休日の早朝。
「バイトを紹介してくれ？……まあ、いいけど」
突然家に訪問してしまったのにも関わらず、彼は欠伸一つなく僕を出迎える。
ほんのちょっと前まで新聞配達をしていたらしく、玉のような汗が彼のシャツに染み込んではあとをつくった。
「ついでに、ユキはどんなバイトをしてるの？」
「えっと……映画館と、ビー・ブルー・ヴィーと、喫茶シャガールと、ワイルドダック・バーガーと、あとエスカペイドと新聞配達にコンビニ、短期なら郵便……そうそう、本の虫でもたまに手伝いしてる」
最後のは給料代わりにパン貰えるけどなという彼に、僕は開いた口がふさがらなかった。
「……それは、やりすぎでは」
というか、いつそんな割り当てこなしてるんだ。
ユキは部活してないとはいえ、僕と同じ学生だ。授業……は彼は聞いてないにしても、課題とか、色々すべきことは多い。
「でも、時間って結構あるし、バイトシフトとか調整すればこのくらいは回せるよ」
サラリと彼はそう言って、僕に前と同じ麦茶をコトリと出した。コップに張り付いた雫は、それがひんやりと冷えた麦茶であることを示している。
「……ついでに、給料は……」
「生活費以外全部口座行き。だから正確な額はわからないけど、足りなくなって困るよりはいいから」
いつも”家に鍵なんて掛けないから”服の裏に隠しているという通帳を少し見せてもらうと、桁が余裕で億にまでのぼっていて目眩がした。
「……」
「まあ、やれる程度でいいと思うよ、最初は」
閉口した僕にぼそりと付け足し、タオルで汗を拭う。
「週１で、取り敢えず出来そうなものから始めていけば、あとは慣れてくから」
「そっか……うん、ありがと」

その後暫く話し込んで、最初はカフェのバイトをしてみようかということで落ち着いた。
もう少しで夏休み。その間にどれだけ稼げるか……