絶望の怒り
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
病院。
躊躇いがちに医者が告げた内容に、堂島は唖然とした。
「桜木が、倒れた……!?」
医者は頷き、「貴方には、知らせるべきかと思って」と返す。
「アイツは、大丈夫なんですか!?今、何処に……!!」
「……ついて来てください」
車椅子から身を乗り出した堂島に、ゆっくりと手を差し伸べた。
そうして歩いて行った先。隔離されたような、病室がぽつんと一つだけあるそこから、微かに漏れる声が聞こえてくる。
『いやあああああああああ!!!』
それは、彼の声だった。
あまりに普段とかけ離れたその声に、堂島は勢いよく扉を開ける。
『はなして!そこに、そこにおとうさんがいるの!!おかあさん、おかあさん!!!!!やだ、はなせえええええええ!!!』
更に一つある、扉の先で。
彼は目を見開き、何かを拒むように腕を振り上げようとしていた。
けれど腕につけられたリストバンドはベッドに括り付けられていて、自由に動かす事が出来ていない。
「……」
『まだいきてた!!おれが、おれがころしたんだ!!!ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶおれのせいだ!!!!』
「………あの時と、そっくりです」
ぽつりと、医者が呟く。
「事故が起こった後の、彼に。……いや、それよりもひどいかもしれない」
ゆっくりとこちらを向くと、真剣な目が堂島を捉えた。
「”薄情だ”と言われたそうです。”部外者だ”とも。……心当たり、ありますか?」
堂島は、首を振る。振ってから、もしかしたらと思う一つの可能性を考えた。
鳴上達。本人は別行動が多かったと繰り返していた。もし、あそこに関係しているとしたら……。
「折角、精神も安定して、感情も戻りかけていたのに……」
扉の向こうの叫びは、止まない。
医者は持っていた鞄から注射器を取り出して、扉に手をかけた。
「精神安定剤を投与します」
「!」
「彼に投与できるものは、強いもの。今まで以上に、感情が出なくなるでしょう。でも……こんなになるくらいなら、私はもう……」
ゆっくりと、扉を開ける。すると叫び声は止んで、焦点の定まらない虚ろな目が、ゆっくりとこちらを向いた。
「彼の苦しむ顔を、見ていたくない。……俺は、無力なんです」
悲しそうに笑って、医者は彼のベッドまで近づいていく。
『ユキ君、今から注射をするよ』
『……、は、……せん、せ……』
『大丈夫、落ち着いて。……深呼吸をしててね』
桜木は小さく頷いて、息を整え始めた。
『もう、大丈夫。疲れただろう、寝ていいよ』
『はい、………』
そう言われ、すぐに目を閉じたのを確認してから、医者はまたゆっくりと戻ってくる。
「……使いたくなんて、無かった」
注射器を鞄にしまって、彼はそう言った。
「事故の後、確かに最初の方は投与しました。でも……彼は何も悪くないのに、こうやってどんどん大切なものを失っていく……それに、耐えられなかった。
……途中からは、ただの栄養剤を投与していました」
「……」
「俺は、あの時からずっと変われてない……情けない、医者、失格です」
「ただ、彼の笑顔を見たいだけなのに……」と呟く医者の背中は、とても悲しみに包まれていて。
気絶しているんじゃないかと思うくらい、先程までとは違った寝姿に、思わず声が出た。
「……あの、俺に出来ること、ありませんか?」
「……?」
「コイツには、何度も助けられてんです。……なんでもいい、何か、させてください」
医者は堂島を見、少し考えて口を開く。
「…………絵本を、」
「絵本?」
「絵本を、読んであげてください。彼は、それが一番好きでしたから」
棚に置かれていた本のうち一つを取り出し、堂島に見せた。
「……”不思議の国のアリス”?」
「原本を擦り切れるまで読み込むくらい、好きだったみたいです。
読み聞かせると、いつも少し嬉しそうだったので」
「……わかりました」
手渡されたその本も角が潰れて擦り切れており、よく見たら棚にある本全てがよく読み込まれた痕があった。
医者が持ち込んでいた本だったのだろう。その中でも一際擦り切れたアリスの本は、どこか彼らしいとさえ思ってしまった。
躊躇いがちに医者が告げた内容に、堂島は唖然とした。
「桜木が、倒れた……!?」
医者は頷き、「貴方には、知らせるべきかと思って」と返す。
「アイツは、大丈夫なんですか!?今、何処に……!!」
「……ついて来てください」
車椅子から身を乗り出した堂島に、ゆっくりと手を差し伸べた。
そうして歩いて行った先。隔離されたような、病室がぽつんと一つだけあるそこから、微かに漏れる声が聞こえてくる。
『いやあああああああああ!!!』
それは、彼の声だった。
あまりに普段とかけ離れたその声に、堂島は勢いよく扉を開ける。
『はなして!そこに、そこにおとうさんがいるの!!おかあさん、おかあさん!!!!!やだ、はなせえええええええ!!!』
更に一つある、扉の先で。
彼は目を見開き、何かを拒むように腕を振り上げようとしていた。
けれど腕につけられたリストバンドはベッドに括り付けられていて、自由に動かす事が出来ていない。
「……」
『まだいきてた!!おれが、おれがころしたんだ!!!ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶおれのせいだ!!!!』
「………あの時と、そっくりです」
ぽつりと、医者が呟く。
「事故が起こった後の、彼に。……いや、それよりもひどいかもしれない」
ゆっくりとこちらを向くと、真剣な目が堂島を捉えた。
「”薄情だ”と言われたそうです。”部外者だ”とも。……心当たり、ありますか?」
堂島は、首を振る。振ってから、もしかしたらと思う一つの可能性を考えた。
鳴上達。本人は別行動が多かったと繰り返していた。もし、あそこに関係しているとしたら……。
「折角、精神も安定して、感情も戻りかけていたのに……」
扉の向こうの叫びは、止まない。
医者は持っていた鞄から注射器を取り出して、扉に手をかけた。
「精神安定剤を投与します」
「!」
「彼に投与できるものは、強いもの。今まで以上に、感情が出なくなるでしょう。でも……こんなになるくらいなら、私はもう……」
ゆっくりと、扉を開ける。すると叫び声は止んで、焦点の定まらない虚ろな目が、ゆっくりとこちらを向いた。
「彼の苦しむ顔を、見ていたくない。……俺は、無力なんです」
悲しそうに笑って、医者は彼のベッドまで近づいていく。
『ユキ君、今から注射をするよ』
『……、は、……せん、せ……』
『大丈夫、落ち着いて。……深呼吸をしててね』
桜木は小さく頷いて、息を整え始めた。
『もう、大丈夫。疲れただろう、寝ていいよ』
『はい、………』
そう言われ、すぐに目を閉じたのを確認してから、医者はまたゆっくりと戻ってくる。
「……使いたくなんて、無かった」
注射器を鞄にしまって、彼はそう言った。
「事故の後、確かに最初の方は投与しました。でも……彼は何も悪くないのに、こうやってどんどん大切なものを失っていく……それに、耐えられなかった。
……途中からは、ただの栄養剤を投与していました」
「……」
「俺は、あの時からずっと変われてない……情けない、医者、失格です」
「ただ、彼の笑顔を見たいだけなのに……」と呟く医者の背中は、とても悲しみに包まれていて。
気絶しているんじゃないかと思うくらい、先程までとは違った寝姿に、思わず声が出た。
「……あの、俺に出来ること、ありませんか?」
「……?」
「コイツには、何度も助けられてんです。……なんでもいい、何か、させてください」
医者は堂島を見、少し考えて口を開く。
「…………絵本を、」
「絵本?」
「絵本を、読んであげてください。彼は、それが一番好きでしたから」
棚に置かれていた本のうち一つを取り出し、堂島に見せた。
「……”不思議の国のアリス”?」
「原本を擦り切れるまで読み込むくらい、好きだったみたいです。
読み聞かせると、いつも少し嬉しそうだったので」
「……わかりました」
手渡されたその本も角が潰れて擦り切れており、よく見たら棚にある本全てがよく読み込まれた痕があった。
医者が持ち込んでいた本だったのだろう。その中でも一際擦り切れたアリスの本は、どこか彼らしいとさえ思ってしまった。