12番目のシャドウ
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翌日、昼。
「なんで俺たちを庇った!」
辰巳病院の一人用の病室で、ベッドから体を起こしていたユキは胸ぐらを掴まれ小さく息を吐く。
掴んでる張本人―荒垣は珍しく息を荒くしていて、「お前、死ぬところだったんだぞ!」と彼を怒鳴った。
「知ってるよ。というか、そのセリフはアンタにそのまま返したいね」
「うっせえ!てめえとは訳が違うだろ!第一てめえはアイツらの仲間だった筈だ!」
「俺は仲間じゃなくて助っ人。アンタが湊達の仲間。そこ、勘違いしないでよ」
付け足された言葉に、荒垣は一度胸ぐらを掴んでいた手を離し、グッとユキの左胸を押す。
心臓より、少し下。幸い心臓から逸れていたため、九死に一生を得たのだ。
其処には何重にも包帯が巻かれていて、「痛いだろ」という声に小さく首を振る。
「……慣れてるから痛くはない。けど、血は出るから離して。俺輸血は好きじゃない」
「……可愛げのねえガキだな」
「自覚はしてるよ」
ユキは肩を竦めて、窓の外を見た。
外は綺麗に晴れていて、昨日起こった出来事が全て嘘のように思える。
「血、だいぶ抜けてたみたい。先生に、『あの時呼吸がある時点で奇跡だった』って言われた」
「そりゃあな……つーか、本当に幽霊とかじゃねえんだよな?」
「……真次郎さんは、幽霊がこうやって病室で点滴受けながら話をすると思うの?」
それはそれで怖いねと、彼の紅い眼が細められた。冗談を言っているような声ではないが、彼は普段声色がさほど変わらないためこれも冗談の一つなのだろうと推測する。
「それで、用事は?」
「……俺は、今後一切戦闘に参加しない」
「そう。……まあ、想像はついていたけど。
……戦闘には、ってことは、他の事には参加するの?」
「ああ。まあ、リハビリやりながらぼちぼち、だがな。
外の情報集めとか、其処ら辺中心だ。……もうストレガの連中にも、理事長にも、関わらねえ」
理事長。その言葉に、彼はピクリと僅かに肩を揺らす。
そしてゆっくり荒垣を見上げると、「知りたいんだ、俺の事?」と首を傾げた。
「……お前がなんで、そんなに自分を蔑ろにすんのかは知らねえ。
でもよ、……ちったあ周り考えろ。リーダーなんて、今にも死にそうな顔してたぜ?」
「ふうん……ま、別に隠してどうこうなる話でもないし、いいんだけどね。」
荒垣の言葉を探るような声にユキはそう言って、ポツリポツリと話しだした。
彼が朧げに記憶している、事故前の家族。
10年前起こった事故と、結ばれた”約束”。
その後どうやって過ごしていたか、どうやって、戦っていたか。
中学の頃起こった事件、先生の拒絶。
全てを淡々と、まるで、もう終わってしまった誰かの物語のように語った。
表情が曇ることも一切なく、訥訥と語られるその話に、荒垣は驚愕し、そして顔を歪める。
語り終え彼が口を閉じると同時に、コンコンとドアが叩かれた。
「ユキ君、診察の時間なんだけど……いいかな?」
「はい、どうぞ」
返事すると、カラカラとスライドドアが開き、昨晩彼を治療した医者が入ってくる。
「調子はどうかな?痛いところとか、ない?」
「特にないです」
「そっか。……はい、これで熱計ってもらえる?」
「はい」
体温計を渡されて、彼はそれを受け取り脇に挟んだ。
そして話すこともなくなったのか、荒垣をチラリと見たあと本を手にとって読み始める。
「えっと……ユキ君のご友人、でよろしいですか?」
30半ばのようなどこか若々しい雰囲気。
医者が少し微笑んでそう聞くと、荒垣は「……先輩、です」と答えた。
「そうでしたか。それは失礼しました。
俺は彼の主治医です。普段は外科にいるんですけど、彼のこともあって精神科にもよく顔を出してるんですよ」
「……はあ」
曖昧な返事を返し、それでと話を促す。
すると医者は真剣な顔つきで、「ちょっと、彼の病状について説明しておきたくて。……外、出てもいいでしょうか?」と訊ねてきた。
荒垣は頷いて、ポンとユキの頭を叩いて病室から出て行った。
「……また来る」
「ん。別にいいけど、無理して来るようなものでもないからね」
字を追いながらそう言った彼の声は、やっぱり変わらず淡々とした声だった。
「なんで俺たちを庇った!」
辰巳病院の一人用の病室で、ベッドから体を起こしていたユキは胸ぐらを掴まれ小さく息を吐く。
掴んでる張本人―荒垣は珍しく息を荒くしていて、「お前、死ぬところだったんだぞ!」と彼を怒鳴った。
「知ってるよ。というか、そのセリフはアンタにそのまま返したいね」
「うっせえ!てめえとは訳が違うだろ!第一てめえはアイツらの仲間だった筈だ!」
「俺は仲間じゃなくて助っ人。アンタが湊達の仲間。そこ、勘違いしないでよ」
付け足された言葉に、荒垣は一度胸ぐらを掴んでいた手を離し、グッとユキの左胸を押す。
心臓より、少し下。幸い心臓から逸れていたため、九死に一生を得たのだ。
其処には何重にも包帯が巻かれていて、「痛いだろ」という声に小さく首を振る。
「……慣れてるから痛くはない。けど、血は出るから離して。俺輸血は好きじゃない」
「……可愛げのねえガキだな」
「自覚はしてるよ」
ユキは肩を竦めて、窓の外を見た。
外は綺麗に晴れていて、昨日起こった出来事が全て嘘のように思える。
「血、だいぶ抜けてたみたい。先生に、『あの時呼吸がある時点で奇跡だった』って言われた」
「そりゃあな……つーか、本当に幽霊とかじゃねえんだよな?」
「……真次郎さんは、幽霊がこうやって病室で点滴受けながら話をすると思うの?」
それはそれで怖いねと、彼の紅い眼が細められた。冗談を言っているような声ではないが、彼は普段声色がさほど変わらないためこれも冗談の一つなのだろうと推測する。
「それで、用事は?」
「……俺は、今後一切戦闘に参加しない」
「そう。……まあ、想像はついていたけど。
……戦闘には、ってことは、他の事には参加するの?」
「ああ。まあ、リハビリやりながらぼちぼち、だがな。
外の情報集めとか、其処ら辺中心だ。……もうストレガの連中にも、理事長にも、関わらねえ」
理事長。その言葉に、彼はピクリと僅かに肩を揺らす。
そしてゆっくり荒垣を見上げると、「知りたいんだ、俺の事?」と首を傾げた。
「……お前がなんで、そんなに自分を蔑ろにすんのかは知らねえ。
でもよ、……ちったあ周り考えろ。リーダーなんて、今にも死にそうな顔してたぜ?」
「ふうん……ま、別に隠してどうこうなる話でもないし、いいんだけどね。」
荒垣の言葉を探るような声にユキはそう言って、ポツリポツリと話しだした。
彼が朧げに記憶している、事故前の家族。
10年前起こった事故と、結ばれた”約束”。
その後どうやって過ごしていたか、どうやって、戦っていたか。
中学の頃起こった事件、先生の拒絶。
全てを淡々と、まるで、もう終わってしまった誰かの物語のように語った。
表情が曇ることも一切なく、訥訥と語られるその話に、荒垣は驚愕し、そして顔を歪める。
語り終え彼が口を閉じると同時に、コンコンとドアが叩かれた。
「ユキ君、診察の時間なんだけど……いいかな?」
「はい、どうぞ」
返事すると、カラカラとスライドドアが開き、昨晩彼を治療した医者が入ってくる。
「調子はどうかな?痛いところとか、ない?」
「特にないです」
「そっか。……はい、これで熱計ってもらえる?」
「はい」
体温計を渡されて、彼はそれを受け取り脇に挟んだ。
そして話すこともなくなったのか、荒垣をチラリと見たあと本を手にとって読み始める。
「えっと……ユキ君のご友人、でよろしいですか?」
30半ばのようなどこか若々しい雰囲気。
医者が少し微笑んでそう聞くと、荒垣は「……先輩、です」と答えた。
「そうでしたか。それは失礼しました。
俺は彼の主治医です。普段は外科にいるんですけど、彼のこともあって精神科にもよく顔を出してるんですよ」
「……はあ」
曖昧な返事を返し、それでと話を促す。
すると医者は真剣な顔つきで、「ちょっと、彼の病状について説明しておきたくて。……外、出てもいいでしょうか?」と訊ねてきた。
荒垣は頷いて、ポンとユキの頭を叩いて病室から出て行った。
「……また来る」
「ん。別にいいけど、無理して来るようなものでもないからね」
字を追いながらそう言った彼の声は、やっぱり変わらず淡々とした声だった。