夏の終わり
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9月5日。影時間、ポロニアンモール。
全員に招集をかけたはずなのに、いつまで経っても順平の姿が見えなかった。
「順平の様子見てくる。終わったらすぐ戻るから」
そう言ってユキは治療薬やジェムの入ったポーチを湊に預け、クロッカーと共に闇に消えた。
大方、今回の敵も彼等だけで倒せるだろうと踏んでいたからだ。
(声……寮の屋上か?)
周囲のシャドウの呻き声の合間から、微かに人の喋る声が聞こえてくる。
クロッカーに飛び乗り一気に屋上まで駆け上がると、案の定そこに順平ともう一人、少女がいた。
少女は何かを喋り、それに順平は力を抜いたような、諦めたような顔で返している。
突きつけられているのは、銃口。
(……1、2、……3)
地面を蹴り、一直線に少女の銃を手刀で落とす。
少女は驚いたように目を見開いたので、すぐに後ろに回り込み手を組ませ伏せさせた。
「……で、順平君、この子誰?」
そう尋ねると彼は目を丸くして、「チドリ……」とだけ呟く。
「そう。君はなんで、チドリさんといたの?」
「……誘われて、いつもよく喋ってたから、……で、でも!ソイツ、普段はこんな奴じゃないんすよ!」
「それは俺に言われても困るんだが」
ため息をついて、ジイっと彼を見た。
彼はまだ戸惑いが混じっていて、今のまま放置しても危ない。
「あのさ、誰が敵で誰が味方か、なんて、普段だれも考えないし想像しない。
『そんな人じゃなかったのに』ってセリフはね、その人の事を少ししか知らないですって暴露してるようなものだ。
その人がそうした理由も考えない、人格の変化としか片さないで終わらせるなら、順平君とチドリさんの仲もその程度だったって事になる。それは忘れない方がいい」
「じゃ、じゃあ何て言ったらいーんすか!?」
「『チドリの行動を肯定する』」
ユキがそう言うと、順平は目を丸くして彼を見返す。
「簡単だ、否定しなければいい。彼女の生き方も、考え方も。相容れる事がなくとも、理解してやればいい。
……アンタ等はいつもそうやって、”仲間”を作り上げてきただろう?」
月の光が丁度逆光になっていて、順平からユキの表情を伺う事は出来ない。
けれどその淡々とした言葉は冷たくて、僅かに身震いした。
「……ウサギ、さんは、」
「?」
「その……俺達の”仲間”じゃ、ないんすかね……?」
「違うな」
即答。
何よりも早いその返事に、少し悲しくなる。
「俺はアンタ等の”助っ人”だ。それ以上でも以下でもない。
俺とアンタ等では”最終目的”が違う」
「……でも、俺っちの考え方とか、湊の考え方とか、一番理解してるじゃないっすか……」
俺、知ってるんすよ。
順平がそう言うと、ユキの纏っていた空気が僅かに変わる。
「いつも後方でピンチの時にしか助けてはくんないスけど、戦闘以外での統一感っつーか、衝突が少ないのは……ウサギさんがいつもそれより前にそのエネルギーを抑えちゃうからだって」
「……言ってる意味が分かりかねるが」
「ウサギさんだとなんか、皆口が軽くなるんすよ。……この前だって、ゆかりっちと何か話してたでしょ?」
「………」
「真田先輩だって、桐条先輩だって、風花だって、湊だって、……俺だって、一度は戦闘外でウサギさんと話してる。違うっすかね?」
ユキは考え込み、記憶を探る。
真田とは神社で遭遇し、彼の戦う理由を聞いた。
桐条は寮に行ったときに、S.E.E.Sの活動理念を。
山岸はウサギとしてでは無かったが、ユキとして幾つか話を聞いている。
湊はテスト前に必ず勉強を教えるから、そのついでに話を聞くだけだ。
そこまで重要性もないから、聞くだけですぐ忘れているものも多いが、確かに新参の者以外とは戦闘外で話したことがあるといえる。
「……まあ、な」
「俺っちとしては、誰かに聞いて欲しいけど、それを聞いて失望されたくない話ってかなりあるんすよ。
でも、ウサギさんになら言える。絶対失望しないって、信じてるから」
「……」
「もう、俺達にとってアンタは必要な存在になっちまってんですよ……」
ピクリ。ユキの肩が揺れ、しかしすぐに元に戻る。
「だとしても、俺は”助っ人”であることに変わりはない。
アンタ等に必要であろうとなかろうと、俺はどうせ死ぬんだからな。余計な荷物はない方がマシだ」
サラリと言うと、チドリの手を離して順平の方へトンと押す。
彼女はバランスを崩しながら順平にもたれかかり、キッとユキを睨む。
しかしそれも無視して、彼は順平に「ソイツ、暫くは動けないだろうから。じゃあ、後は任せた」と告げ屋上から飛び降りた。
「ちょっ……ここ屋上なんすけど!?……って、いねえし……」
慌てて下を覗くも、既に彼の姿はない。
ため息をついてチドリを見ると、彼女は「……あの人、誰」と低い声で尋ねた。
「あー……うちのグループの助っ人。ウサギさんっていうんだ」
「……ウサギ?」
「おお。……面白い名前だろ?」
「……そうね」
ジャキ。また銃口を向けられるが、先程のような焦りは順平にはもうなかった。
軽く笑いながら受け流すと、丁度タイミングを見計らったように他のメンバーが駆けつける。
―どうせ、死ぬ。
(はーあ……またやっちまったよ、俺……)
あれだけ地雷を踏むまいと思っていたのに、こうもあっさり踏んでしまう自分に腹が立つ。
チドリは少し発作状態になったため、入院が決まったらしい。
(今度も、ちゃんと謝らねーとな……)
あの人のことだから、「気にしてない」で済ましちゃうんだろうけど。
それに甘える事は、あまりしたくないから。
全員に招集をかけたはずなのに、いつまで経っても順平の姿が見えなかった。
「順平の様子見てくる。終わったらすぐ戻るから」
そう言ってユキは治療薬やジェムの入ったポーチを湊に預け、クロッカーと共に闇に消えた。
大方、今回の敵も彼等だけで倒せるだろうと踏んでいたからだ。
(声……寮の屋上か?)
周囲のシャドウの呻き声の合間から、微かに人の喋る声が聞こえてくる。
クロッカーに飛び乗り一気に屋上まで駆け上がると、案の定そこに順平ともう一人、少女がいた。
少女は何かを喋り、それに順平は力を抜いたような、諦めたような顔で返している。
突きつけられているのは、銃口。
(……1、2、……3)
地面を蹴り、一直線に少女の銃を手刀で落とす。
少女は驚いたように目を見開いたので、すぐに後ろに回り込み手を組ませ伏せさせた。
「……で、順平君、この子誰?」
そう尋ねると彼は目を丸くして、「チドリ……」とだけ呟く。
「そう。君はなんで、チドリさんといたの?」
「……誘われて、いつもよく喋ってたから、……で、でも!ソイツ、普段はこんな奴じゃないんすよ!」
「それは俺に言われても困るんだが」
ため息をついて、ジイっと彼を見た。
彼はまだ戸惑いが混じっていて、今のまま放置しても危ない。
「あのさ、誰が敵で誰が味方か、なんて、普段だれも考えないし想像しない。
『そんな人じゃなかったのに』ってセリフはね、その人の事を少ししか知らないですって暴露してるようなものだ。
その人がそうした理由も考えない、人格の変化としか片さないで終わらせるなら、順平君とチドリさんの仲もその程度だったって事になる。それは忘れない方がいい」
「じゃ、じゃあ何て言ったらいーんすか!?」
「『チドリの行動を肯定する』」
ユキがそう言うと、順平は目を丸くして彼を見返す。
「簡単だ、否定しなければいい。彼女の生き方も、考え方も。相容れる事がなくとも、理解してやればいい。
……アンタ等はいつもそうやって、”仲間”を作り上げてきただろう?」
月の光が丁度逆光になっていて、順平からユキの表情を伺う事は出来ない。
けれどその淡々とした言葉は冷たくて、僅かに身震いした。
「……ウサギ、さんは、」
「?」
「その……俺達の”仲間”じゃ、ないんすかね……?」
「違うな」
即答。
何よりも早いその返事に、少し悲しくなる。
「俺はアンタ等の”助っ人”だ。それ以上でも以下でもない。
俺とアンタ等では”最終目的”が違う」
「……でも、俺っちの考え方とか、湊の考え方とか、一番理解してるじゃないっすか……」
俺、知ってるんすよ。
順平がそう言うと、ユキの纏っていた空気が僅かに変わる。
「いつも後方でピンチの時にしか助けてはくんないスけど、戦闘以外での統一感っつーか、衝突が少ないのは……ウサギさんがいつもそれより前にそのエネルギーを抑えちゃうからだって」
「……言ってる意味が分かりかねるが」
「ウサギさんだとなんか、皆口が軽くなるんすよ。……この前だって、ゆかりっちと何か話してたでしょ?」
「………」
「真田先輩だって、桐条先輩だって、風花だって、湊だって、……俺だって、一度は戦闘外でウサギさんと話してる。違うっすかね?」
ユキは考え込み、記憶を探る。
真田とは神社で遭遇し、彼の戦う理由を聞いた。
桐条は寮に行ったときに、S.E.E.Sの活動理念を。
山岸はウサギとしてでは無かったが、ユキとして幾つか話を聞いている。
湊はテスト前に必ず勉強を教えるから、そのついでに話を聞くだけだ。
そこまで重要性もないから、聞くだけですぐ忘れているものも多いが、確かに新参の者以外とは戦闘外で話したことがあるといえる。
「……まあ、な」
「俺っちとしては、誰かに聞いて欲しいけど、それを聞いて失望されたくない話ってかなりあるんすよ。
でも、ウサギさんになら言える。絶対失望しないって、信じてるから」
「……」
「もう、俺達にとってアンタは必要な存在になっちまってんですよ……」
ピクリ。ユキの肩が揺れ、しかしすぐに元に戻る。
「だとしても、俺は”助っ人”であることに変わりはない。
アンタ等に必要であろうとなかろうと、俺はどうせ死ぬんだからな。余計な荷物はない方がマシだ」
サラリと言うと、チドリの手を離して順平の方へトンと押す。
彼女はバランスを崩しながら順平にもたれかかり、キッとユキを睨む。
しかしそれも無視して、彼は順平に「ソイツ、暫くは動けないだろうから。じゃあ、後は任せた」と告げ屋上から飛び降りた。
「ちょっ……ここ屋上なんすけど!?……って、いねえし……」
慌てて下を覗くも、既に彼の姿はない。
ため息をついてチドリを見ると、彼女は「……あの人、誰」と低い声で尋ねた。
「あー……うちのグループの助っ人。ウサギさんっていうんだ」
「……ウサギ?」
「おお。……面白い名前だろ?」
「……そうね」
ジャキ。また銃口を向けられるが、先程のような焦りは順平にはもうなかった。
軽く笑いながら受け流すと、丁度タイミングを見計らったように他のメンバーが駆けつける。
―どうせ、死ぬ。
(はーあ……またやっちまったよ、俺……)
あれだけ地雷を踏むまいと思っていたのに、こうもあっさり踏んでしまう自分に腹が立つ。
チドリは少し発作状態になったため、入院が決まったらしい。
(今度も、ちゃんと謝らねーとな……)
あの人のことだから、「気にしてない」で済ましちゃうんだろうけど。
それに甘える事は、あまりしたくないから。