夏休み
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笛に太鼓、道を照らす提灯に、色めく人と屋台。
一つ一つの出店を巡りながらユキを探していると、「湊」と呼ぶ声が聞こえ前を向く。
「たこ焼き、ひとつ200円ね」
「……ユキ」
黒のVネックの半袖シャツにカーキ色のズボン、前髪が邪魔だったのかヘアバンドをつけたユキは首にかけたタオルで汗を拭きながら「食べる?」と聞いてきた。
「うん、一つもらうよ。……ところで、なんでたこ焼き屋?」
「手伝いだよ、おじさんの。……湊は、あの寮の人たちと一緒じゃないんだね?」
「皆それぞれ、楽しんでるよ」
「そっか」
手際よく具材を追加し、もう出来上がったものをひっくり返しては笹舟に入れていく。
鰹節とソースをかけると「ん。まいど」と金銭を受け取りつつ渡してきた。
「……それで、いつ時間空きそう?」
「おじさんが戻ってきたらなんだけど……あ、来た」
ユキは向こうからやってきた男性を見て、小さく手を振る。
「おじさん。もう向こうの方は大丈夫ですか?」
「おお。あと店じまいまで好きにしてていいぞ。……で、そいつは?」
「えっと……クラスメイトの有里湊です。湊、俺の近所で新聞配達してる、お父さんの元クラスメイトのおじさん。事故があってから、色々お世話になってるんだ」
彼がそう説明すると、おじさんと呼ばれた男は目を丸くした後嬉しそうに細め、「そうか、お前さんがあの……」と手を握ってくる。
「話なら、たまにユキの方から聞いてるよ。もしバイトで困ったこととかあったら、いつでも相談しな」
「あ、はい、ありがとうございます」
「ほら、ユキも友達待たせてねえで、さっさと抜けな!あ、携帯忘れんなよ!」
「はい。では、行ってきます」
ヘアバンドを外し、ギュッと手を掴まれ人混みの中に埋もれる。そのままかき分けて突き進めば、神社の裏側に辿りついた。
「……ユキ?」
「ここ、花火よく見えるから。人もいなくて、好きな場所」
ユキは腰を下ろし、目を細める。
それに倣って腰を下ろせば、ドンという大きな音に続いて空に大きな花が打ち上げられた。
「……綺麗だね」
「うん」
特に交わす言葉もなく、花が夜空に咲いていく様をただ眺める。
「……親とよくここで、花火を見てた」
ポツリと呟かれた言葉に、たこ焼きを頬張りながら彼を見た。
彼はただ花火を見つめながら、「俺の髪と目、おかしかったからさ」と付け足す。
「噂は別に気にしてなかったんだけど、俺が変な目で見られるの嫌だからって。いつも早くから此処に陣取って、お父さんが屋台のもの買いに行って。……まだ、記憶に残ってる」
「……」
「ああいうのが無くなるのって、本当に一瞬なんだよな。……ちゃんと守らないと、呆気なく手から離れていくんだ」
花火を見ているその瞳はただただ透き通っていて、ほろほろと零れ落ちる言葉はすぐ消えてしまいそうな程淡々としていて。
でも、彼にとってひどく大切な思い出を話してもらっていることは分かって、思わず「ユキ」と声をかけた。
「……何、湊?」
「…その、……僕は離れないよ、絶対に」
ユキはキョトンと目を丸くして、けれどすぐに言いたい事が分かったのか「そっか」と目を細める。
「ありがとね、湊」
「いや、その、……別に」
花火に照らされた彼の顔はどこまでも無表情で。
精巧な人形のような整った顔にジッと見られて、思わず少し目を逸した。
少しだけの沈黙。最後の花火が咲き終わると、ガヤガヤと人の喧騒が耳に入ってくる。
「……来年も、」
「え?」
「来年も、再来年も、また二人で花火が見たいな」
僕の言葉にユキは少しだけ、ほんの少しだけ肩を揺らした。
そして、「そうだな」と小さく呟く。
「来年も、見れたらいいな」
―たとえ、全ての戦いが終わっても。
―高校を、卒業しても。
―また、ずっと、二人で。
一つ一つの出店を巡りながらユキを探していると、「湊」と呼ぶ声が聞こえ前を向く。
「たこ焼き、ひとつ200円ね」
「……ユキ」
黒のVネックの半袖シャツにカーキ色のズボン、前髪が邪魔だったのかヘアバンドをつけたユキは首にかけたタオルで汗を拭きながら「食べる?」と聞いてきた。
「うん、一つもらうよ。……ところで、なんでたこ焼き屋?」
「手伝いだよ、おじさんの。……湊は、あの寮の人たちと一緒じゃないんだね?」
「皆それぞれ、楽しんでるよ」
「そっか」
手際よく具材を追加し、もう出来上がったものをひっくり返しては笹舟に入れていく。
鰹節とソースをかけると「ん。まいど」と金銭を受け取りつつ渡してきた。
「……それで、いつ時間空きそう?」
「おじさんが戻ってきたらなんだけど……あ、来た」
ユキは向こうからやってきた男性を見て、小さく手を振る。
「おじさん。もう向こうの方は大丈夫ですか?」
「おお。あと店じまいまで好きにしてていいぞ。……で、そいつは?」
「えっと……クラスメイトの有里湊です。湊、俺の近所で新聞配達してる、お父さんの元クラスメイトのおじさん。事故があってから、色々お世話になってるんだ」
彼がそう説明すると、おじさんと呼ばれた男は目を丸くした後嬉しそうに細め、「そうか、お前さんがあの……」と手を握ってくる。
「話なら、たまにユキの方から聞いてるよ。もしバイトで困ったこととかあったら、いつでも相談しな」
「あ、はい、ありがとうございます」
「ほら、ユキも友達待たせてねえで、さっさと抜けな!あ、携帯忘れんなよ!」
「はい。では、行ってきます」
ヘアバンドを外し、ギュッと手を掴まれ人混みの中に埋もれる。そのままかき分けて突き進めば、神社の裏側に辿りついた。
「……ユキ?」
「ここ、花火よく見えるから。人もいなくて、好きな場所」
ユキは腰を下ろし、目を細める。
それに倣って腰を下ろせば、ドンという大きな音に続いて空に大きな花が打ち上げられた。
「……綺麗だね」
「うん」
特に交わす言葉もなく、花が夜空に咲いていく様をただ眺める。
「……親とよくここで、花火を見てた」
ポツリと呟かれた言葉に、たこ焼きを頬張りながら彼を見た。
彼はただ花火を見つめながら、「俺の髪と目、おかしかったからさ」と付け足す。
「噂は別に気にしてなかったんだけど、俺が変な目で見られるの嫌だからって。いつも早くから此処に陣取って、お父さんが屋台のもの買いに行って。……まだ、記憶に残ってる」
「……」
「ああいうのが無くなるのって、本当に一瞬なんだよな。……ちゃんと守らないと、呆気なく手から離れていくんだ」
花火を見ているその瞳はただただ透き通っていて、ほろほろと零れ落ちる言葉はすぐ消えてしまいそうな程淡々としていて。
でも、彼にとってひどく大切な思い出を話してもらっていることは分かって、思わず「ユキ」と声をかけた。
「……何、湊?」
「…その、……僕は離れないよ、絶対に」
ユキはキョトンと目を丸くして、けれどすぐに言いたい事が分かったのか「そっか」と目を細める。
「ありがとね、湊」
「いや、その、……別に」
花火に照らされた彼の顔はどこまでも無表情で。
精巧な人形のような整った顔にジッと見られて、思わず少し目を逸した。
少しだけの沈黙。最後の花火が咲き終わると、ガヤガヤと人の喧騒が耳に入ってくる。
「……来年も、」
「え?」
「来年も、再来年も、また二人で花火が見たいな」
僕の言葉にユキは少しだけ、ほんの少しだけ肩を揺らした。
そして、「そうだな」と小さく呟く。
「来年も、見れたらいいな」
―たとえ、全ての戦いが終わっても。
―高校を、卒業しても。
―また、ずっと、二人で。