未熟な家族
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外は、雨が降りそうな曇天だった。
桜木はいつも通り台所で晩御飯の支度をしていて、居間には堂島以外の全員が揃っていた。
菜々子は少し前からそわそわしていて、家のドアが開いた音に勢いよく立ち上がる。
「おかえり、お父さん!」
少し上擦った声と対照に、返ってきた声は「おう……」と疲労の滲み出たもので。
きっと今日中に良い話し合いはできないだろうと、桜木は少し様子を見てからまた作業に戻る。
(……できなくても、今まで延ばして来てしまったものだ。
菜々子ちゃんの心だって、これ以上軽視されちゃいけない)
今までも、何度か話す場を設けようとはした。しかし堂島の忙しさはここ数日特に深刻で、菜々子ちゃんの起きている時間に帰って来れない事さえあった。
当日時間を確保してもらうには、これ以上延ばせない。
そんな状況を、知ってか知らずか。
それでもと、努めて明るくしようと彼女は言葉を続けた。
「お父さん、あの……あのね!」
「菜々子、後にしてくれ……」
「で、でも、プリント……」
くしゃり。
彼女の手の中にあった紙が、少し皺を立てる。
台所から響く生活音だけが部屋に響き、桜木が口を開いた。
「後にはもう、できない話だよ。疲れてても聞いてあげて」
「……」
堂島は顔を顰め、はあと息を吐く。
そして部屋から出ようとしていた足を止め、居間へと戻り腰を下ろした。
菜々子がおずおずと紙を見せると、「授業参観……の、案内か」と眉間の皺を深くする。
「希望日って言われてもな……」
いつだって、終わりの見えない事件と戦っているのだ。今日だって、犯人に繋がる手がかりはないかと資料を何度も見返していた。
疲労した頭では、空いてる日も、時間だって考えられない。
沈黙が続く。
やっぱり明日にしてくれないか。そう言おうとしたところで、「……いい」と菜々子が顔を俯かせたまま言葉を出した。
「もう、いい……」
その言葉に堂島が菜々子を見ると、先ほどまでとは違った、歪んだ表情をその顔に浮かべていた。
「もういいよ!書かなくていい!
お父さんは菜々子より、わるいひととかみんなとかがだいじなんでしょ!?」
「な、菜々子?」
「"ほんと"じゃないから、お父さんは"ほんと"のお父さんじゃないから!!」
ああ、……彼女は、怒れるのか。
止めようとしている鳴上を見て、菜々子を見て、そんな他人事のように。テレビのドラマを見ているようなうわついた感想が、桜木の頭によぎる。
怒れる相手がいて、怒れる正当性があって、怒れる環境で。
なら、――怒れるうちに、怒った方がいい。
「どうせジケンなんでしょ!?おしごとなんでしょ!?
お父さんはいっつもそうだ!文化祭の時だって!」
「今……そのことは関係ないだろ!」
怒って、それで、……
「いっしょに、まわりたかった」
「菜々……」
ピピピピピピピピ
冷たい、無情な着信音。
堂島はそれを取らず、けれど、答えになってしまったようだった。
「菜々子!!」
玄関へ、その外へと駆け出す菜々子を、彼は止めることができなかった。
桜木はいつも通り台所で晩御飯の支度をしていて、居間には堂島以外の全員が揃っていた。
菜々子は少し前からそわそわしていて、家のドアが開いた音に勢いよく立ち上がる。
「おかえり、お父さん!」
少し上擦った声と対照に、返ってきた声は「おう……」と疲労の滲み出たもので。
きっと今日中に良い話し合いはできないだろうと、桜木は少し様子を見てからまた作業に戻る。
(……できなくても、今まで延ばして来てしまったものだ。
菜々子ちゃんの心だって、これ以上軽視されちゃいけない)
今までも、何度か話す場を設けようとはした。しかし堂島の忙しさはここ数日特に深刻で、菜々子ちゃんの起きている時間に帰って来れない事さえあった。
当日時間を確保してもらうには、これ以上延ばせない。
そんな状況を、知ってか知らずか。
それでもと、努めて明るくしようと彼女は言葉を続けた。
「お父さん、あの……あのね!」
「菜々子、後にしてくれ……」
「で、でも、プリント……」
くしゃり。
彼女の手の中にあった紙が、少し皺を立てる。
台所から響く生活音だけが部屋に響き、桜木が口を開いた。
「後にはもう、できない話だよ。疲れてても聞いてあげて」
「……」
堂島は顔を顰め、はあと息を吐く。
そして部屋から出ようとしていた足を止め、居間へと戻り腰を下ろした。
菜々子がおずおずと紙を見せると、「授業参観……の、案内か」と眉間の皺を深くする。
「希望日って言われてもな……」
いつだって、終わりの見えない事件と戦っているのだ。今日だって、犯人に繋がる手がかりはないかと資料を何度も見返していた。
疲労した頭では、空いてる日も、時間だって考えられない。
沈黙が続く。
やっぱり明日にしてくれないか。そう言おうとしたところで、「……いい」と菜々子が顔を俯かせたまま言葉を出した。
「もう、いい……」
その言葉に堂島が菜々子を見ると、先ほどまでとは違った、歪んだ表情をその顔に浮かべていた。
「もういいよ!書かなくていい!
お父さんは菜々子より、わるいひととかみんなとかがだいじなんでしょ!?」
「な、菜々子?」
「"ほんと"じゃないから、お父さんは"ほんと"のお父さんじゃないから!!」
ああ、……彼女は、怒れるのか。
止めようとしている鳴上を見て、菜々子を見て、そんな他人事のように。テレビのドラマを見ているようなうわついた感想が、桜木の頭によぎる。
怒れる相手がいて、怒れる正当性があって、怒れる環境で。
なら、――怒れるうちに、怒った方がいい。
「どうせジケンなんでしょ!?おしごとなんでしょ!?
お父さんはいっつもそうだ!文化祭の時だって!」
「今……そのことは関係ないだろ!」
怒って、それで、……
「いっしょに、まわりたかった」
「菜々……」
ピピピピピピピピ
冷たい、無情な着信音。
堂島はそれを取らず、けれど、答えになってしまったようだった。
「菜々子!!」
玄関へ、その外へと駆け出す菜々子を、彼は止めることができなかった。