戦う意味
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カリカリと、今日の分の日誌にシャープペンシルを走らせる。
黒板も消し終わり、後はこれを書いて提出するだけだ。
(とはいえ、授業はいつもどおり全部聞いていないけど……)
小等部の頃、よく手伝いまでの時間つぶしに本屋で読んでいたから。
教科書、参考書、問題集。金は使いたくなかったから結局は買わなかったけれど、長期休暇もあったせいか大学レベルの問題集を理解したのはそう遅くなかったと思う。
分からない所は全部暗記して江戸川先生に聞いていたし。あの人はさりげなく教え方が上手いから驚いたけど。
ユキは息を吐いて、もう一人の日直であるはずの男子生徒をチラリと確認する。
彼は先週の期末考査の出来がギリギリだったのか、各教科の先生から出されたプリントを睨みつけながらペンを走らせていた。
日誌を彼の目の前に出すと、そこでようやく彼はこちらを見上げる。
「……え、日直、俺っちもだったっけ?」
伊織順平。彼は目を丸くして、それからすぐにサーと青筋を浮かべた。
表情が豊かな奴だと思う。
「やるべきことは殆どやったから、あと日誌に名前書いてほしいんだけど」
「タイヘンモウシワケゴザイマセン!!」
「……そんなに謝らなくていい」
頭を50度以上下げて謝る彼にそう言うと、彼は元に戻り大慌てで日誌に名前を書いた。
俺はその間に机に置いていた鞄とノートの山を持ち、のんびりと空を見る。
順平が書き終えた日誌を持って振り向くと、キョトンと目を丸くした。
「……あれ、そのノートの山なんだ?」
「鳥海先生に頼まれた。職員室まで」
「ちょっ……俺も運ぶ!」
彼はガタッと立ち上がり、上半分積まれたノートを取る。
「……いいのか?」
「いーのいーの!俺全然仕事やってないし、こんくらいは!」
「……助かる」
行こうかと口にすれば、おおと元気な声が返ってきた。
人気のない廊下。外から聞こえる運動部の声。
あの中に、ゆかりっちや湊、真田先輩がいるのかと思うと、凄く不思議な感じがする。
誇らしくて、羨ましくて。
彼等はきっと彼等なりの方法で、セーシュンを謳歌してんのかね、なーんて。
そんな事かんがえながら職員室前に立っていれば、ガラガラと戸が開いて桜木が出てきた。
「……待ってたんだ」
早く帰ってもよかったのに。
そうぼそりと呟かれ、たははと笑う。
いやホント、なんで帰ってねーんだろ俺。
彼が、教師からの印象がスゲーワリーことも、関わっちゃダメだって言われてんのもわかってんのに。
「いやまあ、なんとなく?」
「……ふうん」
桜木はそれ以上問いかける気もないのか、戸を閉めて歩き出す。
後ろからついていくと、そこで俺は漸く、彼が自分より一回り程小さいのがわかった。
(フーン……身長は、湊と同じくらいか)
何故か、意外だ。
去年転入してきたばかりで、正直正確な噂は知らないけど。
確か上級生をタコ殴りにして病院送りにしたって言ってたから、精々自分と同じくらいだと思っていたのに。
「……桜木ってさ、すげーよな」
「……どういう意味?」
ポツリと口に出た言葉に、桜木は立ち止まり振り返る。
「いや、成績とかいいしさ、なんでも一人でこなしてるフインキあるし」
「……別に。ていうかいきなり何?」
「え?い、いやあ、何も……」
「……へえ」
あ、今のは納得してない声だ。
僅かなトーンの変わり方で、何が言いたいのかわかってしまうのに苦笑する。
あのリーダーと、こーゆーとこはやはりちょっと似てるのかもしれない。
「……まあ、桜木ならいっか。今俺さ、正義の味方してんだ」
「正義の、味方?」
彼は歩き始め、首を傾げる。それに俺は頷いて、階段を上った。
「そーそー。それでリーダーが、俺と同い年でほぼ同じ時期に入ったのにさ、めっちゃつえーしすげーの。
俺みてえなのは所詮ザコっつーか、到底適わないっつーか」
「……」
「それだけならまだいいんだけどよ。そいつ、いつも落ち着いてて、悪とあんだけ戦わなきゃなんねーってのにブラブラしたりしてよ……必死にやってる俺がバカみてーで…」
わりいな、こんな話。そういうと桜木は目を細め、ポソリと呟く。
「別に、バカじゃないと思うけど」
「……はい?」
「あ、ゴメン。独り言」
「……」
さっきの彼と同じような目をしてやると、彼はハアと息を吐いて言葉を続けた。
「……必死にやって悪いことなんかないよ。努力したことをバカにできる人なんていない。どれだけそのリーダーに敵わなくとも、ね」
「……そー、なんかね」
「それと、相手の事全部わかんないのに、薄情だとか最低だって言うのはそもそもがおかしいんだよ。
伊織君は、きっと憧れとか羨ましさが突っ走って妬みに変わってるだけ。
君だって、全然喋ったこともない俺にバカとかふざけた奴だとか言われたらイラつくでしょ?」
「……」
「まあ冗談だけどさ。そのリーダーさんと、もっとちゃんと話してみたら?」
桜木はそう言うと、鞄を手に教室を出る。
その鞄は見るからに軽そうで、少し傷はついて色も褪せているけれど、ちゃんと丁寧に使われているのがわかった。
「じゃあね、伊織君。プリント、頑張って」
「……おー」
軽く手をあげ、また席に置かれたプリントとにらめっこを再開する。
(……努力したことをバカにできる人なんていない、か……)
ふと、彼の言っていた言葉を反芻し、そしてふはと笑う。
(湊の言ってたとおり、めっちゃ喋るんだな、アイツ。
俺、あーゆー事言う奴を、何となくで避けてたのか……)
もしかして、もしかしたら。
桜木は、なんでも一人でこなしているように見えるけど、
本当は、なんでも一人でこなせるようにならなきゃいけないほど、ずーっと一人だったんじゃないか、なんて。
(……買いかぶりすぎ、かねえ……)
プリントの空欄を教科書と睨み合いながら埋めていく、夏休み前の放課後。
俺の心は何故か、少しだけ軽くなっていた。
黒板も消し終わり、後はこれを書いて提出するだけだ。
(とはいえ、授業はいつもどおり全部聞いていないけど……)
小等部の頃、よく手伝いまでの時間つぶしに本屋で読んでいたから。
教科書、参考書、問題集。金は使いたくなかったから結局は買わなかったけれど、長期休暇もあったせいか大学レベルの問題集を理解したのはそう遅くなかったと思う。
分からない所は全部暗記して江戸川先生に聞いていたし。あの人はさりげなく教え方が上手いから驚いたけど。
ユキは息を吐いて、もう一人の日直であるはずの男子生徒をチラリと確認する。
彼は先週の期末考査の出来がギリギリだったのか、各教科の先生から出されたプリントを睨みつけながらペンを走らせていた。
日誌を彼の目の前に出すと、そこでようやく彼はこちらを見上げる。
「……え、日直、俺っちもだったっけ?」
伊織順平。彼は目を丸くして、それからすぐにサーと青筋を浮かべた。
表情が豊かな奴だと思う。
「やるべきことは殆どやったから、あと日誌に名前書いてほしいんだけど」
「タイヘンモウシワケゴザイマセン!!」
「……そんなに謝らなくていい」
頭を50度以上下げて謝る彼にそう言うと、彼は元に戻り大慌てで日誌に名前を書いた。
俺はその間に机に置いていた鞄とノートの山を持ち、のんびりと空を見る。
順平が書き終えた日誌を持って振り向くと、キョトンと目を丸くした。
「……あれ、そのノートの山なんだ?」
「鳥海先生に頼まれた。職員室まで」
「ちょっ……俺も運ぶ!」
彼はガタッと立ち上がり、上半分積まれたノートを取る。
「……いいのか?」
「いーのいーの!俺全然仕事やってないし、こんくらいは!」
「……助かる」
行こうかと口にすれば、おおと元気な声が返ってきた。
人気のない廊下。外から聞こえる運動部の声。
あの中に、ゆかりっちや湊、真田先輩がいるのかと思うと、凄く不思議な感じがする。
誇らしくて、羨ましくて。
彼等はきっと彼等なりの方法で、セーシュンを謳歌してんのかね、なーんて。
そんな事かんがえながら職員室前に立っていれば、ガラガラと戸が開いて桜木が出てきた。
「……待ってたんだ」
早く帰ってもよかったのに。
そうぼそりと呟かれ、たははと笑う。
いやホント、なんで帰ってねーんだろ俺。
彼が、教師からの印象がスゲーワリーことも、関わっちゃダメだって言われてんのもわかってんのに。
「いやまあ、なんとなく?」
「……ふうん」
桜木はそれ以上問いかける気もないのか、戸を閉めて歩き出す。
後ろからついていくと、そこで俺は漸く、彼が自分より一回り程小さいのがわかった。
(フーン……身長は、湊と同じくらいか)
何故か、意外だ。
去年転入してきたばかりで、正直正確な噂は知らないけど。
確か上級生をタコ殴りにして病院送りにしたって言ってたから、精々自分と同じくらいだと思っていたのに。
「……桜木ってさ、すげーよな」
「……どういう意味?」
ポツリと口に出た言葉に、桜木は立ち止まり振り返る。
「いや、成績とかいいしさ、なんでも一人でこなしてるフインキあるし」
「……別に。ていうかいきなり何?」
「え?い、いやあ、何も……」
「……へえ」
あ、今のは納得してない声だ。
僅かなトーンの変わり方で、何が言いたいのかわかってしまうのに苦笑する。
あのリーダーと、こーゆーとこはやはりちょっと似てるのかもしれない。
「……まあ、桜木ならいっか。今俺さ、正義の味方してんだ」
「正義の、味方?」
彼は歩き始め、首を傾げる。それに俺は頷いて、階段を上った。
「そーそー。それでリーダーが、俺と同い年でほぼ同じ時期に入ったのにさ、めっちゃつえーしすげーの。
俺みてえなのは所詮ザコっつーか、到底適わないっつーか」
「……」
「それだけならまだいいんだけどよ。そいつ、いつも落ち着いてて、悪とあんだけ戦わなきゃなんねーってのにブラブラしたりしてよ……必死にやってる俺がバカみてーで…」
わりいな、こんな話。そういうと桜木は目を細め、ポソリと呟く。
「別に、バカじゃないと思うけど」
「……はい?」
「あ、ゴメン。独り言」
「……」
さっきの彼と同じような目をしてやると、彼はハアと息を吐いて言葉を続けた。
「……必死にやって悪いことなんかないよ。努力したことをバカにできる人なんていない。どれだけそのリーダーに敵わなくとも、ね」
「……そー、なんかね」
「それと、相手の事全部わかんないのに、薄情だとか最低だって言うのはそもそもがおかしいんだよ。
伊織君は、きっと憧れとか羨ましさが突っ走って妬みに変わってるだけ。
君だって、全然喋ったこともない俺にバカとかふざけた奴だとか言われたらイラつくでしょ?」
「……」
「まあ冗談だけどさ。そのリーダーさんと、もっとちゃんと話してみたら?」
桜木はそう言うと、鞄を手に教室を出る。
その鞄は見るからに軽そうで、少し傷はついて色も褪せているけれど、ちゃんと丁寧に使われているのがわかった。
「じゃあね、伊織君。プリント、頑張って」
「……おー」
軽く手をあげ、また席に置かれたプリントとにらめっこを再開する。
(……努力したことをバカにできる人なんていない、か……)
ふと、彼の言っていた言葉を反芻し、そしてふはと笑う。
(湊の言ってたとおり、めっちゃ喋るんだな、アイツ。
俺、あーゆー事言う奴を、何となくで避けてたのか……)
もしかして、もしかしたら。
桜木は、なんでも一人でこなしているように見えるけど、
本当は、なんでも一人でこなせるようにならなきゃいけないほど、ずーっと一人だったんじゃないか、なんて。
(……買いかぶりすぎ、かねえ……)
プリントの空欄を教科書と睨み合いながら埋めていく、夏休み前の放課後。
俺の心は何故か、少しだけ軽くなっていた。