失踪と噂
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放課後、グラウンド。
体育着に着替えたユキと一緒に来た僕は、陸上部の部室前で立ち止まる。
「じゃあ、またね」
「……ああ」
スタスタと体育科教師の元へ踵を返すユキを横目に部室を叩くと、数人のユニフォームを着た男子生徒がドアを開けて「よお!」と挨拶した。
「……ちわです」
挨拶し、部室の中に入ると、何故か部員達の顔が僕を通り抜け一点を見つめた状態で一気に固まる。
その視線の先には、さっきまで一緒に歩いていた黒髪のクラスメイト。
「……もしかしてあれ、桜木君?」
「彼、なんで彼処に?」
「体力テストだって」
欠伸を噛み殺しながら答えると、彼等はバタバタと部室からグラウンドに飛び出しユキを睨むように見始める。
ユキは教師の言葉に小さく頷いて、トラックのスタートラインに立っていた。
やや大きめな半袖と短パンを身に纏い腕を伸ばす姿は緊張感も何もなく、少し屈伸すると教師の方を見た。
「……どうしてそんなに注目されてるか、聞いても?」
近くにいたマネージャーらしき人にそう聞くと、「彼、結構速いんだってさ」と端的に返ってきた。
ピッ。
ホイッスルが鳴る。彼は思い切り地面を蹴ったかと思うと、安定したフォームで走り出し一気にスピードを上げる。
確か、1500m走だったか。運動部顔負けの綺麗なブレのない走りに部員達はほう……と羨望の眼差しで息を吐く。
「やっぱ走りが綺麗なんだよなあ……絶対大会出たら全国も夢じゃないのに……」
「部活誘っても絶対5秒で断られんだよ。クソ……イケメンだからか…?」
イケメンは関係ないと思う。
そんな事を思いながら、ふと考える。
(……確かに、まあ、顔整ってるよな……)
今は黒髪のウィッグと金色のコンタクトをしてるから、実際はもっと綺麗なんだけど。
襟足まで伸びる髪に、少しの汗が滲む。
つり気味の丸い瞳は猫のようで、通った鼻も薄く淡い色をした唇も、型にはめた様に彼の美しさを際立たせていた。
ユキは何周かするとゆっくりとペースダウンし、呼吸を整える。(実際そんなに呼吸が乱れてもいないが)
そして教師の合図で他の競技もどんどん終わらせていき、気づいたらもう下校時刻だった。
「よし、もう帰っていいぞ」
「ありがとうございました」
ユキは顔色一つ変えず頭を下げ、そして校舎に戻ろうとする。
するとその先には何人もの人だかりが出来ていて、彼はその手前でピタリと立ち止まった。
「是非!是非我が剣道部に!」
「いやいや!水泳部に!!」
「君ならバスケでもすぐレギュラーになれるよ!」
「バレーでインターハイ目指そうぜ!」
見渡す限りの、運動部勧誘。
(ていうか、何処から見てたんだ……)
ぼうっとその様子を見ていると、案外それはすぐ終わった。
「全て、お断りします」
彼はそうきっぱりと言い放って、人をかき分けることもせず去っていったのだ。
周りの部員は一様に落胆し、バラバラとそれぞれの場所に戻っていく。
「だっよなあ……そうなるとは思ってたわ……」
「流石”雪の精霊”様だ……」
陸上部の面々もため息を吐きながら、部室に戻っていった。
「……”雪の精霊”?」
「桜木君のアダ名。いつも冷静淡々としてるからそれがピッタリだって」
「……王子、とかじゃないんだ」
「だって、王子みたいにキラキラしてないしー、どちらかといえばフワフワしてる精霊の方が近いっしょ」
女マネはそういいながら、部日誌に今日の予定を書き込んで職員室に出しに行く。
(フワフワ……確かにな……)
学校でも、いつの間にかいなくなっていたり、寝ていたり。掴みどころのない点では妖精とか、その類に近い。
担任の鳥海先生だって、彼に用事がある時は教室まで来て首根っこを掴んで連れて行くくらいだ。その光景は他の生徒に取って見慣れたものであるらしく、誰も何も言わない。律儀に背を丸め足を引きずらないよう曲げて連行される彼の姿は面白いものがあるが、基本教師から彼に向けられる視線は相変わらず冷たいし、彼はなんでもないかのように独りでいる。
(……僕も、前の学校ではそうだったけど)
湊は、自分の過去を振り返っては頭を掻く。
親戚巡りで上手く回りに馴染めなくて、結局は馴染むのでなく溶け込むことにしたように。
彼もまた、けれど少し堂々と生きているように見えて、羨ましいなと思った。
体育着に着替えたユキと一緒に来た僕は、陸上部の部室前で立ち止まる。
「じゃあ、またね」
「……ああ」
スタスタと体育科教師の元へ踵を返すユキを横目に部室を叩くと、数人のユニフォームを着た男子生徒がドアを開けて「よお!」と挨拶した。
「……ちわです」
挨拶し、部室の中に入ると、何故か部員達の顔が僕を通り抜け一点を見つめた状態で一気に固まる。
その視線の先には、さっきまで一緒に歩いていた黒髪のクラスメイト。
「……もしかしてあれ、桜木君?」
「彼、なんで彼処に?」
「体力テストだって」
欠伸を噛み殺しながら答えると、彼等はバタバタと部室からグラウンドに飛び出しユキを睨むように見始める。
ユキは教師の言葉に小さく頷いて、トラックのスタートラインに立っていた。
やや大きめな半袖と短パンを身に纏い腕を伸ばす姿は緊張感も何もなく、少し屈伸すると教師の方を見た。
「……どうしてそんなに注目されてるか、聞いても?」
近くにいたマネージャーらしき人にそう聞くと、「彼、結構速いんだってさ」と端的に返ってきた。
ピッ。
ホイッスルが鳴る。彼は思い切り地面を蹴ったかと思うと、安定したフォームで走り出し一気にスピードを上げる。
確か、1500m走だったか。運動部顔負けの綺麗なブレのない走りに部員達はほう……と羨望の眼差しで息を吐く。
「やっぱ走りが綺麗なんだよなあ……絶対大会出たら全国も夢じゃないのに……」
「部活誘っても絶対5秒で断られんだよ。クソ……イケメンだからか…?」
イケメンは関係ないと思う。
そんな事を思いながら、ふと考える。
(……確かに、まあ、顔整ってるよな……)
今は黒髪のウィッグと金色のコンタクトをしてるから、実際はもっと綺麗なんだけど。
襟足まで伸びる髪に、少しの汗が滲む。
つり気味の丸い瞳は猫のようで、通った鼻も薄く淡い色をした唇も、型にはめた様に彼の美しさを際立たせていた。
ユキは何周かするとゆっくりとペースダウンし、呼吸を整える。(実際そんなに呼吸が乱れてもいないが)
そして教師の合図で他の競技もどんどん終わらせていき、気づいたらもう下校時刻だった。
「よし、もう帰っていいぞ」
「ありがとうございました」
ユキは顔色一つ変えず頭を下げ、そして校舎に戻ろうとする。
するとその先には何人もの人だかりが出来ていて、彼はその手前でピタリと立ち止まった。
「是非!是非我が剣道部に!」
「いやいや!水泳部に!!」
「君ならバスケでもすぐレギュラーになれるよ!」
「バレーでインターハイ目指そうぜ!」
見渡す限りの、運動部勧誘。
(ていうか、何処から見てたんだ……)
ぼうっとその様子を見ていると、案外それはすぐ終わった。
「全て、お断りします」
彼はそうきっぱりと言い放って、人をかき分けることもせず去っていったのだ。
周りの部員は一様に落胆し、バラバラとそれぞれの場所に戻っていく。
「だっよなあ……そうなるとは思ってたわ……」
「流石”雪の精霊”様だ……」
陸上部の面々もため息を吐きながら、部室に戻っていった。
「……”雪の精霊”?」
「桜木君のアダ名。いつも冷静淡々としてるからそれがピッタリだって」
「……王子、とかじゃないんだ」
「だって、王子みたいにキラキラしてないしー、どちらかといえばフワフワしてる精霊の方が近いっしょ」
女マネはそういいながら、部日誌に今日の予定を書き込んで職員室に出しに行く。
(フワフワ……確かにな……)
学校でも、いつの間にかいなくなっていたり、寝ていたり。掴みどころのない点では妖精とか、その類に近い。
担任の鳥海先生だって、彼に用事がある時は教室まで来て首根っこを掴んで連れて行くくらいだ。その光景は他の生徒に取って見慣れたものであるらしく、誰も何も言わない。律儀に背を丸め足を引きずらないよう曲げて連行される彼の姿は面白いものがあるが、基本教師から彼に向けられる視線は相変わらず冷たいし、彼はなんでもないかのように独りでいる。
(……僕も、前の学校ではそうだったけど)
湊は、自分の過去を振り返っては頭を掻く。
親戚巡りで上手く回りに馴染めなくて、結局は馴染むのでなく溶け込むことにしたように。
彼もまた、けれど少し堂々と生きているように見えて、羨ましいなと思った。