修学旅行
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11月19日。夜。
「おーい、生きてるかあ?」
「あー……ダメだこりゃ、のぼせてやがる。」
友近と宮本がそう言いながら、部屋に担ぎ込まれた伊織、望月、有里を見る。
彼等は旅館の浴衣を着た状態で横たわっており、桜木がフロントから借りたタオルを濡らして彼等の額にのせてはため息をついた。
「……アンタ等、阿呆だろ」
望月達はどうやら交替の時間ギリギリに露天に行っていたようで、桐条達に遭遇しひどい目にあったらしい。
桜木が小さな扇子で仰いでやれば、伊織が「いやあ、でもあれは、いいもんだった……」と口を開く。
「命賭けてまで見るものか?……っておい、望月君は何処触ってんだよ」
「えー、ダメ?」
少しだけ復活したのか、望月はいつの間にか桜木の後ろを取っており、うなじを指先でつつとなぞっていた。それに彼がジトリと睨むと、反省の欠片もない顔で首を傾げる。
「別に気にしないけど、ちゃんと言ってから触ってくれ」
「え、そういう問題?」
「じゃあ、触るねー」
望月が口元に弧を描いて、うなじから背中へと指を下ろす。
「……ぁ、」
ビクリ。桜木の肩が大げさなくらい震え、口からは熱い吐息が漏れた。
「…ン、ふぁ、……はッ…くすぐった、…ぁんっ」
「あれ、もしかしてココ弱い?」
「っていうか…、人に触られたこと…ンぁ、ないし…、わかんな…ひぅっ」
普段から想像できない高く甘い声が出て、桜木はやや上気した頬ごと手の甲で隠すように口を押さえる。
本人からすればただくすぐったさに反応しているだけなのだが、それでもその姿は何故か官能的で、他の男子達の心を揺さぶった。
「わーすべすべ、女子に嫉妬されそー」
「ッ……ふ、ぅあ、んン、ん、ぁ、」
「じゃあこことか、弱いんじゃない?」
「ンぁッ……」
「…綾時、今すぐ桜木から離れたほうがいいぜ?」
「え?なんでー?」
「湊がすっげー怖い顔してる」
「……」
「ゴメンナサイ!!!許して!!!」
全身から黒いオーラを漂わせた有里に、望月は慌てて桜木から手を離し両手を合わせて謝る。
桜木はふうと息を吐いてから、やや乱れてしまった浴衣を整え始めた。
「桜木って、くすぐったいの弱い系?」
「ああ。人に触られることが少ないからな」
それより、早く寝ろ。
彼が目でそう告げると、時計は丁度就寝時間を指していて全員が布団に潜り込む。
「じゃあ、おやすみー」
「おやすみ」
桜木はカチリと照明を落とし、全員がすぐに寝たのを確認すると、布団に戻るでもなく部屋の窓に面している椅子とテーブルのみのスペースに移動し腰を下ろした。
外からは綺麗な月が見え、ふうと息を吐く。
(……バイト、本当に休んじゃったけど、大丈夫かな……)
医者からも了承が出たことを報告した時の、いつも世話になっている男を思い出す。
彼はひどく嬉しそうな顔をして、桜木の頭をくしゃりと撫でた。
『そうか。バイトはどうにかしてやるから、楽しんでこいよ』
(……楽しめているか、分からないけど)
はしゃぐ綾時達を見て、湊を見て、彼等と一緒に、景色を見て。
胸の少し下に、なんだか温かいものが溜まった気がする。
(……約束の日まで、あと三ヶ月は切った)
そう考えながら、彼は自分の手首に付けたシンプルな腕輪と、親指で輝く指輪を見てため息をつく。
「……ごめんね、湊」
彼に聞こえはしないだろう、小さな声。
この銀色の輝きに託された想いに、桜木は少しだけ気づいていた。
それは、有里なりの優しさであり、願いであることも。
―それが友情以上のものである事には、気づいていないのだけれど。
「……俺は、君と共にいることは出来ない」
そう呟いては、指輪に唇を当てて目を閉じる。
「俺はもう、約束の為にしか生きられないから。
……今まで、ずっと、その為に生きてきたから」
―それを果たせば、例え万が一生きていたとしても、自分は彼等の前から姿を消すだろう。
それは確信に近いものだった。
心の何処かが黒ずんで、どんどん侵蝕されているように。
(……俺は結局、誰のことも言えたものじゃないな)
外を見て自嘲するように口角を上げれば、窓に歪な笑みを浮かべたもう一人の自分が反射して映った。
「おーい、生きてるかあ?」
「あー……ダメだこりゃ、のぼせてやがる。」
友近と宮本がそう言いながら、部屋に担ぎ込まれた伊織、望月、有里を見る。
彼等は旅館の浴衣を着た状態で横たわっており、桜木がフロントから借りたタオルを濡らして彼等の額にのせてはため息をついた。
「……アンタ等、阿呆だろ」
望月達はどうやら交替の時間ギリギリに露天に行っていたようで、桐条達に遭遇しひどい目にあったらしい。
桜木が小さな扇子で仰いでやれば、伊織が「いやあ、でもあれは、いいもんだった……」と口を開く。
「命賭けてまで見るものか?……っておい、望月君は何処触ってんだよ」
「えー、ダメ?」
少しだけ復活したのか、望月はいつの間にか桜木の後ろを取っており、うなじを指先でつつとなぞっていた。それに彼がジトリと睨むと、反省の欠片もない顔で首を傾げる。
「別に気にしないけど、ちゃんと言ってから触ってくれ」
「え、そういう問題?」
「じゃあ、触るねー」
望月が口元に弧を描いて、うなじから背中へと指を下ろす。
「……ぁ、」
ビクリ。桜木の肩が大げさなくらい震え、口からは熱い吐息が漏れた。
「…ン、ふぁ、……はッ…くすぐった、…ぁんっ」
「あれ、もしかしてココ弱い?」
「っていうか…、人に触られたこと…ンぁ、ないし…、わかんな…ひぅっ」
普段から想像できない高く甘い声が出て、桜木はやや上気した頬ごと手の甲で隠すように口を押さえる。
本人からすればただくすぐったさに反応しているだけなのだが、それでもその姿は何故か官能的で、他の男子達の心を揺さぶった。
「わーすべすべ、女子に嫉妬されそー」
「ッ……ふ、ぅあ、んン、ん、ぁ、」
「じゃあこことか、弱いんじゃない?」
「ンぁッ……」
「…綾時、今すぐ桜木から離れたほうがいいぜ?」
「え?なんでー?」
「湊がすっげー怖い顔してる」
「……」
「ゴメンナサイ!!!許して!!!」
全身から黒いオーラを漂わせた有里に、望月は慌てて桜木から手を離し両手を合わせて謝る。
桜木はふうと息を吐いてから、やや乱れてしまった浴衣を整え始めた。
「桜木って、くすぐったいの弱い系?」
「ああ。人に触られることが少ないからな」
それより、早く寝ろ。
彼が目でそう告げると、時計は丁度就寝時間を指していて全員が布団に潜り込む。
「じゃあ、おやすみー」
「おやすみ」
桜木はカチリと照明を落とし、全員がすぐに寝たのを確認すると、布団に戻るでもなく部屋の窓に面している椅子とテーブルのみのスペースに移動し腰を下ろした。
外からは綺麗な月が見え、ふうと息を吐く。
(……バイト、本当に休んじゃったけど、大丈夫かな……)
医者からも了承が出たことを報告した時の、いつも世話になっている男を思い出す。
彼はひどく嬉しそうな顔をして、桜木の頭をくしゃりと撫でた。
『そうか。バイトはどうにかしてやるから、楽しんでこいよ』
(……楽しめているか、分からないけど)
はしゃぐ綾時達を見て、湊を見て、彼等と一緒に、景色を見て。
胸の少し下に、なんだか温かいものが溜まった気がする。
(……約束の日まで、あと三ヶ月は切った)
そう考えながら、彼は自分の手首に付けたシンプルな腕輪と、親指で輝く指輪を見てため息をつく。
「……ごめんね、湊」
彼に聞こえはしないだろう、小さな声。
この銀色の輝きに託された想いに、桜木は少しだけ気づいていた。
それは、有里なりの優しさであり、願いであることも。
―それが友情以上のものである事には、気づいていないのだけれど。
「……俺は、君と共にいることは出来ない」
そう呟いては、指輪に唇を当てて目を閉じる。
「俺はもう、約束の為にしか生きられないから。
……今まで、ずっと、その為に生きてきたから」
―それを果たせば、例え万が一生きていたとしても、自分は彼等の前から姿を消すだろう。
それは確信に近いものだった。
心の何処かが黒ずんで、どんどん侵蝕されているように。
(……俺は結局、誰のことも言えたものじゃないな)
外を見て自嘲するように口角を上げれば、窓に歪な笑みを浮かべたもう一人の自分が反射して映った。