絶望の怒り
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『俺は強かった。だから、強くなきゃいけなかった!』
斬撃。斬撃。斬撃。
重い一撃を必死で躱して、次の一撃にひたすら備える。
『アンタ達に弱音なんて吐けなかった、アンタ達を怖いなんて、言えなかった!』
イーターが何かを吠えていても、それは地割れにかき消され届く事はない。
『それでも、ここを居場所だと思いたかった。……思いたかったのに、裏切られた!!』
けれど、彼の深く暗い感情は、攻撃と共にビリビリと伝わってきて。
『努力した意味はなかった!頑張っていた意味なんてなかった!先に進もうとしたのに、嗚呼、なんて絶望だ!!』
「ぐ、ぅ……!」
一際強く、思い一撃に膝をつく。
他の皆もまだ倒れてはいないが、かなりギリギリだ。
土煙の中からイーターが歩いて現れたかと思うと、ジロリと俺達を見て、そしてくいと指で呼ぶ。
『……こいよ。ああ、そのボロボロの状態じゃ俺がもっと暴走するから、その狐に回復してもらってからな』
その狐と言われて初めて、物陰にこっそり隠れていた狐の存在に気づいた。
狐は小さく鳴いて、皆を回復していく。
イーターはそれを見ているだけで、何もしてこない。もう、攻撃の意思はないんだろうか。
ゆっくりと立ち上がり、花村達に手を貸す。そして既に壁の方へと歩き出したイーターの後ろを追って、警戒したまま足を進めた。
壁には人が通れるくらいの道が開いていて、イーターはその脇の黒い道に膝までずぶずぶと沈みながら「そっちを通れ」と口を開いた。
「え……?」
『……その道を通っていいのは、アンタ達だけだ。
俺は、ずっとこの道を歩いてるから、慣れてる』
まるで、その道が普通の道であるかのように平然と歩きながら、彼は先導する。
『ここからなら、アイツは気づかない。気づいても攻撃は出来ない筈だ』
そう足を止めた先。そこにはグラウンドのような広さの砂地があり、そこにズズ、ズズと何かが蠢いているのが見えた。
「うが、ぁ……グ?」
シャドウのような、少なくとも人型でないそれは、何かを探してさまよっているようで。
「……何、アレ……」
「シャドウ、なのか……?」
「…………キモ……」
『……本当に、アンタ達には失望した』
里中達の言葉に、道から砂地へと移動したイーターはただ顔を顰める。
『折角アンタ達が望んだ姿でいてやってんのに、コレだもんなあ……』
ギョロリと、”全てを見通すような”多くの瞳。
”バケモノじみた”強い力。
”感情なんてなさそうな”ヒトでない何かの姿。
『目を覚ませ!いい加減、現実をみろ、ユキ!』
イーターの言った言葉を、信じるのなら。
あれはどう否定したって、桜木ユキ本人の姿で。
『……我は望もう、永遠に、終わることの無い我が絶望を』
シャドウのようなそれは、マヨナカテレビで聞いた朗々とした声を出してきた。
『我は愚かであった。浅い情を信じ、縋り、結局自身が馬鹿を見た。
我が持っていないものであったのにも関わらず、求めてしまった。
もう何者も信じず、また頼らず、唯一つの怪物で在り続けるのみ』
それがあの者たちの望みなのであれば。そう続ける。
『嗚呼、何時になれば、此処の霧は晴れるだろうか?
早々に確実に全てを終わらせなければ、あの幼子も誰も救えないというに……』
『……じゃあ、今すぐ目を覚ませばいい』
シャドウの前に、イーターが立ちふさがる。
『アイツ等はただの他人だ、これからは一人で動けばいい。そうすれば、何も問題はねえだろ?』
「ぇ……う、嘘つかないでよ!アタシたちはそんな……」
『黙れ!じゃあアンタ達は、今の俺を救えるっつーのか!?
俺に傷一つ付けられず、クッソ弱かったアンタ達が!?』
りせに対して、イーターは吠える。
『俺は俺から、アンタ達を守ると約束してんだ!言いたい事あんなら、もっと強くなってから言え!』
その言葉に、全員顔を俯かせた。
俺達は、ユキさんに何もできないのだ。
ただ寄りかかって、疑って、突き放して。ただそれだけの存在なのだ。
『アンタ達には失望したっつってんだよ!もうコイツを助けようなんて考えるな!二度とだ!!』
―そう叫んだ黒ウサギは、泣いていた。
涙を零しはしていなかったが、その言葉は悲痛だったから。
『それはいい。もう誰も傷つけず、危険な目に合わせる事もない!!』
彼のシャドウは、嗤う。イーターの攻撃を受けてもなお、かわらない様子で。
ギョロギョロと彼の身体を蠢く眼球も、顔かさえわからないような空洞も、自分達が望んでたのかと思うだけで、とても苦しくなった。
イーターが何度も叫びながら、攻撃を続ける。
するとそれは徐々に人の姿へと戻り、拘束服を纏ったユキさんが、虚ろな瞳のままそこに立ちすくんだ。
『……安定剤が、効いてきたか』
「……イーター、もう、大丈夫。……ありがとう」
腕と脚をベルトで拘束された彼は、そう言って弱弱しく笑う。
『……フン。約束通り、時間稼ぎしただけだからな。後は自分で何とかしろ』
「うん」
彼は此方が見えているのか、スッと目を細めて頭を垂れた。
「……ごめんね、皆。巻き込んでしまって、本当に……ごめんなさい」
そう言って、光となって消えていく。
「ユキさ……」
『精神安定剤が投与されたんだ。あの医者、やっと使ってくれたんだな……』
イーターはそう呟いて、もう一度俺達の方に顔を向ける。
その顔からもう怒りはなくなっていて、ただゆっくりと、彼と同じように頭を下げた。
『コイツに近づくなとは言わねえ。でも、助けようとか、優しくしようとか、しないでくれ。
……もう、アンタ等に何も期待しねえからさ、頼むよ』
「……」
『そうしないと、今度こそ俺は壊れる。俺だって止められない。
俺が全てを壊そうとするのを、殺して止める事しか出来ない』
「殺……っ!?」
「……イーター。お前はどうして、この姿を俺達に見せたんだ?」
俺がそう尋ねると、イーターは顔を上げて答える。
その言葉に、俺達はただ、ここから踵を返すことしかできなかった。
『これがアンタ達の望んだ一人の男の結末なんだって、見せてやりたかっただけだ』
斬撃。斬撃。斬撃。
重い一撃を必死で躱して、次の一撃にひたすら備える。
『アンタ達に弱音なんて吐けなかった、アンタ達を怖いなんて、言えなかった!』
イーターが何かを吠えていても、それは地割れにかき消され届く事はない。
『それでも、ここを居場所だと思いたかった。……思いたかったのに、裏切られた!!』
けれど、彼の深く暗い感情は、攻撃と共にビリビリと伝わってきて。
『努力した意味はなかった!頑張っていた意味なんてなかった!先に進もうとしたのに、嗚呼、なんて絶望だ!!』
「ぐ、ぅ……!」
一際強く、思い一撃に膝をつく。
他の皆もまだ倒れてはいないが、かなりギリギリだ。
土煙の中からイーターが歩いて現れたかと思うと、ジロリと俺達を見て、そしてくいと指で呼ぶ。
『……こいよ。ああ、そのボロボロの状態じゃ俺がもっと暴走するから、その狐に回復してもらってからな』
その狐と言われて初めて、物陰にこっそり隠れていた狐の存在に気づいた。
狐は小さく鳴いて、皆を回復していく。
イーターはそれを見ているだけで、何もしてこない。もう、攻撃の意思はないんだろうか。
ゆっくりと立ち上がり、花村達に手を貸す。そして既に壁の方へと歩き出したイーターの後ろを追って、警戒したまま足を進めた。
壁には人が通れるくらいの道が開いていて、イーターはその脇の黒い道に膝までずぶずぶと沈みながら「そっちを通れ」と口を開いた。
「え……?」
『……その道を通っていいのは、アンタ達だけだ。
俺は、ずっとこの道を歩いてるから、慣れてる』
まるで、その道が普通の道であるかのように平然と歩きながら、彼は先導する。
『ここからなら、アイツは気づかない。気づいても攻撃は出来ない筈だ』
そう足を止めた先。そこにはグラウンドのような広さの砂地があり、そこにズズ、ズズと何かが蠢いているのが見えた。
「うが、ぁ……グ?」
シャドウのような、少なくとも人型でないそれは、何かを探してさまよっているようで。
「……何、アレ……」
「シャドウ、なのか……?」
「…………キモ……」
『……本当に、アンタ達には失望した』
里中達の言葉に、道から砂地へと移動したイーターはただ顔を顰める。
『折角アンタ達が望んだ姿でいてやってんのに、コレだもんなあ……』
ギョロリと、”全てを見通すような”多くの瞳。
”バケモノじみた”強い力。
”感情なんてなさそうな”ヒトでない何かの姿。
『目を覚ませ!いい加減、現実をみろ、ユキ!』
イーターの言った言葉を、信じるのなら。
あれはどう否定したって、桜木ユキ本人の姿で。
『……我は望もう、永遠に、終わることの無い我が絶望を』
シャドウのようなそれは、マヨナカテレビで聞いた朗々とした声を出してきた。
『我は愚かであった。浅い情を信じ、縋り、結局自身が馬鹿を見た。
我が持っていないものであったのにも関わらず、求めてしまった。
もう何者も信じず、また頼らず、唯一つの怪物で在り続けるのみ』
それがあの者たちの望みなのであれば。そう続ける。
『嗚呼、何時になれば、此処の霧は晴れるだろうか?
早々に確実に全てを終わらせなければ、あの幼子も誰も救えないというに……』
『……じゃあ、今すぐ目を覚ませばいい』
シャドウの前に、イーターが立ちふさがる。
『アイツ等はただの他人だ、これからは一人で動けばいい。そうすれば、何も問題はねえだろ?』
「ぇ……う、嘘つかないでよ!アタシたちはそんな……」
『黙れ!じゃあアンタ達は、今の俺を救えるっつーのか!?
俺に傷一つ付けられず、クッソ弱かったアンタ達が!?』
りせに対して、イーターは吠える。
『俺は俺から、アンタ達を守ると約束してんだ!言いたい事あんなら、もっと強くなってから言え!』
その言葉に、全員顔を俯かせた。
俺達は、ユキさんに何もできないのだ。
ただ寄りかかって、疑って、突き放して。ただそれだけの存在なのだ。
『アンタ達には失望したっつってんだよ!もうコイツを助けようなんて考えるな!二度とだ!!』
―そう叫んだ黒ウサギは、泣いていた。
涙を零しはしていなかったが、その言葉は悲痛だったから。
『それはいい。もう誰も傷つけず、危険な目に合わせる事もない!!』
彼のシャドウは、嗤う。イーターの攻撃を受けてもなお、かわらない様子で。
ギョロギョロと彼の身体を蠢く眼球も、顔かさえわからないような空洞も、自分達が望んでたのかと思うだけで、とても苦しくなった。
イーターが何度も叫びながら、攻撃を続ける。
するとそれは徐々に人の姿へと戻り、拘束服を纏ったユキさんが、虚ろな瞳のままそこに立ちすくんだ。
『……安定剤が、効いてきたか』
「……イーター、もう、大丈夫。……ありがとう」
腕と脚をベルトで拘束された彼は、そう言って弱弱しく笑う。
『……フン。約束通り、時間稼ぎしただけだからな。後は自分で何とかしろ』
「うん」
彼は此方が見えているのか、スッと目を細めて頭を垂れた。
「……ごめんね、皆。巻き込んでしまって、本当に……ごめんなさい」
そう言って、光となって消えていく。
「ユキさ……」
『精神安定剤が投与されたんだ。あの医者、やっと使ってくれたんだな……』
イーターはそう呟いて、もう一度俺達の方に顔を向ける。
その顔からもう怒りはなくなっていて、ただゆっくりと、彼と同じように頭を下げた。
『コイツに近づくなとは言わねえ。でも、助けようとか、優しくしようとか、しないでくれ。
……もう、アンタ等に何も期待しねえからさ、頼むよ』
「……」
『そうしないと、今度こそ俺は壊れる。俺だって止められない。
俺が全てを壊そうとするのを、殺して止める事しか出来ない』
「殺……っ!?」
「……イーター。お前はどうして、この姿を俺達に見せたんだ?」
俺がそう尋ねると、イーターは顔を上げて答える。
その言葉に、俺達はただ、ここから踵を返すことしかできなかった。
『これがアンタ達の望んだ一人の男の結末なんだって、見せてやりたかっただけだ』