―どうして、どうしてこんなことになってんの？

森山は混乱して、ただ泣きじゃくっていた。

―確かアタシ、風花に謝りたくて、それで……

「……森山さん」

ふ、と。声をかけたのは、フードを外しナイフを仕舞った白い髪の人だった。
ゆっくりと顔を上げると、髪の色に「ヒッ……」と声を上ずらせる。
―白い髪の青年と目を合わせると、殺される。
目を合わせないように少し逸らして、ガタガタと震える歯を必死に抑えようとした。
「や、わた、私……！」
「……今、此処で起こった出来事を、アンタはきっと忘れてしまうだろう。でも、その感情は忘れるな」
彼は涼やかな声で訥訥と言い、そして一言、

「今日は疲れただろ。早く帰ったほうがいい」

と告げ、そっぽを向いてしまった。
―殺され、なかった？
ぽかんと口を開けて彼が時計があるところまで離れていく後を見ていると、周りからはー……っとため息が聞こえてくる。
「また口実がバイトッスかアイツ……」
「いいところ、全部持ってかれたな……」
「最早普段からの鍛え方が違うのか……？是非、トレーニング方法を聞いてみたいものだが……」
あの人と同じように戦っていた、同じ学校の制服を来た三人が、これまた三様の反応を見せた。
私がついて行けずにその様子を眺めていると、そのうちの一人、真田先輩が「おっと」とこちらを向く。
「有里、森山を家まで送ってやれ。もうシャドウに襲われる危険はないだろう」
そう言うと、青黒い髪の転入生―有里が頷き、「立てる？」と私に向かって尋ねた。
「う、うん……ふ、風花は大丈夫なんだよね？」
「ああ、少し病院で検査する必要はあるが、命に問題はないだろう」
「……よ、よかったぁ……」
言葉を聞いて安心したのか力がフッと抜け、彼等がいない方に倒れる。
―あれ、何か、力が入んな……
床の衝撃がくるかと思った背中は、直前に誰かが支えてくれたのかふわりとした感覚に包まれる。
―閉じそうな瞼が最後に映したのは、ゴーグル越しに見つめてくる真っ赤な瞳だった。