―正直、俺よりも彼の方が、最初に懐かれた気がする。
悠はそう思いながら、諸岡という教師の後ろについて歩いていた。
（菜々子ちゃんも、ユキさんのことお兄ちゃんって呼んでたし…俺は未だに名前呼んで貰ってないのに…）
「ここだ。さっさと入れ！」
諸岡の声に悠は頷き、都会にいた頃よりずいぶんと狭い教室に足を踏み入れる。
「不本意ながら転校生を紹介する！ただれた都会から辺鄙な地方都市に飛ばされてきた哀れなヤツ、いわば落ち武者だ！」
「誰が落ち武者だ」
思わず突っ込みを入れると、プルプルと諸岡の髪が震えた。
「…鳴上悠です。よろしく」
これ以上紹介はされないようだったので、そう挨拶する。
すると短髪の女子生徒が、「ここの席、空いてるよー」と手を挙げてくれた。
「アタシ、里中千枝ね。
　このクラスんなっちゃったのが運のツキ。
　アイツ、すぐ生徒に目つけたがるから。一年間がんばろ」
「ああ、よろしく」
席に腰掛けながら挨拶すると、ブツッと放送が入る。
『全職員・生徒にお知らせします。学区内で事件が発生しました。通学路に警察官が動員されています。
　それに伴い緊急会議を行いますので至急職員室までお戻りください。
　また、全校生徒は各自教室で待機。指示があるまで下校しないでください』
「…というわけだ。いいか？指示があるまで教室を出るなよ」
諸岡が教室を出て行くと、ガヤガヤと賑やかになる。
里中は自身の友人である天城雪子を紹介してきて、そして貸したＤＶＤにひびを入れてしまった花村陽介に綺麗な蹴り上げを食らわせていた。
「賑やかな友達だね」
俺はそう言って、ふと曇り空を見上げる。
（…あの人はもう、家に戻っているだろうか）