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熱を出したときとはまた違った、彼の弱った姿。
あの時感じたぬくもりさえ感じられない空虚を纏った瞳に、絶えず微かな唸り声を上げる小さな口。
それも、ガラガラと扉をスライドした瞬間にピタリとやむ。
(……本当に、人が入った瞬間に落ち着きやがる)
それほどまでに、自分の弱さを隠したいのか。
いや、違う。
それほど、心配をしてほしくないんだろう。
迷惑だと思われる事を、したくないんだろう。
「……よお、元気か?」
出来る限り明るい声を出すが、彼は少し上体を起こし、コクリと頷くだけにとどまった。
表情は相変わらず無に近く、出会った頃よりもどこか無気力じみていた。
「本を読みにきたんだ。つっても、俺は読むのが下手だけどな……」
「『それは黄金の昼下がり、気ままに漂う僕ら、』……」
「……おーるはにほんともあぶなげに、ちいさなうででこがれ、ちいさなてがぼくらのただよいをみちびこうと、かっこうだけもうしわけにつけて、」
掠れた声が、堂島の声に重なる。
「ああざんこくなさんにん、こんなじかんにこんなゆめみるてんきのもとで、どんなちいさなはねさえもそよがぬ、よわいいきのおはなしをせがむとは。でもこのあわれなこえひとつ、みっつあわせたしたにさからえましょうか」
「……覚えてるんだな」
その問いに、小さく頷いた。
「この話、好きか?」
「……」
またゆるく、首が縦に下ろされる。
「どこが好きだ?俺は、こういう本はさっぱりでな……」
「……ありすが、つよいの」
ぽつり。呟く声は、ちゃんと聞こうとしなければすぐ、消えてしまいそうで。
「じぶんを、じぶんでちゃんとしかれるの。よわいじぶんを、ちゃんとおこれる。
かっこいい、から」
「………そうか」
「おれも、ちゃんとじぶんをおこれるようになりたい」
彼は俯き、一つずつ言葉を紡ぐ。
「おかあさんたちがいなくても、なきたくても、ちゃんとまえをむかないとだめなんだ。
ありすみたいに、つよくならないと、……かっこよく、なれない」
「…………そう、か」
もういいんだ、と、言えたらどれだけよかったか。
きっとそれだけでは、足りないんだろう。
「なぞかけのおおいぼうしやも、やくそくをまもるためにひっしにはしるとけいうさぎも、じぶんをしっているはんぷてぃも、すき」
彼は揺らめきながら言って、そしてもう一度、堂島に顔を向けた。
「ねえ、つづき、よんで」
「お前さんが全部覚えてるんじゃあ、読む意味もないだろう?」
「りょうたろうさんが、よむありすを、ききたい」
そう言われて、断る事は出来なかった。
ペリと乾いた紙を捲りながら、堂島は次の文章の始まりを探した。
あの時感じたぬくもりさえ感じられない空虚を纏った瞳に、絶えず微かな唸り声を上げる小さな口。
それも、ガラガラと扉をスライドした瞬間にピタリとやむ。
(……本当に、人が入った瞬間に落ち着きやがる)
それほどまでに、自分の弱さを隠したいのか。
いや、違う。
それほど、心配をしてほしくないんだろう。
迷惑だと思われる事を、したくないんだろう。
「……よお、元気か?」
出来る限り明るい声を出すが、彼は少し上体を起こし、コクリと頷くだけにとどまった。
表情は相変わらず無に近く、出会った頃よりもどこか無気力じみていた。
「本を読みにきたんだ。つっても、俺は読むのが下手だけどな……」
「『それは黄金の昼下がり、気ままに漂う僕ら、』……」
「……おーるはにほんともあぶなげに、ちいさなうででこがれ、ちいさなてがぼくらのただよいをみちびこうと、かっこうだけもうしわけにつけて、」
掠れた声が、堂島の声に重なる。
「ああざんこくなさんにん、こんなじかんにこんなゆめみるてんきのもとで、どんなちいさなはねさえもそよがぬ、よわいいきのおはなしをせがむとは。でもこのあわれなこえひとつ、みっつあわせたしたにさからえましょうか」
「……覚えてるんだな」
その問いに、小さく頷いた。
「この話、好きか?」
「……」
またゆるく、首が縦に下ろされる。
「どこが好きだ?俺は、こういう本はさっぱりでな……」
「……ありすが、つよいの」
ぽつり。呟く声は、ちゃんと聞こうとしなければすぐ、消えてしまいそうで。
「じぶんを、じぶんでちゃんとしかれるの。よわいじぶんを、ちゃんとおこれる。
かっこいい、から」
「………そうか」
「おれも、ちゃんとじぶんをおこれるようになりたい」
彼は俯き、一つずつ言葉を紡ぐ。
「おかあさんたちがいなくても、なきたくても、ちゃんとまえをむかないとだめなんだ。
ありすみたいに、つよくならないと、……かっこよく、なれない」
「…………そう、か」
もういいんだ、と、言えたらどれだけよかったか。
きっとそれだけでは、足りないんだろう。
「なぞかけのおおいぼうしやも、やくそくをまもるためにひっしにはしるとけいうさぎも、じぶんをしっているはんぷてぃも、すき」
彼は揺らめきながら言って、そしてもう一度、堂島に顔を向けた。
「ねえ、つづき、よんで」
「お前さんが全部覚えてるんじゃあ、読む意味もないだろう?」
「りょうたろうさんが、よむありすを、ききたい」
そう言われて、断る事は出来なかった。
ペリと乾いた紙を捲りながら、堂島は次の文章の始まりを探した。