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本日は快晴なり。
青空の遠い秋の空の下、ジュネスのフードコート前で、鳴上達は各々楽器をかき鳴らしていた。
センターにはマイクを持った久慈川、その斜め後ろでベースを弾く桜木は時折彼女の声に合わせてハモリを加えては観客を盛り上げる。
元々、桜木は参加予定ではなかった。
ただ、取ろうと思っていなかった休みが店長によって与えられて、『楽器は多分なんでも出来る』という彼の提案で補佐のような立ち回りになったのだ。
(……本当に全部出来た時は、流石に度肝を抜かれたけど)
鳴上はチラリと、桜木を見る。
彼はいつも通りの無表情で、真っすぐ前を見ていた。
全部出来るならと、勢いでハモリまで任せた時。彼がほんの僅かな間見せた表情が、気になっていたからだ。
(……あれは、哀しい?辛い?……いや、違う気がする)
まるで、歌うことに絶望したような。
あまりに一瞬で、しかもその後「やれるだけやってみる」と頷いていたから、見間違いなのかもしれないけれど。
そう考えながら一曲、二曲とライブは進んでいき、最後の曲もつつがなく演奏をすることができた。
「アンコール!アンコール!」
フードコートの一角を埋め尽くした人の歓声があちこちで聞こえてくる。
すると久慈川は少し考える仕草をして、桜木に何やら耳打ちをした。
『あのね、……』
『え……』
『適当に合わせるから!ね!』
『……台無しになっても知らないからね』
求められてるのは、君の歌なのに。桜木は少し彼女を睨み、そして鳴上の方へと歩みを進める。
「ギター、少し貸して。ドラムは適当に叩くだけでいいから」
ベースを置きながらそう言ってきて、思わず鳴上はギターを手渡しながら「何かあったんですか?」と訊いた。
「……りせが、何でもいいから歌ってほしいって。練習中断ってたの、根に持ってたみたい」
「あー…」
「ですが、いいんですか?」
そう尋ねたのは、近くでキーボードを弾いていた白鐘だ。
桜木は頷いて、少し肩を竦めた。
「スタッフさんにはもう話してあるんだって。……歌えるの、そんなにないんだけど……」
ちらりと久慈川の方を見れば、彼女は既に観客への説明をしているようだった。
口元に指を当てて、数秒。パーカーのポケットから手帳を取り出すと、口ずさみながら何かを書き込んでいく。
そして書き終わるとそのページを破り、鳴上と白鐘に手渡した。
「大まかなコードはこれ。ベースも、合わせられたら合わせて」
「はい」
「分かりました」
彼らが頷いたのを確認して、桜木はステージの前の方へ戻っていく。
そして目を閉じ、少し息を吐いた。
『……』
数音。それだけで、観客がシンと静まる。
彼は目を伏せながら、口を開き音を奏で始めた。
『……何で生きてきたんだろう、誰の為に生きてきたんだろう。
分からなくなって縋りたくて、後ろを振り返っては泣いていた』
小さくて、消えてしまいそうで、でもよく耳に馴染む声。
何回かフレーズを繰り返した後、また音は続く。
久慈川の歌うようなアップテンポではないが、バラードとも違う不思議な音。
『推奨される完璧人間、普通の人間といつも僕は
かけ離れていて、自分は駄目だなんて追い込まれて』
表情は、変わらない。
少し寂しそうな顔のまま、彼は紡ぐ。
『自分らしい自分じゃダメですか
認めてくれる人はいないんですか』
歌にドラムの軽快な音が加わって、ひたすらそれに合わせてかき鳴らした。
『.......そんなの嫌だな』
『僕は貴方と話がしたい
僕のままで話がしたい
そのため今は歯を食いしばって
必死に突き進むしかないんです』
いつの間にか、観客は手拍子をしていた。
彼はそれさえ気付かずに、真っ直ぐな言葉を響かせる。
『いつか僕を認めたい
ありのままの僕を信じたい
そのため今は好きな事を
好きと言えるようになりたいんです』
誰の本音の歌なのだろう。
誰が叫んだ歌なんだろう。
『……限りある生の真ん中で
僕は苦しいと言えるのかな』
歌い終わった後、少し息を呑む音がして、そして大きな拍手が沸き起こる。
桜木は目を瞬かせ、そして小さな声を出した。
『……ぇ』
「タイトルは!?どのカバー曲!?」
『……いや、あの……さっきなんとなく作った歌だから……タイトルとかはない、けど……』
「「『はぁ!!!??』」」
詰め寄られた桜木の回答に、観客だけでなくステージにいた全員が声を荒げる。
しかしそれを気に留めず、彼は久慈川にマイクを手渡した。
『じゃあ、一応『在り処』で。俺、別に歌手じゃないので忘れてくださいね。……はい交代、りせ』
『ちょっ……もう!今から握手会します!』
さっさとステージから姿を消した桜木に、久慈川は頬を膨らませながらも仕切り直す。
鳴上達は顔を見合わせ、苦笑し肩を竦めながらも後片付けに取り掛かった。
青空の遠い秋の空の下、ジュネスのフードコート前で、鳴上達は各々楽器をかき鳴らしていた。
センターにはマイクを持った久慈川、その斜め後ろでベースを弾く桜木は時折彼女の声に合わせてハモリを加えては観客を盛り上げる。
元々、桜木は参加予定ではなかった。
ただ、取ろうと思っていなかった休みが店長によって与えられて、『楽器は多分なんでも出来る』という彼の提案で補佐のような立ち回りになったのだ。
(……本当に全部出来た時は、流石に度肝を抜かれたけど)
鳴上はチラリと、桜木を見る。
彼はいつも通りの無表情で、真っすぐ前を見ていた。
全部出来るならと、勢いでハモリまで任せた時。彼がほんの僅かな間見せた表情が、気になっていたからだ。
(……あれは、哀しい?辛い?……いや、違う気がする)
まるで、歌うことに絶望したような。
あまりに一瞬で、しかもその後「やれるだけやってみる」と頷いていたから、見間違いなのかもしれないけれど。
そう考えながら一曲、二曲とライブは進んでいき、最後の曲もつつがなく演奏をすることができた。
「アンコール!アンコール!」
フードコートの一角を埋め尽くした人の歓声があちこちで聞こえてくる。
すると久慈川は少し考える仕草をして、桜木に何やら耳打ちをした。
『あのね、……』
『え……』
『適当に合わせるから!ね!』
『……台無しになっても知らないからね』
求められてるのは、君の歌なのに。桜木は少し彼女を睨み、そして鳴上の方へと歩みを進める。
「ギター、少し貸して。ドラムは適当に叩くだけでいいから」
ベースを置きながらそう言ってきて、思わず鳴上はギターを手渡しながら「何かあったんですか?」と訊いた。
「……りせが、何でもいいから歌ってほしいって。練習中断ってたの、根に持ってたみたい」
「あー…」
「ですが、いいんですか?」
そう尋ねたのは、近くでキーボードを弾いていた白鐘だ。
桜木は頷いて、少し肩を竦めた。
「スタッフさんにはもう話してあるんだって。……歌えるの、そんなにないんだけど……」
ちらりと久慈川の方を見れば、彼女は既に観客への説明をしているようだった。
口元に指を当てて、数秒。パーカーのポケットから手帳を取り出すと、口ずさみながら何かを書き込んでいく。
そして書き終わるとそのページを破り、鳴上と白鐘に手渡した。
「大まかなコードはこれ。ベースも、合わせられたら合わせて」
「はい」
「分かりました」
彼らが頷いたのを確認して、桜木はステージの前の方へ戻っていく。
そして目を閉じ、少し息を吐いた。
『……』
数音。それだけで、観客がシンと静まる。
彼は目を伏せながら、口を開き音を奏で始めた。
『……何で生きてきたんだろう、誰の為に生きてきたんだろう。
分からなくなって縋りたくて、後ろを振り返っては泣いていた』
小さくて、消えてしまいそうで、でもよく耳に馴染む声。
何回かフレーズを繰り返した後、また音は続く。
久慈川の歌うようなアップテンポではないが、バラードとも違う不思議な音。
『推奨される完璧人間、普通の人間といつも僕は
かけ離れていて、自分は駄目だなんて追い込まれて』
表情は、変わらない。
少し寂しそうな顔のまま、彼は紡ぐ。
『自分らしい自分じゃダメですか
認めてくれる人はいないんですか』
歌にドラムの軽快な音が加わって、ひたすらそれに合わせてかき鳴らした。
『.......そんなの嫌だな』
『僕は貴方と話がしたい
僕のままで話がしたい
そのため今は歯を食いしばって
必死に突き進むしかないんです』
いつの間にか、観客は手拍子をしていた。
彼はそれさえ気付かずに、真っ直ぐな言葉を響かせる。
『いつか僕を認めたい
ありのままの僕を信じたい
そのため今は好きな事を
好きと言えるようになりたいんです』
誰の本音の歌なのだろう。
誰が叫んだ歌なんだろう。
『……限りある生の真ん中で
僕は苦しいと言えるのかな』
歌い終わった後、少し息を呑む音がして、そして大きな拍手が沸き起こる。
桜木は目を瞬かせ、そして小さな声を出した。
『……ぇ』
「タイトルは!?どのカバー曲!?」
『……いや、あの……さっきなんとなく作った歌だから……タイトルとかはない、けど……』
「「『はぁ!!!??』」」
詰め寄られた桜木の回答に、観客だけでなくステージにいた全員が声を荒げる。
しかしそれを気に留めず、彼は久慈川にマイクを手渡した。
『じゃあ、一応『在り処』で。俺、別に歌手じゃないので忘れてくださいね。……はい交代、りせ』
『ちょっ……もう!今から握手会します!』
さっさとステージから姿を消した桜木に、久慈川は頬を膨らませながらも仕切り直す。
鳴上達は顔を見合わせ、苦笑し肩を竦めながらも後片付けに取り掛かった。