復讐の代償
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「……約束通り来てくれましたね。」
街路地裏。
天田はそう言って、ゆっくりと近づいてきた青年を睨む。
「作戦を放ってまで来てるわけだからわかってるんだよね…荒垣さん」
長いロングコートに身を包んだ荒垣は、無言で天田を見た。
「……10月4日。今日が何の日だかわかりますか?
あの日……二年前の今日この場所で、僕の母さんは死んだんだ。
僕は見てた……母さんは、殺されたんだ……お前が殺したんだ!」
荒垣の目がピクリと反応する。しかし彼は無言で、ただ話を聞いていた。
「……いいことなんてひとつもなかった。生きてくなんてつらいだけだった……
死んじゃおうって思った時もあるけど……このまま母さんに会うなんてできない……だから決めたんだ」
お前を見つけるまで生きようって!!」
天田の叫び声が、壁に響き渡る。
「あの日のことなんて思い出したくもなかった!だから今日が満月だってわかったときお前を呼ぼうって決めたんだ。
……今日は母さんがついている。
自分のしたことを思い出させてやる!」
「僕がお前を殺してやる!」
(……心配しなくても、一晩たりとも忘れたことなんてなかったさ)
荒垣は彼に槍を向けられながら、心の中でそう答えていた。
二年前。荒垣がペルソナ能力に目覚めしばらくが過ぎていたあの日。
何事も慣れてきた頃が一番危ない。
街に出たシャドウの反応を突き止め討ちに行った時に、ある民家からシャドウの反応がでた。
荒垣達はそこへ向かい、衝撃的な光景を目の当たりにしたのだ。
『ペルソナ不適応者』
―飼い慣らせないペルソナは、自らの首を絞める。
シャドウはその民家の母親から生まれたものだった。
動揺し平静さを失った俺のペルソナは暴走、民家を巻き込みつつもシャドウを消し、同時に巻き込み母親の命も奪うことになった。そして、まだ幼い子供だけが残された。
(おまえ……母さんに殺されてたかもしれないんだぜ?)
そうなったらおまえの母さんはどうなっただろう。
荒垣は何処か達観したように考える。
(俺を殺してお前の母さんはどう思うかね……)
―まあ、それもいいだろう。
思うとおりにさせるのも、悪くないかもしれない。
(それに……)
フッと笑い、荒垣は天田をゆっくりと見据えた。
「……わかった。やれよ」
「俺のやったことだ、報いは受けるさ。」
そう言った荒垣に、天田は目を丸くする。
「お前の言ったとおりだ。俺は忘れたかった。
仲間と離れたのもビビって薬で力を抑えたのも要はそのためさ。
けど……無駄だった」
荒垣はぐるりと辺りを身回し、自嘲気味に笑った。
「体が忘れねえんだ。気がつけばここへ来ちまう。
あの頃とは見る影もねえし、見たくもねえ場所なのにな……」
「……いいのかよ、少しは抵抗しろよ……
お前はそれでいいのかよ!」
焦りを含んだ、天田の声。
しかし荒垣は穏やかな声で、呼びかけるように言う。
「ひとつだけ忠告しておくぜ。
こんな俺の命でも、奪えばおまえは俺と同じ重みを背負うことになる。
……そいつだけは覚悟してくれ。
今は憎しみしかなくても、いつか必ず背負っちまう」
「っ……」
『殺したいっていう気持ちは、いつだって自分を置いていく。…その代わり、殺した事だけはずっと忘れられない。糸のように首に絡みついて、これでもかと縛りつけて……動けなくなるんだ』
『罪悪感。奪われた憎しみ。何も手元に残らない虚無。それに俺が耐えられたんだったら、今ここに俺はいないんだろうな』
いつか聞いた、ウサギの言葉。
彼は自分の手で、シャドウとはいえ両親を殺したと言っていた。
(……糸のように首に絡みついて、縛りつけて……)
もしかして。
信じたくはないけど、もしかして、
(荒垣さんも、今、同じ感じなのかな……)
「僕、は……でも、僕は……っ!」
構えていた槍がぶれる。
一気にモヤモヤが晴れようとしていて、それを必死に押しとどめようと首を振った。
「そんな重みなど、背負う必要はないのでしょう?
少年……あなたの行いは”復讐”なのですから」
「!?」
冷たく、寒気のする声。二人がそれに振り返ると、そこにはタカヤが笑いながら立っていた。
「殺されたのだから殺してもいいはず……それは至って単純で、純粋な行動だ」
「テメエは……!」
荒垣がタカヤを睨む。しかし彼は臆することなく、ただ肩を竦めた。
「仲間が一人欠けてしまってね。先回りがしづらくなりました」
チドリの事だ、と天田は理解し、タカヤの次に発する言葉を待つ。
「思わぬところに遭遇ですよ。しかし、恐れる必要はありません。
これは通過点に過ぎない!あなた方は救われるのです。」
(救、われる?それ、どういう……)
「どのみちあなたは死ぬ運命……その”復讐”がなされなくともね。
ペルソナの制御に薬を使いだして随分と経つはずです。
あなたはもう、長くない。自分の体のことだから、わかっているとは思いますが」
「……!」
タカヤの言葉に、荒垣が目を見開いた。
一方天田は、驚きを表情に顕にする。
「もしかしたら、こうなることを自ら望んだりしてたのでしょうか」
「どういうことだよ。勝手に……死んじゃうっていうのか?僕が何もしなくても……」
天田の声に、荒垣は俯く。
すると彼は更に険しい表情になり、荒垣に対して叫んだ。
「そんなのアリかよ!それなら僕は、今まで何を……なんのために……」
「死が何によってもたらされるかなどどうでもいいことでしょう
それに少年……君からは彼とは別の意味で生きている気がしない」
タカヤは薄い笑顔のままそう言うと、「……彼を殺したあとで、自分も死ぬ気だったのでしょう?」と哂った。
「タイミングが少し前後するだけです。どのみち二人共死んでいるようなもの……
楽にしてあげましょう。これは”救い”です」
チャキリ。彼は荒垣の左脚に銃口を向け、躊躇いなく放つ。
「……ぐっ」
「どうしました?あなたらしくもない……
それとも、そこまで体が弱っていたりするんでしょうか」
クククと笑い、タカヤは踞った荒垣に対し「一つ訊いてもいいですか?」と尋ねた。
「あなたたちの中にチドリと似た”情報の使い手”がいるはずです。
あなた方の情報が早くてね、シャドウを守ることができないのですよ。
まあ…答えなくても構いませんが」
「待って!」
荒垣とタカヤの間に、天田が割って入る。
「それは僕だ!それが出来るから……だから僕は子供でも戦いに加えてもらったんだ!」
「……お前、何を……!」
「真意の程はわかりませんが……素晴らしい覚悟だ!」
タカヤは一瞬呆けたもののすぐに笑みを深め、荒垣から天田に銃口を向け直した。
天田は俯いて、ボソボソと呟くように言う。
「……僕の復讐はもう終わったんだ。
ここにいる理由も、これ以上戦う意味も……僕も、」
もう、必要ないんだ。
「君はもう充分に生きたというわけですね。いいでしょう。
君を先にします。楽におなりなさい……」
パァンッ……
街路地裏。
天田はそう言って、ゆっくりと近づいてきた青年を睨む。
「作戦を放ってまで来てるわけだからわかってるんだよね…荒垣さん」
長いロングコートに身を包んだ荒垣は、無言で天田を見た。
「……10月4日。今日が何の日だかわかりますか?
あの日……二年前の今日この場所で、僕の母さんは死んだんだ。
僕は見てた……母さんは、殺されたんだ……お前が殺したんだ!」
荒垣の目がピクリと反応する。しかし彼は無言で、ただ話を聞いていた。
「……いいことなんてひとつもなかった。生きてくなんてつらいだけだった……
死んじゃおうって思った時もあるけど……このまま母さんに会うなんてできない……だから決めたんだ」
お前を見つけるまで生きようって!!」
天田の叫び声が、壁に響き渡る。
「あの日のことなんて思い出したくもなかった!だから今日が満月だってわかったときお前を呼ぼうって決めたんだ。
……今日は母さんがついている。
自分のしたことを思い出させてやる!」
「僕がお前を殺してやる!」
(……心配しなくても、一晩たりとも忘れたことなんてなかったさ)
荒垣は彼に槍を向けられながら、心の中でそう答えていた。
二年前。荒垣がペルソナ能力に目覚めしばらくが過ぎていたあの日。
何事も慣れてきた頃が一番危ない。
街に出たシャドウの反応を突き止め討ちに行った時に、ある民家からシャドウの反応がでた。
荒垣達はそこへ向かい、衝撃的な光景を目の当たりにしたのだ。
『ペルソナ不適応者』
―飼い慣らせないペルソナは、自らの首を絞める。
シャドウはその民家の母親から生まれたものだった。
動揺し平静さを失った俺のペルソナは暴走、民家を巻き込みつつもシャドウを消し、同時に巻き込み母親の命も奪うことになった。そして、まだ幼い子供だけが残された。
(おまえ……母さんに殺されてたかもしれないんだぜ?)
そうなったらおまえの母さんはどうなっただろう。
荒垣は何処か達観したように考える。
(俺を殺してお前の母さんはどう思うかね……)
―まあ、それもいいだろう。
思うとおりにさせるのも、悪くないかもしれない。
(それに……)
フッと笑い、荒垣は天田をゆっくりと見据えた。
「……わかった。やれよ」
「俺のやったことだ、報いは受けるさ。」
そう言った荒垣に、天田は目を丸くする。
「お前の言ったとおりだ。俺は忘れたかった。
仲間と離れたのもビビって薬で力を抑えたのも要はそのためさ。
けど……無駄だった」
荒垣はぐるりと辺りを身回し、自嘲気味に笑った。
「体が忘れねえんだ。気がつけばここへ来ちまう。
あの頃とは見る影もねえし、見たくもねえ場所なのにな……」
「……いいのかよ、少しは抵抗しろよ……
お前はそれでいいのかよ!」
焦りを含んだ、天田の声。
しかし荒垣は穏やかな声で、呼びかけるように言う。
「ひとつだけ忠告しておくぜ。
こんな俺の命でも、奪えばおまえは俺と同じ重みを背負うことになる。
……そいつだけは覚悟してくれ。
今は憎しみしかなくても、いつか必ず背負っちまう」
「っ……」
『殺したいっていう気持ちは、いつだって自分を置いていく。…その代わり、殺した事だけはずっと忘れられない。糸のように首に絡みついて、これでもかと縛りつけて……動けなくなるんだ』
『罪悪感。奪われた憎しみ。何も手元に残らない虚無。それに俺が耐えられたんだったら、今ここに俺はいないんだろうな』
いつか聞いた、ウサギの言葉。
彼は自分の手で、シャドウとはいえ両親を殺したと言っていた。
(……糸のように首に絡みついて、縛りつけて……)
もしかして。
信じたくはないけど、もしかして、
(荒垣さんも、今、同じ感じなのかな……)
「僕、は……でも、僕は……っ!」
構えていた槍がぶれる。
一気にモヤモヤが晴れようとしていて、それを必死に押しとどめようと首を振った。
「そんな重みなど、背負う必要はないのでしょう?
少年……あなたの行いは”復讐”なのですから」
「!?」
冷たく、寒気のする声。二人がそれに振り返ると、そこにはタカヤが笑いながら立っていた。
「殺されたのだから殺してもいいはず……それは至って単純で、純粋な行動だ」
「テメエは……!」
荒垣がタカヤを睨む。しかし彼は臆することなく、ただ肩を竦めた。
「仲間が一人欠けてしまってね。先回りがしづらくなりました」
チドリの事だ、と天田は理解し、タカヤの次に発する言葉を待つ。
「思わぬところに遭遇ですよ。しかし、恐れる必要はありません。
これは通過点に過ぎない!あなた方は救われるのです。」
(救、われる?それ、どういう……)
「どのみちあなたは死ぬ運命……その”復讐”がなされなくともね。
ペルソナの制御に薬を使いだして随分と経つはずです。
あなたはもう、長くない。自分の体のことだから、わかっているとは思いますが」
「……!」
タカヤの言葉に、荒垣が目を見開いた。
一方天田は、驚きを表情に顕にする。
「もしかしたら、こうなることを自ら望んだりしてたのでしょうか」
「どういうことだよ。勝手に……死んじゃうっていうのか?僕が何もしなくても……」
天田の声に、荒垣は俯く。
すると彼は更に険しい表情になり、荒垣に対して叫んだ。
「そんなのアリかよ!それなら僕は、今まで何を……なんのために……」
「死が何によってもたらされるかなどどうでもいいことでしょう
それに少年……君からは彼とは別の意味で生きている気がしない」
タカヤは薄い笑顔のままそう言うと、「……彼を殺したあとで、自分も死ぬ気だったのでしょう?」と哂った。
「タイミングが少し前後するだけです。どのみち二人共死んでいるようなもの……
楽にしてあげましょう。これは”救い”です」
チャキリ。彼は荒垣の左脚に銃口を向け、躊躇いなく放つ。
「……ぐっ」
「どうしました?あなたらしくもない……
それとも、そこまで体が弱っていたりするんでしょうか」
クククと笑い、タカヤは踞った荒垣に対し「一つ訊いてもいいですか?」と尋ねた。
「あなたたちの中にチドリと似た”情報の使い手”がいるはずです。
あなた方の情報が早くてね、シャドウを守ることができないのですよ。
まあ…答えなくても構いませんが」
「待って!」
荒垣とタカヤの間に、天田が割って入る。
「それは僕だ!それが出来るから……だから僕は子供でも戦いに加えてもらったんだ!」
「……お前、何を……!」
「真意の程はわかりませんが……素晴らしい覚悟だ!」
タカヤは一瞬呆けたもののすぐに笑みを深め、荒垣から天田に銃口を向け直した。
天田は俯いて、ボソボソと呟くように言う。
「……僕の復讐はもう終わったんだ。
ここにいる理由も、これ以上戦う意味も……僕も、」
もう、必要ないんだ。
「君はもう充分に生きたというわけですね。いいでしょう。
君を先にします。楽におなりなさい……」
パァンッ……