断りだと、書いていた筈ですが?」
冷たい声。振り向けば、少し壮観な顔をした医者が、目を細めて立っていた。
「出なさい」
「で、でも、堂島さんだって……」
「堂島さんには、私からお願いしているんです。……いいから、今すぐに出なさい」
有無を言わさないその言葉に、何か言おうとしていた面々も口を噤む。
その沈黙を裂いたのは、桜木だった。
「先生?」
弱弱しいその声に、医者は屈み、そして優しく答える。
「……ごめんね。まだ君の心が、耐え切れるものじゃないんだ」
「……そっか。だから……」
そう言って、桜木は自分の胸に右手をのせた。
「だから、しんぞうがいたいんですね。かれらをみてると」
かれら。
どこか他人事のようなその言葉は、静かに、鳴上達を突き放して。
「ごめんなさいって、たくさんいってもたりないくらい、いたい」
痛いと呟く声は、どこまでも無機質で。
「……なんで、またあいにきてしまったの?
きみたちをゆるせないおれに、ただただなにもできない、みにくいおれに」
それが、とどめだった。
許せないと、言われてしまった。
何も返せずに扉を出ると、医者はただ冷たい声と目で、彼のいる部屋に繋がる扉から鳴上達を拒むように立ち言った。
「彼を侮辱した方々にお話することは何もありません。お帰りください」
「……」
無言が、続く。
入院は本当だった。謝ったって、それで彼が元に戻るなんて、そんな簡単なわけじゃなかった。
ただただ、自分達が未熟だった。
『……えらいちいさなわにさん、ぴかぴかのしっぽをみがいて、きんいろのうろこひとつずつを、ないるのみずであらいます……』
堂島が指さしたところを、桜木が拙い口調で読む声が聞こえてくる。
「……帰ってください。出来れば、二度と来ないでください。
私が言いたいのは、それだけです」
医者のその声に、鳴上以外の全員は出ていく他なかった。
それをどうしても確かめたくて、謝りたくて。菜々子を見に来たという口実で、鳴上達はある病室の前に立っていた。
ネームプレートには、「桜木」と書いてある。
扉をゆっくり開けると、もう一つ扉があって。その向こうに、堂島と桜木がいた。
桜木の表情は、ここからだと堂島に被さって見えない。
『”しばらくすると、遠くからピタピタという”……』
「……ユキさん、ごめんなさい!」
ガラリと扉を開け、真っ先に謝る。
すると彼はゆっくりとこちらに、虚ろな瞳を向けた。
「…………なにが?」
「おい、つーか、お前等……」
「面会はお断りだと、書いていた筈ですが?」
冷たい声。振り向けば、少し壮観な顔をした医者が、目を細めて立っていた。
「出なさい」
「で、でも、堂島さんだって……」
「堂島さんには、私からお願いしているんです。……いいから、今すぐに出なさい」
有無を言わさないその言葉に、何か言おうとしていた面々も口を噤む。
その沈黙を裂いたのは、桜木だった。
「先生?」
弱弱しいその声に、医者は屈み、そして優しく答える。
「……ごめんね。まだ君の心が、耐え切れるものじゃないんだ」
「……そっか。だから……」
そう言って、桜木は自分の胸に右手をのせた。
「だから、しんぞうがいたいんですね。かれらをみてると」
かれら。
どこか他人事のようなその言葉は、静かに、鳴上達を突き放して。
「ごめんなさいって、たくさんいってもたりないくらい、いたい」
痛いと呟く声は、どこまでも無機質で。
「……なんで、またあいにきてしまったの?
きみたちをゆるせないおれに、ただただなにもできない、みにくいおれに」
それが、とどめだった。
許せないと、言われてしまった。
何も返せずに扉を出ると、医者はただ冷たい声と目で、彼のいる部屋に繋がる扉から鳴上達を拒むように立ち言った。
「彼を侮辱した方々にお話することは何もありません。お帰りください」
「……」
無言が、続く。
入院は本当だった。謝ったって、それで彼が元に戻るなんて、そんな簡単なわけじゃなかった。
ただただ、自分達が未熟だった。
『……えらいちいさなわにさん、ぴかぴかのしっぽをみがいて、きんいろのうろこひとつずつを、ないるのみずであらいます……』
堂島が指さしたところを、桜木が拙い口調で読む声が聞こえてくる。
「……帰ってください。出来れば、二度と来ないでください。
私が言いたいのは、それだけです」
医者のその声に、鳴上以外の全員は出ていく他なかった。