未熟な家族
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「……やっぱり、予想した通りになったか」
ぽつりと呟いて、桜木は頭を掻く。
「……ユキ、さん……?」
「予想した通り、って、どういうことだよ……」
「何も言わずに心が通じ合うなら、こんなに事態は悪くなってねえっつってんだよ。
現に今、アンタは菜々子ちゃんの気持ちに全然寄り添っちゃいないだろ」
聞いたことのない、荒々しい言葉遣い。
それに驚いて言葉を飲むと、彼は目を細めて息を吐いた。
「父親のやることちゃんとできないで、何が親子だ、何が家族だ。
菜々子ちゃんが良い子だからって、それにおんぶに抱っこされてんじゃねえよ」
その言葉に、怒りも悲しみも混じってない。
だからこそ、冷たく暗く、正しく、堂島達の心臓を掴む。
「アンタが辛いのは理解できる。でも、相手はアンタの子供だ。そこ分かってるの?」
菜々子ちゃん、迎えに行ってくる。そう言って作ったおかずだけをテーブルに並べ、家から出て行った。
―言いすぎたかもしれない。
ぼんやりと考えながら、桜木は冷たい道を傘を手に走る。
何故、あんな言葉が口から出たのかは分からない。多分感情の方で何かあったのだろうが、自分の持っている記憶と情報だけでは上手く処理ができなかった。
間違ったことは言ってはいない。でも、他の言い方もできたかもしれない。
考えて、頭を振る。
―後悔しても仕方ない。
誤った道に行っていたら、謝罪すればいい。
先へ、先へ。
彼女の行きそうな場所へ、歩みを進める。
どこへ行った。何がある。どこへ行かない。
絞って、走って、探して、桜木はようやく、鮫川の河川敷に辿り着いた。
しとしとと雨が降り始めていて、川の方をぼんやりと見ている菜々子に近づき傘を傾ける。
「菜々子ちゃん、風邪引くよ」
「……ユキ、お兄ちゃん」
「……俺の家、行く?」
「……うん」
彼女の体はすっかり冷たくなっていて、傘を持ちながらも濡らさないようにしっかりとおぶった。
「……お父さん、菜々子のこと、きらいになっちゃったのかな……」
「ううん。そうじゃないよ」
桜木は否定して、そして歩き出す。
「ただ、……今一番大切なはずのものを、どうしたらいいのか分からないんだ」
ぬかるんだ道を、一歩、また一歩、歩く。
「守ればいいことは、分かっているけれど。……どう2人分、守ったらいいのか」
歩き慣れた道のはずなのに、何故だか全く知らない場所にも思えて。
「どう、お母さんの分まで愛してあげたらいいのか、分からないんだよ」
そう思う心臓が、つきり、つきりと痛んだ。
「……ユキお兄ちゃんは、さみしいの?」
―ふたりとも、喪ってしまっている彼は。
あたたかい背中に身を預け、微睡みながら菜々子は訊く。
「……寂しいの、かな。分からないや」
彼女の方を見ず、桜木は口を開く。
「また、声が聞けたら。また、手を繋げたら。そう、思うんだけどね」
「……」
「……でも、そう思っても、今の状況は変わらない。まだ、やるべきこともあるし」
「やるべき、こと?」
「うん。菜々子ちゃんのお父さん……遼太郎さんが、もしかしたら楽になるかもしれないこと」
その言葉に、今までうつらうつらとしていた目が丸く開かれた。
「ほんとう!?」
「もしかしたら、だよ。……でも、もしできたら、お休みくらいはもらえるかもしれない」
ほんの少し、声に暖かく優しい空気が含まれて、彼女の心を温める。
「そしたら、いっぱい色んなところに連れて行ってもらうといい。遊園地とか、水族館とか……菜々子ちゃんは、どこ行きたい?」
「……動物園、かなぁ」
「じゃあ、菜々子ちゃん達の動物園のために、もう少し頑張るよ」
頑張る、がんばる。
そう言って、桜木は歩き続ける。
その言葉が、あたたかくて、優しくて。
「……菜々子も、がんばる……」
呟いて、重くなっていた瞼を下ろした。
ぽつりと呟いて、桜木は頭を掻く。
「……ユキ、さん……?」
「予想した通り、って、どういうことだよ……」
「何も言わずに心が通じ合うなら、こんなに事態は悪くなってねえっつってんだよ。
現に今、アンタは菜々子ちゃんの気持ちに全然寄り添っちゃいないだろ」
聞いたことのない、荒々しい言葉遣い。
それに驚いて言葉を飲むと、彼は目を細めて息を吐いた。
「父親のやることちゃんとできないで、何が親子だ、何が家族だ。
菜々子ちゃんが良い子だからって、それにおんぶに抱っこされてんじゃねえよ」
その言葉に、怒りも悲しみも混じってない。
だからこそ、冷たく暗く、正しく、堂島達の心臓を掴む。
「アンタが辛いのは理解できる。でも、相手はアンタの子供だ。そこ分かってるの?」
菜々子ちゃん、迎えに行ってくる。そう言って作ったおかずだけをテーブルに並べ、家から出て行った。
―言いすぎたかもしれない。
ぼんやりと考えながら、桜木は冷たい道を傘を手に走る。
何故、あんな言葉が口から出たのかは分からない。多分感情の方で何かあったのだろうが、自分の持っている記憶と情報だけでは上手く処理ができなかった。
間違ったことは言ってはいない。でも、他の言い方もできたかもしれない。
考えて、頭を振る。
―後悔しても仕方ない。
誤った道に行っていたら、謝罪すればいい。
先へ、先へ。
彼女の行きそうな場所へ、歩みを進める。
どこへ行った。何がある。どこへ行かない。
絞って、走って、探して、桜木はようやく、鮫川の河川敷に辿り着いた。
しとしとと雨が降り始めていて、川の方をぼんやりと見ている菜々子に近づき傘を傾ける。
「菜々子ちゃん、風邪引くよ」
「……ユキ、お兄ちゃん」
「……俺の家、行く?」
「……うん」
彼女の体はすっかり冷たくなっていて、傘を持ちながらも濡らさないようにしっかりとおぶった。
「……お父さん、菜々子のこと、きらいになっちゃったのかな……」
「ううん。そうじゃないよ」
桜木は否定して、そして歩き出す。
「ただ、……今一番大切なはずのものを、どうしたらいいのか分からないんだ」
ぬかるんだ道を、一歩、また一歩、歩く。
「守ればいいことは、分かっているけれど。……どう2人分、守ったらいいのか」
歩き慣れた道のはずなのに、何故だか全く知らない場所にも思えて。
「どう、お母さんの分まで愛してあげたらいいのか、分からないんだよ」
そう思う心臓が、つきり、つきりと痛んだ。
「……ユキお兄ちゃんは、さみしいの?」
―ふたりとも、喪ってしまっている彼は。
あたたかい背中に身を預け、微睡みながら菜々子は訊く。
「……寂しいの、かな。分からないや」
彼女の方を見ず、桜木は口を開く。
「また、声が聞けたら。また、手を繋げたら。そう、思うんだけどね」
「……」
「……でも、そう思っても、今の状況は変わらない。まだ、やるべきこともあるし」
「やるべき、こと?」
「うん。菜々子ちゃんのお父さん……遼太郎さんが、もしかしたら楽になるかもしれないこと」
その言葉に、今までうつらうつらとしていた目が丸く開かれた。
「ほんとう!?」
「もしかしたら、だよ。……でも、もしできたら、お休みくらいはもらえるかもしれない」
ほんの少し、声に暖かく優しい空気が含まれて、彼女の心を温める。
「そしたら、いっぱい色んなところに連れて行ってもらうといい。遊園地とか、水族館とか……菜々子ちゃんは、どこ行きたい?」
「……動物園、かなぁ」
「じゃあ、菜々子ちゃん達の動物園のために、もう少し頑張るよ」
頑張る、がんばる。
そう言って、桜木は歩き続ける。
その言葉が、あたたかくて、優しくて。
「……菜々子も、がんばる……」
呟いて、重くなっていた瞼を下ろした。