変わったこと、変わらないこと
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何も無い、実家を見てきた。
何も無いように思える、実家を。
クローゼットに衣服や制服が入っていて、保存食も台所にあって、本もあるけれど、だからこそ何も無い空間。
桜木ユキが桜木ユキたるものが、無い。
思い出を想起させるものも、思い入れの強そうなものも、何も。
2階は鍵がかかった部屋ばかりで、無理に入ってはいけない気がして結局リビングに戻ってきた。
ベランダに出て、夜空を見上げながら息を吐く。
向こうにいた時に行ってはいけないと強く思っていた感情が、白衣を着た人の言葉で少し落ち着いたような、そんな気がした。
「……自分の為に、進む」
絶望して、苦しんで、進む。
難しいと思った。
誰かの為の方が、楽だと思った。
「だってまだ……俺は、俺の事を知らない」
戦っていた時間の記憶しか、残っていない。
俺が居ていい証拠が、何処にもない。
「ユキ」
そう呼ばれて、顔を上げる。
「帰って、来てたの?」
「……湊……」
湊。
湊だった。
彼はぜえぜえと息を吐きながら、アイギス達に聞いてきたのか、携帯を手に俺の目の前に立っていた。
「……向こうの学校の、修学旅行で。同行したくないって言ったら、好きに見てこいって言われた」
「……そう。隣、いい?」
「うん」
俺が少し開けると、そこに湊が腰を下ろす。
そして夜空を見上げると、また口を開いた。
「アイギスが心配してた。君が怯えていたって」
「怯えてた?」
「学校の前でへたりこんでたって聞いたよ」
「……少し、混乱してて」
混乱、怯え、恐怖。どれが自分にとって正解なのかは分からないまま、俺は答える。
「最近、向こうの学校でもそうなんだ。軽い時には少し寒気を感じるだけだけど、酷いと目眩がして」
「……」
「自分がずっと通っていた筈なのに、おかしいんだよ。行きたくない、触れられたくない、そればっかり」
あれがタルタロスのままだったら、俺は躊躇い無く踏み出せるのに。
「自分がいてもいいのか、唐突に分からなくなったりもする。いつもそんな事、興味さえなかったのにね」
「そっか」
「湊がいた時、俺ってそんな感じだった?」
そう尋ねると、彼は少し困った顔をして、そして首を横に振った。
「……ううん。ユキはいつも、それを僕に言うより先に全部自分で解決してた」
「……」
「だから、少しは頼って欲しかったな。」
とおく、とおくを見て、湊は言う。
悲しそうに、悔しそうに、言う。
それを見て、もしかして自分は、彼がいたから学校へ行っていたんじゃないかとぼんやり思った。
彼が、見てくれる誰かがいたから、寒気を感じても行ったのではないか、と。
(……いや、彼がいたのは1年だけ。その理由では少し違うの、か)
「……星、綺麗だね」
「うん。……静かで、綺麗」
それからは、本当に他愛のない話をした。
湊の大学の話。課題の話。休みに見かけた猫の話。かつての仲間の今の話。色々、色々。
俺は喋って、聞いて、そして思った。
-今度は、今度湊と会う時には、
-せめて俺が俺として、ちゃんとできている時に会いたい。
-沢山、沢山、悩んでいる事はあるけれど、
-きっとそれでも、隣に立てるくらいの自分にはなれるはずだから。
寒いね、そう呟くと、もうすぐ冬だから、と返ってきて。
こんな時アイツなら、あの人ならなんて返すんだろうと、沢山沢山、考えた。
何も無いように思える、実家を。
クローゼットに衣服や制服が入っていて、保存食も台所にあって、本もあるけれど、だからこそ何も無い空間。
桜木ユキが桜木ユキたるものが、無い。
思い出を想起させるものも、思い入れの強そうなものも、何も。
2階は鍵がかかった部屋ばかりで、無理に入ってはいけない気がして結局リビングに戻ってきた。
ベランダに出て、夜空を見上げながら息を吐く。
向こうにいた時に行ってはいけないと強く思っていた感情が、白衣を着た人の言葉で少し落ち着いたような、そんな気がした。
「……自分の為に、進む」
絶望して、苦しんで、進む。
難しいと思った。
誰かの為の方が、楽だと思った。
「だってまだ……俺は、俺の事を知らない」
戦っていた時間の記憶しか、残っていない。
俺が居ていい証拠が、何処にもない。
「ユキ」
そう呼ばれて、顔を上げる。
「帰って、来てたの?」
「……湊……」
湊。
湊だった。
彼はぜえぜえと息を吐きながら、アイギス達に聞いてきたのか、携帯を手に俺の目の前に立っていた。
「……向こうの学校の、修学旅行で。同行したくないって言ったら、好きに見てこいって言われた」
「……そう。隣、いい?」
「うん」
俺が少し開けると、そこに湊が腰を下ろす。
そして夜空を見上げると、また口を開いた。
「アイギスが心配してた。君が怯えていたって」
「怯えてた?」
「学校の前でへたりこんでたって聞いたよ」
「……少し、混乱してて」
混乱、怯え、恐怖。どれが自分にとって正解なのかは分からないまま、俺は答える。
「最近、向こうの学校でもそうなんだ。軽い時には少し寒気を感じるだけだけど、酷いと目眩がして」
「……」
「自分がずっと通っていた筈なのに、おかしいんだよ。行きたくない、触れられたくない、そればっかり」
あれがタルタロスのままだったら、俺は躊躇い無く踏み出せるのに。
「自分がいてもいいのか、唐突に分からなくなったりもする。いつもそんな事、興味さえなかったのにね」
「そっか」
「湊がいた時、俺ってそんな感じだった?」
そう尋ねると、彼は少し困った顔をして、そして首を横に振った。
「……ううん。ユキはいつも、それを僕に言うより先に全部自分で解決してた」
「……」
「だから、少しは頼って欲しかったな。」
とおく、とおくを見て、湊は言う。
悲しそうに、悔しそうに、言う。
それを見て、もしかして自分は、彼がいたから学校へ行っていたんじゃないかとぼんやり思った。
彼が、見てくれる誰かがいたから、寒気を感じても行ったのではないか、と。
(……いや、彼がいたのは1年だけ。その理由では少し違うの、か)
「……星、綺麗だね」
「うん。……静かで、綺麗」
それからは、本当に他愛のない話をした。
湊の大学の話。課題の話。休みに見かけた猫の話。かつての仲間の今の話。色々、色々。
俺は喋って、聞いて、そして思った。
-今度は、今度湊と会う時には、
-せめて俺が俺として、ちゃんとできている時に会いたい。
-沢山、沢山、悩んでいる事はあるけれど、
-きっとそれでも、隣に立てるくらいの自分にはなれるはずだから。
寒いね、そう呟くと、もうすぐ冬だから、と返ってきて。
こんな時アイツなら、あの人ならなんて返すんだろうと、沢山沢山、考えた。