復讐の代償
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ウサギさんの様子がおかしい。
僕はそう思いながら、異常なほど真っ暗なタルタロスの中をリーダーに続いて歩いていた。
ウサギさんはこの階層についてから何かにひどく怯えているようで、今もギュウとリーダーの手を掴んでいる。
「……っ……湊、其処にいるか?」
彼にしては珍しい、震えたような声。
リーダーが「いるよ、ちゃんと」と返すと、ウサギさんは大きく深呼吸をしてまた歩き出す。
「……大丈夫ですか?」
「……大丈夫では、ないな……何かに食べられそうで、震えが……」
(……『食べられそう』?)
彼の呟きに首を傾げていると、真田先輩やコロ丸も同じ疑問を持ったようで、揃って顔を見合わせていた。
「今までもこういった階層はあったはずだが……?」
「……それでも、月の光はあったからな」
ウサギさんが掠れた声でそう返すと、『グオァァ!』とシャドウが飛び出して来た。
僕たちが戦闘体勢に入る前に、彼が「ひ、ぁ」と僅かに後ずさり、カードを形成する。
それは今までと違う、扉の前にドクロが描かれたカードで、『THE DEATH』と表記されていた。
(『死神』……!?)
「っ……イーター!!!!『地獄の叫び』!!!!」
ウサギさんはそう叫び、カードをナイフで『裂く』。
するとそこから現れたのはいつもの白ウサギではなく、目が赤く鋭い鎌を持って笑う、黒ウサギだった。
―メキョメキョ、ゴキャゴキャ。
『ウ、グォ、がァ……』
「お、かあ、さ……おとう、さ……?」
違う。
違う。
異形の、”シャドウ”となってしまった両親に、少年は目を見開いてガクガクと身体を震わせた。
お母さんやお父さんはもっと暖かくて、こんな、こんな形してな、
「……っいやあああああああああああああああああああ!!」
頭を抑えて叫ぶ。
途端、今までいた時計兎のペルソナが真っ黒に染まって、にたあと笑った。
『我は汝、汝は我……我は汝の心の”絶望”より出てし者……『イーター』なり……』
「……ぜ、つぼう?」
少年はイーターを見つめ、茫然とした声で尋ねる。
すると黒ウサギは頷いて、そしてまた笑った。
『汝、我の名を呼び叫べ。我、それに応えよう』
ピクリ。少年の肩が震え、ガチガチ鳴っている口を開く。
「……『イーター』」
―『殺して』。
ウギャアアアアアアアアアア……
おぞましい咆哮をあげた黒ウサギは、目の前のシャドウを次々と口の中に放り込んでいく。
明らかに草食動物ではないその狂気的な行動に、僕らは目を見開き呆然と見ていた。
「う……そだろ……ペルソナが、シャドウを食ってる……!?」
真田先輩の呟きは、ウサギさんには届かない。
「ぅぐ、ぁ、ぎぃ……っ」
彼は必死に頭を抑えて、その声は苦しみに耐えているようだった。
「っ皆!あのペルソナから離れろ!食われるぞ!」
リーダーのその声にハッとなって、僕らは後方に避難する。
やがて全てのシャドウを食べ終わった黒ウサギはキョロキョロと見回しては姿を消し、ウサギさんはリーダーの方へフラリと倒れこんだ。
リーダーはガシッと彼の肩を掴み、驚いたような声をあげる。
「ウサギ!」
「……あ、湊。……げほっ……悪い、変なところ見せたな」
彼は咳き込みながら、ポケットから白い錠剤を取り出してガリッと噛み砕く。
落ち着いたのか立ち上がると、僕たちに向けても「すまない」と頭を下げた。
「……あのペルソナは、何だ?」
桐条先輩がそう言うと、ウサギさんは顔を上げて答える。
「俺の精神が不安定になった時に、たまに出てくる。名前は”イーター”」
「シャドウと食っていたが……?」
「名の通り、捕食を好むからな。俺はシャドウを食べる所しか見たことがないが、性質的にペルソナだって食うことはできるだろう」
「っ危険きわまりないじゃないか!」
真田先輩が叫ぶ。すると彼は、「そうだな」と肯定した。
「だから精神安定剤を飲んでいるし、この10年間制御できるよう何回か使っている。
少し前から薬の投与を減らされていたのが今回祟ったんだろうな。
……この症状が嫌なら、すぐにでも幾月さんに差し出せばいいさ」
ウサギさんがそう言うと、先輩達は顔を見合わせ、戸惑ったような顔になった。
そんな中、コロ丸がウサギさんに「ワフッ!」と飛びついて、その頬をべロリと舐める。
「んっ……何、コロ丸?」
「ワンワン、ワフ!」
「……悪いが、俺はアイギスじゃないから、何を言ってるか分からないぞ?」
「クゥーン……」
「……暗闇、怖いんだっけ」
今まで考え込むように黙っていたリーダーが口を開く。するとウサギさんは、コロ丸を抱えて頷いた。
「ああ。ずっと前からな。でも、薬さえ飲んでいれば症状は薄い。今のような事態になったのも久しぶりだ」
「その症状ってどんなものだった?」
「あんまり覚えてないが……医者曰く、パニック状態になるらしい。暴れたり泣き叫んだり……最初の頃はまともに制御出来なかったから、病院で入院してた時なんかは拘束具で縛ってもらってたな」
「そう……」
平然と語る彼を見て、僕はギュッと槍を握り締めた。
僕だけじゃない。リーダーも、先輩達も、コロ丸も、皆険しい顔になっている。
(……恐怖症、なんてレベルじゃない)
最早、トラウマじゃないか。
(強くなるには、そこまで我慢しなくちゃダメなのかな……)
そう考えて俯いてると、ポンと頭を誰かに触れられた。
見ると、ウサギさんがゴーグル越しにジッとこちらを見つめている。
「気にするな」
「……へ?」
「俺が異常なだけで、他の奴はもっと別の方法で強くなっている。お前も、きっとすぐ強くなれる」
涼やかな、よく通る声。
そう言ってはすぐ離れていき、リーダーに続いて階段を登っていった。
「……はは、自分で異常って、言っちゃいますかね、普通」
僕は苦笑して、その後を追う。
その声に追いつけるように、少しだけ早足で。
僕はそう思いながら、異常なほど真っ暗なタルタロスの中をリーダーに続いて歩いていた。
ウサギさんはこの階層についてから何かにひどく怯えているようで、今もギュウとリーダーの手を掴んでいる。
「……っ……湊、其処にいるか?」
彼にしては珍しい、震えたような声。
リーダーが「いるよ、ちゃんと」と返すと、ウサギさんは大きく深呼吸をしてまた歩き出す。
「……大丈夫ですか?」
「……大丈夫では、ないな……何かに食べられそうで、震えが……」
(……『食べられそう』?)
彼の呟きに首を傾げていると、真田先輩やコロ丸も同じ疑問を持ったようで、揃って顔を見合わせていた。
「今までもこういった階層はあったはずだが……?」
「……それでも、月の光はあったからな」
ウサギさんが掠れた声でそう返すと、『グオァァ!』とシャドウが飛び出して来た。
僕たちが戦闘体勢に入る前に、彼が「ひ、ぁ」と僅かに後ずさり、カードを形成する。
それは今までと違う、扉の前にドクロが描かれたカードで、『THE DEATH』と表記されていた。
(『死神』……!?)
「っ……イーター!!!!『地獄の叫び』!!!!」
ウサギさんはそう叫び、カードをナイフで『裂く』。
するとそこから現れたのはいつもの白ウサギではなく、目が赤く鋭い鎌を持って笑う、黒ウサギだった。
―メキョメキョ、ゴキャゴキャ。
『ウ、グォ、がァ……』
「お、かあ、さ……おとう、さ……?」
違う。
違う。
異形の、”シャドウ”となってしまった両親に、少年は目を見開いてガクガクと身体を震わせた。
お母さんやお父さんはもっと暖かくて、こんな、こんな形してな、
「……っいやあああああああああああああああああああ!!」
頭を抑えて叫ぶ。
途端、今までいた時計兎のペルソナが真っ黒に染まって、にたあと笑った。
『我は汝、汝は我……我は汝の心の”絶望”より出てし者……『イーター』なり……』
「……ぜ、つぼう?」
少年はイーターを見つめ、茫然とした声で尋ねる。
すると黒ウサギは頷いて、そしてまた笑った。
『汝、我の名を呼び叫べ。我、それに応えよう』
ピクリ。少年の肩が震え、ガチガチ鳴っている口を開く。
「……『イーター』」
―『殺して』。
ウギャアアアアアアアアアア……
おぞましい咆哮をあげた黒ウサギは、目の前のシャドウを次々と口の中に放り込んでいく。
明らかに草食動物ではないその狂気的な行動に、僕らは目を見開き呆然と見ていた。
「う……そだろ……ペルソナが、シャドウを食ってる……!?」
真田先輩の呟きは、ウサギさんには届かない。
「ぅぐ、ぁ、ぎぃ……っ」
彼は必死に頭を抑えて、その声は苦しみに耐えているようだった。
「っ皆!あのペルソナから離れろ!食われるぞ!」
リーダーのその声にハッとなって、僕らは後方に避難する。
やがて全てのシャドウを食べ終わった黒ウサギはキョロキョロと見回しては姿を消し、ウサギさんはリーダーの方へフラリと倒れこんだ。
リーダーはガシッと彼の肩を掴み、驚いたような声をあげる。
「ウサギ!」
「……あ、湊。……げほっ……悪い、変なところ見せたな」
彼は咳き込みながら、ポケットから白い錠剤を取り出してガリッと噛み砕く。
落ち着いたのか立ち上がると、僕たちに向けても「すまない」と頭を下げた。
「……あのペルソナは、何だ?」
桐条先輩がそう言うと、ウサギさんは顔を上げて答える。
「俺の精神が不安定になった時に、たまに出てくる。名前は”イーター”」
「シャドウと食っていたが……?」
「名の通り、捕食を好むからな。俺はシャドウを食べる所しか見たことがないが、性質的にペルソナだって食うことはできるだろう」
「っ危険きわまりないじゃないか!」
真田先輩が叫ぶ。すると彼は、「そうだな」と肯定した。
「だから精神安定剤を飲んでいるし、この10年間制御できるよう何回か使っている。
少し前から薬の投与を減らされていたのが今回祟ったんだろうな。
……この症状が嫌なら、すぐにでも幾月さんに差し出せばいいさ」
ウサギさんがそう言うと、先輩達は顔を見合わせ、戸惑ったような顔になった。
そんな中、コロ丸がウサギさんに「ワフッ!」と飛びついて、その頬をべロリと舐める。
「んっ……何、コロ丸?」
「ワンワン、ワフ!」
「……悪いが、俺はアイギスじゃないから、何を言ってるか分からないぞ?」
「クゥーン……」
「……暗闇、怖いんだっけ」
今まで考え込むように黙っていたリーダーが口を開く。するとウサギさんは、コロ丸を抱えて頷いた。
「ああ。ずっと前からな。でも、薬さえ飲んでいれば症状は薄い。今のような事態になったのも久しぶりだ」
「その症状ってどんなものだった?」
「あんまり覚えてないが……医者曰く、パニック状態になるらしい。暴れたり泣き叫んだり……最初の頃はまともに制御出来なかったから、病院で入院してた時なんかは拘束具で縛ってもらってたな」
「そう……」
平然と語る彼を見て、僕はギュッと槍を握り締めた。
僕だけじゃない。リーダーも、先輩達も、コロ丸も、皆険しい顔になっている。
(……恐怖症、なんてレベルじゃない)
最早、トラウマじゃないか。
(強くなるには、そこまで我慢しなくちゃダメなのかな……)
そう考えて俯いてると、ポンと頭を誰かに触れられた。
見ると、ウサギさんがゴーグル越しにジッとこちらを見つめている。
「気にするな」
「……へ?」
「俺が異常なだけで、他の奴はもっと別の方法で強くなっている。お前も、きっとすぐ強くなれる」
涼やかな、よく通る声。
そう言ってはすぐ離れていき、リーダーに続いて階段を登っていった。
「……はは、自分で異常って、言っちゃいますかね、普通」
僕は苦笑して、その後を追う。
その声に追いつけるように、少しだけ早足で。